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(1)悪役令嬢は婚約破棄される

 いろとりどりの料理。

 綺麗なドレスを着た女性達と礼服を着た男性達が時には話し、時には踊っている。

 

 今日は、学園の卒業記念パーティーだった。

 やっとここまで来た。

 そう思っていた。



「リーシャ・ラングリーズ!!次期女王たるラピスを虐げ、彼女の持ち物を壊し、挙句の果てに彼女を階段から突き落とすという悪行の数々!!この場において貴方との婚約を破棄し国外追放とする!!」



 非常に見覚えのある桃色の髪の女性を抱きしめながら、婚約者であるはずのアルバート第二王子殿下がそう叫ばなければ。





 私の名前は、リーシャ・ラングリーズ。

 ラングリーズ公爵家の長女をしている転生者です。

 ライトノベルによくある『乙女ゲームの悪役令嬢に転生』という設定を、今現在進行形で体験している転生者です。


 目の前にいる乙女ゲームにありがちな金髪王子様なキャラは『アルバート』第二王子殿下。

 立場でわかる通り、攻略対象の一人である。


 その腕の中にまるで守られるようにして抱きしめられて、器用なことにこちらにおびえるふりをしながら馬鹿にした表情を浮かべている女性が、乙女ゲーム『双国の間に揺れるそうこくのまにゆれるこい』のヒロインである『ラピス・ラバーズ男爵令嬢』である。


 …………まあ、今の私は簡単に言えば悪役令嬢断罪の場にいる。



「………幾つか、確認させてもらってもよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

「まず、そちらの令嬢はどちら様でしょうか?」

「この期に及んで、白を切るつもりかい?彼女は、ラピス・ラバーズ男爵令嬢。君が虐げていた相手だろう。…………リーシャ・ラングリーズ、君には失望したよ。この学園において、出身国も貴族階級も関係ない。皆が皆、平等な立場となるというのに身分を盾に彼女を苛めるなど…………悪女のすることだ。そんな女に、この国を守る国母を任せることはできない!!」

「…………まず言わせてもらいますが、私はそちらの令嬢と一切関わったことがありませんわ。いじめをした覚えもありませんわ」



 首を傾げながらそう言ってくるアルバート殿下に、私は頭を抱えたくなった。


 彼女をいじめるどころか、私はそこにいるヒロインと関りを持ったことなど一度もない。


 そもそも私が属しているクラスは【Sクラス】と呼ばれた特進クラスで、他のクラス以上に進みが早い上に学生の一人一人が独自で研究をしているから他のクラスと同じ学舎で学ぶことはない。

 そして目の前のヒロインはゲームでは私や他の攻略対象たちと同じSクラスだったのが、この世界ではこの学園の中でもかなりのおバカちゃん__要は貴族階級を持つ以外では秀でたものを持たない落ちこぼれたちが集められる【Dクラス】の所属。

 このDクラスはありとあらゆる部分での底上げが必要なため、私達の学舎や他のクラスの学舎とは別の学者が用意されている。

 そして学舎の並びは、【Sクラス】【その他のクラス】【Dクラス】の順番で学者の間には廊下で繋がっている状態。


 …………つまり彼女をいじめるということは、私はわざわざ遠い場所にある彼女の学舎まで行かなければいけない。

 しかも階級ではなく学力など成績が問われるこの学園の中で、用もないのに他の学舎に行くのはあまりいい目では見られない。

 わざわざ、私がそんなことをする必要性があると思っているのかこのおバカ殿下は??



「つまり彼女が嘘をついている…………と、君は言いたいのかい?」

「そんなっ…………私、嘘なんてついていませんわ!!信じてください、アルバート様!!」



 目を細めこちらを睨むバカ殿下に、ヒロインはまるで悲劇のヒロインのように彼に抱き着いて泣きだす。


 正直、いちゃつくのなら他の人の目がない所でやってくれないだろうか…………としか思えない。

 お前ら二人、周囲の貴族たちの「どう反応すればいいんだ?」って感じの視線に気づいていないの?



「ああ、もちろん信じるとも。何しろ、君が彼女を苛めているところを見たという目撃者もいるからね」

「は?」

「もちろん、君が目撃者を攻撃しないためにこの場での名前の公表は避けさせてもらうよ。影でいじめをするような卑怯で卑劣な人間が、何をするかわからないからね」



 おバカ王子の言葉に、私はため息を吐きかけて彼を凝視した。


 目撃者がいる?

 いったい、この男は何を言っているんだ?

 そもそも、私がいじめをした事実は存在しない。

 だというのに、存在しない事実を見たという目撃者がいる??



「さて、本来ならば君は国母を害した罪により処刑される身だろう。だが、かつて君は私の婚約者だった。その時の情もあるし、なによりラピス本人からも更生の機会を与えるべきだという意見が出ている。国外追放か、彼女の侍女を言う立場でこの国に残るか…………この場で選びたまえ」



 王子は、まるで協会にある天使像のような慈悲深い表情を浮かべながら言った。

 彼の言葉に、周囲の貴族たちが一気にざわつく。

 国外追放。

 それは貴族にとって死刑と同等に厳しい厳罰であると同時に、今までの長い歴史の中でも数度しか出てこなかった処罰だ。

 それが、今この場で出てきたのだ。


 国外追放か。

 阿婆擦れヒロインの侍女か。

 いや、勉強せずに婚約者がいる男とばかり遊んでいる()ような阿婆擦れの侍女とか、どんな罰ゲームよ。

 そんなの選ぶくらいなら、国外追放の方が何万倍もマシだわ。



「…………では、国外追放を選ばせてもらいますわ。アルバート様もラピス様も、その方が安心でしょう」

「…………そうかい。せっかくの更生の機会を蹴るなど、君は本当に愚かな人間だね」



 愚かなのはそこの阿婆擦れの言葉を本気で信じているてめぇの方ですわよ、クソ殿下。



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