第十三章 質実剛健(9)
斧槍を携えたギレンを見て、スレイブズは顔色を変えた。ギレンの意図は、真っ向から勝負を受けて立つということだ。彼は闘志を剥き出しにし、荒々しく定位置へ向かった。
ひそひそと騎士たちの囁きが聞こえた。
「重過ぎるだろう」
「ああ。武器に振り回されるんじゃないか」
「男でも手に余るのに、女の腕じゃな……」
彼らの声には、ギレンへの同情や心配はない。むしろ、もしかしたら女の騎士が自分たちの上に立つのではないか、という危惧が感じられた。つまり、騎士たちは誰一人として、ギレンの勝利を望んではいない。――ギレン自身と、グウェイの二人を除いては。
スレイブズは、ギレンが定位置についたのを見ると、まず判定者を指名した。
「主審、上級騎士グレイアス・サンブルディ!」
指名されたサンブルディは、主審の位置に立って兜を被った。巻き込まれて怪我をしないようにするためだ。
騎士試合で主審となることができるのは、上級騎士のみである。この城には、スレイブズとサンブルディのほかには、上級騎士がグウェイとギレンしかいない。まさかグウェイを主審に指名するわけにはいかないだろう。
「副審、竜騎士ル・グウェイ!」
スレイブズは、グウェイが上級騎士であることはもちろん知っている。だが、わざわざグウェイとギレンに限って竜騎士と呼んだ。二人がヴァーン公でなく公子に誓いを立てた者であることを、わざと皮肉っているのだ。
スレイブズに呼ばれたグウェイは、悠然と闊歩して副審の位置につき、金色の兜を被った。その振る舞いは、隊長のスレイブズよりも貫禄があり、威風堂々としたものである。騎士たちは顔を見合わせた。
主審に選ばれたサンブルディが、「では……」と手を挙げようとしたとき、先にギレンが斧槍の尻で鋭く絨毯を突いた。見晴らしのいい広場に、ずしんと鈍い音が響いた。
「お待ちください、わたくしにも言いたいことがあります!」
ギレンは怒気をはらんだ声で叫んだ。一同はしんと静まりかえって、ギレンの言葉を待った。ギレンは斧槍を右手に携え、左手には兜を持って、高らかな声を朗々とわたらせた。
「スレイブズ隊長は先ほど、このように仰った! もしもわたくしがこの試合に負ければ、もはや登城を許さないと! それをわたくしは承諾いたしましたぞ! では、もしもわたくしが勝ったときは、どのようになさるおつもりか!」
スレイブズは目を細めた。グウェイは眉ひとつ動かさなかったが、深く被ったケープの下でキリウは少しだけ微笑んだ。
「むろん、そのときには――」
騎士隊長スレイブズはいったん言葉を切り、ごくりと唾を飲んだ。
「――そのときには、貴殿の望むようにしよう」
「わかりました」
ギレンは頷き、それからいっそう大きな声で叫んだ。
「では、わたくしが勝った暁には、もう二度とこのような茶番は止してもらいたい! なぜ、同じ城の騎士同士が戦々恐々としていなければならないのか。確かに逞しくはなりましょうが、これでは恐怖政治と同じではないのですか! わたくしは、騎士同士にはもっと心の繋がりを強く持ち、順位などつけずに、皆で力を合わせて城の守りについてもらいたいのです!」
スレイブズは蒼白となった。シュブラウス城の騎士たちは石像と化したように固まり、誰も何も言わなかった。




