第三章 騎竜百人隊の来襲(6)
彼らの様子を、魔道士アゼルが水盤に映していた。シルヴェウス王は眠たい目をこすりながら、それをどうでもよさそうに眺めた。
「別に、シドまで殺す必要はないと思うのだがな」
と、王はつぶやいた。
「悪魔の双子がシドを誑かしたのなら、双子さえ死ねば問題なかろう」
アゼルは無表情であった。
「もう遅いですよ。グウェイにはヴァーン公を処刑するよう命じましたから。今から伝令を飛ばしても、到着するのは明日です」
「そうか。魔法で伝えられればいいのだがな。不便なものだな」
「魔法とて万能ではありません。この『水面鏡の魔法』は音が聴こえませんし……それでも、何もないよりは遥かに良いでしょう」
次にアゼルは、呪文を唱えてシュブラウス城の中を映し出した。やつれた顔で、朝食の席に着くシド・ヴァーンが映っている。声は聴こえないが、何かを話している様子だった。弟の顔を見た瞬間、シルヴェウス王はぴくりと眉を震わせた。王の容姿は、年齢に見合わないほど老け込んでいる。まだ三十過ぎなのに、鳶色であるはずの眉毛には、既に半分ほど白いものが混じっていた。
数年前には若獅子のようであったシルヴェウス王の外見は、いつのまにか、老犬のような弱々しい姿に変わってしまっていた。水盤の中に映った雄々しいシドの容貌と見比べると、たった一歳の違いであるにもらず、まるで親子ほど離れているかのように見えた。
***
多くの者にとっては、いつもより早い朝食だった。
普段なら、シド・ヴァーンと妻子たちが食事をとって、しばらくのちに従者と騎士たち、そのあと乳母や召使たちが食事をとるという順番だ。
だが、今朝はなぜか配膳係の召使と調理師たち及び門番・見張り番以外、全員が揃って朝食をとるとシドが決めた。そのため、調理師と配膳係はかつてないほどの忙しさになった。
シュブラウス城の食堂には、必要以上に長い食卓がある。その椅子は、半分以上が普段は使われず、倉庫にしまってあった。久しぶりに出したので、磨きこまれていない椅子が多かった。よく使われている家具は、つやつやと黒く光る。
暖炉には、新しい炭がパチパチ音をたてて、爆ぜている。冬場の食堂はいつも冷え込んでいるのだが、今朝は大勢の人の体温によってあたためられ、大時計の左右にある縦長の大窓が、白く曇っていた。
「今日のよき日は、天地の恵み。ともに火を、ともに土を、ともに風を、ともに水を。天地の恵みに感謝します」
いつも通りの祈りを済ませ、さあ食べようというところで、シドは全員に「待った」をかけた。
「皆の者、聞いて欲しい。食事の前に重要な話をしなければならぬ。今日これだけの人数をここに集めたのは、他でもない」
みな一斉に注目した。シドは全員の視線を浴びながら、ゆっくりと言い放った。
「……我らの崇敬する王、そして我が愛する兄、シルヴェウス王には悪魔が取り憑いている」
従者たちは息をのんだ。誰もがわかっていながら、敢えて口に出さなかったことである。
「まことに遺憾であるが、そのことをわかっていながら……いままで、どうすることもできずにいた」




