魔女の来訪(2)
「…で、レイジさんとはどこまで行ってるの?」
「どこまで、って何よ。ウチで働いてるだけじゃない。あんなおっさん私は嫌よ」
見た目に似合わず下世話な話が好きなケイトである。
私達は店のカウンターの後ろに用意された休憩用の椅子に座り、焼き立てのクッキーを齧りながら世間話に花を咲かせていた。
「えー、そんなにダメかなぁ。髪型とか整えたら結構アリだと思うけど」
「じゃあケイトに譲ってあげるわ」
「あたしはほら、間に合ってるから」
ウフフと微笑むケイト。この子は自分の魅力をきちんと理解していて、その美貌でその気もないのに言い寄ってくる男たちを誑かして遊んでいるのだ。紹介されるボーイフレンドが毎回違うので何又しているのかもう私は覚えていない。よくトラブルにならないもんだ。
「そろそろ落ち着いてもいいんじゃない?グレゴリーさんも安心するわよ」
「そりゃあそうなんだけど…それでもレイジは無いわ。いくらあたしだって選ぶ権利があるよ」
私もケイトも学校には行っていない。この町で学校に行くのは貴族か商人の子供だけだ。平民の子、特に女子は6~7歳頃からは家を手伝ったり仕事に入ったりする。だから18歳で結婚というのは遅いと言われる事こそあれ早いという事は決してない。家を守って子供を作る。これが私達の普通だ。
あの歳でブラブラして家庭も持たず定住もしていないレイジが異常なのだ。だけど傭兵稼業で戦場を転々とし、長らく住居を持たなかった父さんはそのあたり妙に理解がある。男ってのはこれだから。
「じゃあレイジさんの方から好きって言われたら?」
「レイジの方から?うーん…」
考えた事も無かった。仮にそういう事があったとして私は受け入れられるだろうか。まあ悪い気はしないだろうが…。私が男から言い寄られる事なん酔っ払い以外に無いからなあ…。
レイジは気遣いができる方だと思う。パーシヴァルさんとのいざこざを考えるとそこまで非力という事も無さそうだ。でも何を考えているのか全然わからない。いつも死んだ魚のような眼をしているし。
「うーん…いや、でもなあ…」
頭を抱えている私を見てケイトは楽しんでいる。
「100歩譲って歳は我慢するとして…、もう少し愛嬌というか…元気というか…。こう、親しみやすさがあればいいんだけど。…いや親しみやすくないわけじゃないんだけど…」
「つまり脈が無いってわけでも無い?」
「いやそれは無い無い。最初から無いって言ってるじゃない」
「うふふ…顔、真っ赤よ?」
「ぐぬぬ…」
普段、私に男っ気の無いからケイトはからかって遊んでいるだけだ。悪かったわね、今まで付き合った男の一人も居なくて。美人のケイトと違ってこっちは苦労してんのよ。
「もう帰る!」
言い負かされた私はぷんすと頬を膨らませて椅子から立ち上がった。それでなくてもそろそろ開店準備を始める頃合いだ。
「あっ、クッキー余分に焼いたから持ってて。レイジさんの分」
最初からそのつもりで用意してあったらしく、ケイトはリボンで結んだ紙包みを差し出した。ケイトの美人たる所以は容姿だけでなくこういった心配り・器量の良さがあっての事だ。
「ありがと!」
奪うように受け取って私は飛び出すように店を出た。どうせ私は顔も悪けりゃ性格も悪いわよ!!
べつに誰が悪いというわけでもないのに私は悪態をつきながら帰途に着いた。
読みやすさを考慮して1話あたりのボリュームを抑えていたのですが、もっと読み応えがあった方が良いのでは?とご指摘を頂きましたので次のチャプターから1話あたりの文字数を増やしたいと思います。