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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第十三章
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第十三章 質実剛健(8)

「どんな覚悟か、見せていただきたいものだな」


 ずしりと重みのある一歩で、スレイブズが絨毯を踏んだ。彼の手にした武器は斧槍、腰には幅広の長剣を佩いている。


「武器を選ばれよ」


 スレイブズが、石畳の上に並べられた数々の武具を顎で示した。二人が向かい合ったその右側に、整然と武具が並べられていた。


 ギレンはそれらをゆっくりと眺めやった。そしてスレイブズが持っているのと同じ斧槍を見た。盾も、小型の円形盾と大型の十字盾が両方そろえてある。


 ギレンは長剣を選んで、腰に佩いた。おおっ、というどよめきが騎士たちの間に広がった。女の身に似合わぬ無骨な武器である。半ば嘲笑うように口を歪めた騎士もいる。だが、ギレン自身は見栄を張ったわけではなく、単に細剣よりこちらのほうが使い慣れているだけのことだ。


 そしてギレンは、次に円形の軽い小型盾を手に取った。それから、斧槍に対抗する武具はどれかと考えた。同じ斧槍か、それとも斧か、あるいは鉾か。選択肢はこの三つ。


 斧槍は、片側が剣のように鋭く、反対側が斧になっている。相当重いが、その分攻撃力の高い武器であることは確かだ。あれで襲いかかられたら、この盾ではひとたまりもない。この場合、盾は、槍をすてて剣で戦うときに使うものと考えている。スレイブズもおそらくは同じ理由で、左手に円形の盾を装着しているのだろう。


 斧は重くて手に余る。使えないことはないが、迅さで負けることになる。では、槍は。確かに使いやすいが、斧槍には引っ掛けられ、弾き飛ばされてしまうだろう。あるいは折られるかもしれない。残るは半月斧か鉾か。


 鉾は剣先のような刃がつき、槍よりも攻撃力がある。突く、斬る、どちらの使い方もできる。半月斧は、斧槍と同じように威力のある武器だが、攻撃力が高いわりに比較的軽いのが特徴だ。このどちらかがいいだろう。


 ギレンは、ディーンとカイトのいる物見塔を仰ぎ見た。二人の表情はわからないが、見守ってくれているのを感じる。カイトの視線が、優しく自分に注がれているのを。


 スレイブズの顔を見ると、意外にも真剣な眼差しでギレンの動向を待っていた。女だからといって、軽んじている風ではない。ギレンは少しだけ後ろを振り返り、サンブルディのほうを見た。肩まで金髪の巻き毛を垂らした長身の青年騎士は、兜を脇に抱えてまっすぐに立ち、心配そうにこちらをみつめていた。よろめきでもすれば、すぐに駆け寄ってきそうな表情だ。


(あの人は、わたしを女として見ている)


 ギレンはやっとそれに気づいた。スレイブズとサンブルディの間には、どうも微妙な力関係があるようだ。


 ギレンは、目を閉じて深く息を吐いた。鉾と半月斧、それぞれの武器で斧槍と戦った場面を思い浮かべてみる。どちらも、スレイブズの振るう斧槍に勝てるイメージではない。


 思い切って、斧槍を選んだらどうだろうかと考えた。おそらく、腕力では敵うまい。しかし斧槍は使い勝手がいい。グウェイの技量とは比べ物にならないが、迅さの点では他の騎士にそうそう負ける気はしない。五分五分の戦いができるとすれば、もしかしたら斧槍かもしれない。しかし、重い。もしも長引いたら不利になる。


 ギレンは目を開いて顔を上げ、シド・ヴァーン公を見た。彼は優雅な微笑を浮かべ、興味深げに見守っている。その隣に座っているスクルド夫人は、いかにも心配そうな蒼白い顔をしていた。ギレンが怪我をするのではないかと危ぶんでいるのだろう。


 もちろん、すぐそこに上級魔道士が数人控えているから、たとえ腕がぶった切られても命を落とすことはあるまい。ディーンとカイトもいてくれる。安心して、全力で戦えばよい。


 騎士試合では、相手の命を即断するような攻撃は禁じられている。たとえば心臓部への突き、首や頭、もしくは急所への攻撃だ。誤って頭部にかすってしまった場合には、ハンディを負わされる。


 ギレンはかつての上司ル・グウェイのほうを見たが、彼はどこを見ているのかわからない。線のように細い眼をさらに細めて、なにやら考え込んでいるようだ。


 ふと気づくと、武器を選びかねている自分のちょうど正面に、茶色のケープを着た魔道士が立っていた。きらりと輝く大きな鳶色の瞳、彫りが深くぴんと通った美しい鼻筋、形の整った桜色の唇、まだ少年の雰囲気を残した頬と顎。キリウ・リンド事務官である。


 目が合うと、キリウは斧槍を見て微笑んだ。それで、ギレンにもぴんときた。彼の意図は、スレイブズの鼻をへし折ってやれということだ。斧槍はスレイブズのもっとも得意とする武器であり、これでマーサリアの試合にも高い戦績を残している。


 手を伸ばし、ギレンは斧槍を掴み取った。これで負けたなら自分も悔いはない。たとえ城の外で番をすることになっても、カイトに仕えることはできる。いまさら、何を惜しむ必要があるだろうか。


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