第三章 騎竜百人隊の来襲(7)
シドは重い口調になった。何人かの騎士は俯き、暗い表情をした。顔を歪めて泣きそうな者もいる。
「だが、わたしはどうしても兄を救いたかった。それで、やや強引な手段をとった。スレイブズ、シェルメル侯を覚えているだろう」
「はっ、何度かお会いしました」
スレイブズと呼ばれた騎士は、顔を上げた。体が大きくがっちりとした、男らしい顔立ちの騎士である。シドは彼の目を見たあと、すぐに別のほうを向いた。
「ではサンブルディ、ル・グウェイという男を知っているか」
「はっ」
まだ若い金髪の騎士が顔を上げた。やや華奢だが、よく鍛えられた精悍な顔つきである。
「名前だけは存じております」
「それだけか?」
「……綽名と、名声も」
シドは快活に笑った。サンブルディの冗談めいた回答が、よほど面白かったらしい。すこぶる機嫌のよさそうな笑顔である。一同はまったく訳がわからずに、互いの顔を見合わせた。ディーンとカイトは、ただ無表情にシドをみつめていた。
「誰か、この二人の共通点を知る者はいるか」
ディーンが手を挙げた。するとシドが、
「おまえはいい、他の者は?」
と言い、ディーンの手を下げさせた。他に手を挙げる者はいなかった。シドは軽く溜め息を吐き、ほっとしたような笑顔を見せた。
「誰も知らないようだな……そう、そのほうがいい。では、今後のために言っておくとしよう。実を言うとシェルメルもグウェイも、わたしと剣を交えた仲なのだ。リンド、この意味がわかるか?」
「えっ……」
リンドと呼ばれた従者は戸惑った。シドはニヤッと笑い、「それでいい」と言った。気の弱そうなリンドは、かわいそうに、焦燥のあまり耳まで真っ赤になっている。
「今日のよき日に感謝するとしよう。我が同門の友、腹心二人の健闘を祈って――乾杯!」
シドが杯を掲げて言い放った瞬間、騎士たちの目が、急に輝いた。
「乾杯!」
騎士たちは全員、赤い食前酒が注がれた杯を額の上につけた。これは、祝い事と戦争に行く者たちを見送るときのしるしである。彼らにもようやくシドの言葉の意味がわかったのだ。
「ねぇ、『腹心』て何?」
シルヴィが母に問いかけた。スクルドは優しい微笑を向けて、耳打ちした。
「同じ心、同じ気持ちを持つ者どうし……ということよ」
はじめは意味のわからなかった従者や召使たちも、騎士たちの嬉しそうな様子を見るうちに、だんだんと状況が理解できてきたようだ。波紋のように、彼らの間に喜びが徐々に広がった。
「シド・ヴァーン大公殿下、万歳!」
飲み干した空の杯を掲げ、騎士サンブルディが満面の笑顔で叫んだ。
「万歳! 万歳!」
主を讃える騎士たちの声は、城じゅうに響き渡った。




