第三章 騎竜百人隊の来襲(2)
王都ルベイでは軍備が進んでいた。いまや魔道士アゼルの私兵と化している「騎竜百人隊」は、もともと一流の戦士をよりすぐって集めた精鋭部隊である。アゼルは隊長に王の密命を伝えた。
「黒の森にき、シュブラウス城を攻略せよ」
「はっ」
「その際……」
アゼルは声をひそめて、隊長ル・グウェイに耳打ちした。
「シド・ヴァーンは殺せ。夫人と娘は確保せよ。そして、双子の王子は兄のほうだけ捕らえ、わたしのところへ連れてこい。弟のほうは火矢で射るのだ。それから、竜狩り用の鎖網で捕らえ、石牢に」
わずか八歳の子どもに対して、それはあまりにも残酷な指令だった。しかしル・グウェイは、それを聞いても眉ひとつ動かさなかった。もっとも、彼の眉があるべきところには、一本の毛も生えてはいないのだが。
「竜狩り用の鎖網」とは、鉛を混ぜた銀の鎖に、重石をつけた巨大な網である。それは、竜戦車の大きさを超えるような、とびぬけて大きい古代種の竜を捕らえるために使う、竜狩り専用の武具なのだ。そもそもが滅多に表に出すものではないが、人間に対してそれを使うことなど、まずあり得ない。これはつまり、アゼルが双子を「人間ではない」と言っているのと同じことだった。
「本当に悪魔なのでしょうか?」
副隊長のギル・ギレンが、鉄箱に入った鎖網を運ばせながら、ル・グウェイに言った。
「さあな」
ル・グウェイは頭巾を取って、毛のない頭をつるりと撫でながら答えた。
「どの道、わたしは自分のやるべきことをやる。それだけだ」
騎竜百人隊の隊長である百戦錬磨の騎士、ル・グウェイ。常に緋色の頭巾を身につけていることから、「緋鬼グウェイ」と渾名をつけられている。彼は九十九人の部下を連れて、落陽と同時に、ヴァーン領「黒の森」へ向かった。
竜騎士ル・グウェイ率いる「騎竜百人隊」は、おもに飛竜隊と走竜隊で組織されている。
飛竜とは、翼の発達した小型の竜で、人を乗せて飛ぶことができる。「風の竜」のと言われる、翼竜の子孫である。もしも翼竜を一頭でも操ることができれば、最強の軍隊を持つことになるだろう。しかし翼竜の一族は、もはや現存していない。飛竜を操るということは、向かうところ敵なしといった具合である。特に、城攻めには絶大な威力を発揮する。
しかし、飛竜もいまや数が少ない。そして、彼らを慣らしたり御したりするには、相当な訓練が必要である。なにより餌にかかる費用がすごい。飛ぶことでかなりの力を使うのだろう、文字通り牛飲馬食といったところだ。飛竜は戦争に欠かせない戦力だが、この大食と、食後しばらく動けなくなるのが玉に瑕である。
走竜は、飛竜に比べればずっとおとなしく、人に慣れやすい。彼らは脚竜の子孫である。脚竜よりずっと小型で、人の使う長距離移動手段としては、いまや最も一般的なものになった。その理由は、竜にしては珍しく草食ということにある。それほど大量に食べるわけでもない。ただ、水を大量に飲む。水の少ない地域では生きることができない。そのため砂漠の国ティクには、ほとんどいない。
騎竜百人隊の隊長と副隊長を識別するのは実に容易で、遠目に見てもすぐにわかる。彼らは、二人とも特別な竜に乗っているのだ。
それは、金色の鱗に包まれた大型の古種――「輝甲竜」。現存する野生の輝甲竜は、もはや五十頭程度しかいない。そして、人が乗っている輝甲竜は、世界にたった二頭のみ。つまり輝甲竜騎士は、ル・グウェイとギル・ギレンの二人だけなのである。




