閑話 ~或る日の新聞記事より~
木菟の耳羽亭。
じっくり煮込んだオックステールスープが自慢のこの酒場はノースガーデン中央広場から大通りを南に抜けた先、居住区に続く緩い坂道の途中にある。年季の入った外観とその名の通りミミズクが彫られた看板が目印だ。
周りにはリーズナブルな宿も多くあり、もしあなたがひどく酔っ払っても帰り道を心配する必要は無い。
この店に立ち寄ったなら、そばかすが残る眩しい笑顔が印象的な看板娘・ルーシア嬢の声が迎えてくれるはずだ。この気立ての良い(──そして少しおてんばな)彼女は、店主・グレゴリー氏の一人娘である。常連客からはルーシーと呼ばれているようだ。
店主のグレゴリー氏は調理担当との事で、あまりホールに姿を現すことは無い。
だが荒鷲のグレゴリーと言えば覚えのある方もあるのではないだろうか。そう、羽根兜と血塗れのグレートアックスが目印、第三次セントラリ防衛戦で名を馳せた傭兵・荒鷲のグレゴリーその人である。
今回筆者は直に話を訊くことは出来なかったが、常連客の話によれば気難しさは相変わらずなものの、かつての気の短さや血の気の多さは傭兵を辞めて以来すっかり鳴りを潜めているとの事。
もしあなたが運良くカウンター席を陣取る事が出来たなら、調理に勤しむ店主からかつての英雄譚を聞くことができるかもしれない。
エールにミード、最近流行りのワインなど酒類の豊富さは言うに及ばず、グレゴリー氏の作る数々の料理も見逃せない。
今回ルーシア嬢のお勧めで筆者がオックステールスープと共に注文した熟成リブロースは実に丹念に下処理されており、下味の粗塩と香辛料だけでも抜群に旨いのだが、備え付けられた辛味の効いた特製ソースを絡ませるとまた絶品であった。
料理とセットで注文できるバゲットは、これだけを齧っても小麦の風味の向こうに絶妙に感じる塩味で酒に手が伸びる一品。知り合いのパン屋から毎日直接卸しているというこの柔らかいバゲットも人気が高く、これに薄切り肉と野菜を挟んだサンドウィッチを目当てに立ち寄る客も多いらしい。
最近では中年男性の手伝いが一人増えたとの話だ。
店主の話が聞ける事を願って近くまた再訪したいと思う。
─── ウィークリー・ノースガーデン記者、ジャン・エシュマイヤー ───