表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

忍び寄る影(1)

さて何から聞けばいいんだろう。訊きたい事が多すぎる。

壁を飛び越えたその夜。私は屋根裏のレイジの部屋でレイジと向かい合い尋問を開始した。


「とりあえず、一番聞きたい事から訊くわ。あの壁を乗り越えたジャンプは何? あんた一体何者なの?」


「秘密…ってわけにはいかないかなあ」


「いかない」


ベッドに腰かけたレイジが困ったようにぽりぽりと頭を掻く。

今まで言いたくない事は聞かない事にしてたけどそれは日常の範囲の話。空飛んであの高い壁を乗り越えるなんて尋常じゃないわ。


「じゃあ魔法使い」


「魔法使えないって言ってなかった?昔住んでたとこには魔法が無かったとか何とか」


「そうだけど…今も使えないとは言ってないよ。僕はここでは魔法が使えるんだ」


そう言うとレイジはフワリと浮かんで見せた。正体が何にせよ魔法が使えるというのは本当のようだ。という事は元冒険者?以前から「役目から逃げ出してきた」と言いにくそうに言っているのはパーティーから追放されたみたいな話だろうか。でもニルは連れ戻したいって言ってたけどなぁ。


「まあ、あんたが魔法使いだってのはわかったわ。その魔法使い様がなんで慈善事業みたいな事してるの?あの町…村?は何なの?」


「んー…どこから話せばいいのかな」


それからレイジは貧民街(スラム)と呼ばれている町の事を語った。元々は外から流れ着いた、ノースガーデンに入れない者達が隠れるように住み着いた集落だった事。税を納めきれない者、働けない者、働く意欲を失った者、捨てられた子供、戦災孤児、そういった行き場を失った者達が加わって次第に大きなコミュニティになっていった事。子供達は野兎を獲ったり、「きたない川」でウナギ捕ったりしてそれを食べている事。ソフィア先生は子供達の将来を憂いて孤児院を開き、そこで子供の世話をしている事。それに感銘を受けてレイジはソフィア先生を手伝っている事。そんな事をレイジはゆっくりと語ってくれた。


「まあ、子供が可哀そうってんで助けたいって部分はわかるわ。でもなんか納得できないわね。働こうと思えば働けるけど働いてない人も住んでるって事でしょ?あの町。私だって頑張って働いて納税してるのよ」


「それはそうなんだけど…。だから誰からも何も言われない場所に逃げ込んだんじゃないかな。もしルーシーが拾ってくれなかったら僕もあそこに住んでいたのかもしれないよ」


「あはは」と、はにかむレイジの顔は獣脂のランプが濃い影を作り、出会った最初の頃に感じた死んだ目の疲れた中年男性を彷彿とさせた。最近ではそういう印象はすっかり無くなってしまったが、それはレイジが変わったのか、それとも。


「自由って何だろうね」


「自由ねぇ…私は自分が不自由だと思った事なんて一度も無いわ」


「羨ましいな」


「馬鹿にしてる?」


「してないよ」


たぶん「何か」から逃げてきたレイジは自由を欲しているんだろう。誰にも何にも縛られない自由。魔法を以てしても叶わない自由。何不自由無く生きてきた私には世の中にそんな自由や不自由があるのか図りかねた。


「自由はともかく。あんた市民証は作っておきなさいよ。捕まったって身元引受人になってあげないから」


「その…お金が無くて…」


レイジは言い淀んで恥ずかしそうに俯いた。


「そのくらいこっちで払うなり立て替えるなりするわよバカね」


外からの流入者が新規に市民証を取得するにはそれなりの金額が必要になる。なので「そのくらい」ではないのだが、店に対するレイジの今までの貢献からしたら充分な額だ。


「それはここにずっと住んでいいって事?」


「嫌なの?」


「いいや、嬉しいよ」


微笑んだレイジの顔にはさっきまで浮かんでいた疲れた中年男性の面影は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ