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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第四章
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第四章 緋鬼ル・グウェイ(2)

 「死体」が宮廷を闊歩し、王を陥れている。


 一見、突拍子もないことのように思われるが、実はそうでもない。まったくあり得ないことではないのだ。――というのも、禁断の邪法に関する書物の中には、「屍を操る魔法」について記載されている。(※書物はそのやりかたを記したものではない。詳しい方法を記したものがあれば、たちまち焚書となるであろう)


 『邪法とその対処法』というルーン王宮蔵の古文書によれば、それは、邪法の中では比較的簡単な低級魔法であるという。学問所の最高魔道官であり、所長を兼任するソリス・メリルは、魔道士アゼルに対する王の異常な入れ込みようを見て、「これは、邪法の中の『蠱惑の魔法』では」と疑った。そして邪法に関して調べながらアゼルの周辺を洗っているうちに、彼の実母から証言を得たのである。


 アゼルは、ある日を境にまったく性格が変わってしまった。もともとは明るくてよく笑う、優しい青年であったという。彼は父を亡くし、母と二人で暮らしていた。しかしあるとき、なぜか三日ほど帰ってこなかったことがあった。


 アゼルの母は彼を心配してあちこち訪ね歩いたが、彼の行方はいっこうにわからない。師のヘカインによれば、アゼルは魔道士修業の最中にふっと姿を消したという。そのときまで、おかしなことは何もなかった。


 母親の心配をよそに、アゼルは姿を消した三日後に何食わぬ顔で家に戻った。そして翌日には普通の生活に戻ったが、どこかおかしい。ほとんど笑わなくなり、冗談も言わない。帰宅しても寝るだけで、家で食事をとらない。何を話しかけても答えず、母の存在はほとんど無視している。彼女はついに怒って、アゼルの頬をはたいた。すると彼の頬は、ぞっとするほど冷たく、生きた人間とは思われぬ手触りだった。


 メリル卿は、調査にあたらせた魔道士からその証言を聞いてすぐ、ヘカインを呼びつけ事実関係を確認した。ヘカインはアゼルの変化に気づいていたが、彼に口止め料を渡されて黙っていたのだ。そんな男を宮廷に推挙した彼の責任は重い。本来ならば獄死刑である。だが、すぐに処刑すればすべてをアゼルに悟られてしまう。


 慈悲深く賢明なメリル卿は、魔道士ヘカインに対して、処罰を免ずるかわりに別の仕事を要求した。それは、宮廷魔道官たちのかわりに、アゼルの死体を操っている邪法の使い手を、秘密裏に突き止めることであった。


 一方で、メリルは邪法の解除法を調べた。古代の邪法に関する調査は、当初は資料がどこにあるかもわからず、難航をきわめた。だが、比較的低級の魔法であったことが幸いして、どうにか糸口を掴むことができた。死体を操る遠隔操作の魔法は、死体にとりつけた『種』を媒介して行うものである。その種は、心臓の位置にある。つまり心臓の部分を射抜けばよいのであるが、『種』を破壊するには、ある特殊な金属が必要なのだった。


 メリル卿の報告の内容を話し終えたシド・ヴァーンは、召使に命じて飲み物を持ってこさせた。


 いま、シドと二人の竜騎士は書斎で話をしている。城内に不審な者がいないことはディーンが確認しているのだが、念には念を入れてということと、さすがに大勢の前では話しにくい内容だったので、もう少し落ち着ける場所へ移動したのだった。そしてその場には、ディーンとカイトの二人も同席していた。


「長い間、その金属の入手が困難でな。打つ手がなかったのだ」

「ふむ。シェルメル公爵が捜しておられたのは、それか」

「噂になっているのか?」


 グウェイの言葉に、シドはやや不安げな顔をした。無理もない。アゼルに睨まれれば、いつどのようにして命を落とすか、知れたものではないのだ。


「いや。邪魔をしろ、という指令を受けたのでね」


 その一言は、シドを困惑させた。シェルメル侯からは、無事にその金属を入手したとの報告を受けている。その手紙が偽物なのではないかという疑念が、彼の脳裏を掠めた。


「それはありません、父上」


 長椅子に腰掛けたディーンが、膝の上で本を開いたまま横槍を入れた。


「グウェイ殿がその指令を遂行せざるを得なくなる前に、それは取り消されたのです。アゼルを操っている邪法の使い手は、行き当たりばったりというか……無計画ですね」


 話しながら、ディーンはギレンと目が合った。勇壮な鎧に不似合いな、繊細に整ったギレンの顔が少し曇った。彼女の頭の中に、「悪魔」という二文字がちらついたのである。


「ぼくは悪魔ではありませんよ」


 ディーンはギレンの青い瞳をまっすぐにみつめながら、そう言った。ギレンはハッとして、俯きかけていた顔を上げた。それから、シドの顔をみた。心を読む者をそばに置いて暮らすのは、並大抵のことではない。


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