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竜の剣  作者: 高倉麻耶
第一部 第三章
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第三章 騎竜百人隊の来襲(1)

第三章 騎竜百人隊の来襲


「封印の解除に失敗したことで、カイトは必要以上の力を解放されてしまった」


 ディーンは、シドに対してこのように説明した。無論、彼が賢者と同じ知識を有している訳ではない。これまでの学習の成果と自分の持つ感覚から、このように推論を立てたのである。


 ディーンの推測によれば、この印の解放呪文は錠前のようなものであり、鍵はみずからの回答なのだという。ディーンは自分が火竜の転生者であることを自覚しており、同様にカイトも地竜の転生者であると自覚していた。火竜は光と炎の力を持って、風を司る神である。同じく地竜は大地の力を持って、水を司る神である。


 解放呪文を問いとして立てられたとき、ディーンが「火」と答えたように、カイトは「地」と答えねばならなかった。しかし、彼が発した音は「ア」といって、これは「アーフ(全ての開始)」という意味になる。そのため、カイトの体には「徐々に始まるすべての力の解放」が始まってしまったのだ――ディーンは、そのように考えていた。


 無論、シドはその説に異を唱えることはできなかった。もともと魔法は、武人の彼が得意とするところではなかったし、彼は賢者に教えられた通りのことを、意味もわからずにやっていただけに過ぎない。カイトにどのような異変が起こるかは予想もつかず、今後の対処もディーンに任せるしかなかった。


ディーンは「父上のせいではありません」と慰めたが、シドは自分を責めずにはいられなかった。彼は傍目にもわかるほど憔悴し、やつれ始めた。


 カイトの体は、遠目に見た限りでは今までと変わらなかった。しかし近くに寄ってみれば、その違いは歴然たるものだった。シルヴィはカイトの姿に怯えて泣き出し、スクルド夫人も近寄ろうとはしなかった。


カイトはますます心を閉ざし、あれほど好きだった武術の訓練も、すっかりやらなくなってしまった。そして、ケープを深く被って顔を隠し、魔道士のような格好で過ごすようになった。


 いっぽうディーンは、すっかり健康な体になった。彼の皮膚はカイトと違って、普通の人間と同じように傷つき、血を流す。今までと様子の変わったことと言えば、病弱だったのが急に治って、武術の訓練に勤しむようになったこと。これは、周囲の人々を安堵させ、我がことのように喜ばせた。


 城の者たちは、ディーンに対してはこれまで以上に親しく接した。そして、禍々しい姿に変わってしまったカイトだけを、人間扱いしなくなった。彼は、人々からディーンの影のように扱われた。唯一シド・ヴァーンだけが変わらずに、今までどおりの態度で彼と接していた。


 いつもカイトは、ディーンがシドに教えられて剣の練習をするのを、やや離れて遠くから見ていた。シドが誘っても、カイトは首を横に振るだけだった。シドは、それを鬱屈しているのだと誤解していた。だが、ディーンは「違います」と言った。


「いまのカイトが剣を一振りしたら、父上が死んでしまいます」


 その言葉は、シドを心底ぞっとさせた。しかし、深まってしまったカイトの孤独と、彼の心根の優しさを知ったシドは、剣をおさめて彼に歩み寄り、涙を流して抱きしめた。ケープで隠れたカイトの肌には、鱗のようなものができ始めていた。それを、シドは自分の責任と感じ、いっそう心を痛めるのだった。


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