レイジ(2)
原っぱの向こうからレイジがニルを連れて現れた。いつもの死んだような眼はどこへやら、眉を顰め嶮しい顔をしている。
「ルーシーは無事なんだろうね、ルティカ」
「見ての通りよ」
ルティカが私を見ながら顎でクイっとレイジを指した。行っていいらしい。私は立ち上がって恐る恐るレイジと合流した。
「ルーシー! 大丈夫かい? 何もされなかった?」
レイジが私を抱きしめた。
「何もされてないわよ。心配させてごめんね」
ぽんぽんと背中を叩く…つもりが身長差のせいで腰の辺りになってしまった。
酔っぱらって連れ去られたのは正直私に落ち度がある。ここは素直に謝っておいた。
「さて、今日こそ色良い返事が聞きたいわ、空と海の精霊皇。また返事を先延ばしにするならこれまで以上に街に『謎の病気』が蔓延するかもしれないわ、もちろんその子にも」
「わかってる。だから今日は決着を付けに来た。そのためにニルを呼んだんだ。ルティカ、君に精霊皇の座を譲ろう」
レイジはルティカの目を見据えてハッキリと言った。しかし、私を抱いたままのレイジの手は震えていた。
「レイジ、神様辞めるのかい?」
「はは…とうとうバレちゃったか。でもそれも今日までだよ。神様を辞める決意を固めてきた」
「バカめが…。もう元のクルーもワシら3人だけだというに。ハッキリ言ってワシは反対じゃぞ考え直せ。そこな小娘の事なぞ私がどうにでもするわい」
ニルが苦々しく口を開いた。様子が変だ。いつもの人を揶揄う雰囲気はどこにも無い。
「ありがとうニル。ルティカがどうこうってんじゃないんだ。もう僕には、いや最初から重すぎたんだよ。精霊皇という座が。雨を降らせて風を吹かせてそれで環境を整える。時には嵐になるし日照りにもなる。それで人が死んだりする。もうそういうの嫌なんだよ…」
「それはそういうもんじゃと最初に6人で納得したじゃろうが。移住計画の失敗でこの地に新たな人類を作ろうと決めた時に!」
ニルが珍しく熱くなっている。ニルはレイジに神様を続けさせたいらしい。
「レイジが辞めたいって言ってるならいいじゃない。ルティカに交代させてあげれば」
私には難しい話はわからない。でもレイジが神様を辞めたがっていて、ルティカが神様になりたがっている。何か問題があるのだろうか。
「ルーシー、話を全部すっ飛ばして説明すると、精霊皇が退位できるのはそいつが死んだ時だけじゃ。じゃが精霊皇は死なん。闇と死を司る精霊皇のわし以外の手ではな。要するに、こいつはわしに殺してくれと言っておるのよ」
「えっ!」
「えっ!?」
私とルティカが同時に驚いた。いやアンタも知らなかったのか。
「やはり貴様も知らなんだか、ルティカ。精霊皇を辞めたがっていたレイジが座を譲るのを渋っていた理由がわかったか」
「そ、そんな…私…そんなつもりじゃ…」
「じゃろうな」
ニルが呆れたように言った。




