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見えざる町(2)

町の壁、その地下水門から流れる川に沿うように雑草と枯れ木が切り開かれ、ボロボロの煉瓦(レンガ)や板切れを積み上げたバラックが軒を連ねている。路地は舗装されておらず、このところの雨のせいかドロドロになっていた。そんな中を気にせずみすぼらしい恰好の子供達が元気に駆け回っている。

私の方向感覚が正しければここは丁度街の南側、木菟の(ミミズク)耳羽(みみ)亭のある通りの向こう側、居住区の突き当りの辺りだ。


レイジは間違いなくここに入って行ったはず。路地についた真新しい足跡もそれが正しいと告げていた。しかし…


「帰ろっかな…」


臭い。ここに住む住人達には悪いが第一の感想がそれだ。主な原因は地下水門から流れるこの川、いわゆる下水だ。元は「きれいな川」からの分水で、それがゆるやかな傾斜を経てここに繋がっている。その間には我々イーストガーデン市民の汚物や生活排水が投げ込まれているのである。

完備された下水溝と町の壁で匂いなんて気にした事が無かったが、壁のすぐ向こうがこんな事になっていたとは。


それにこの泥。革靴はともかく、少し歩くだけでワンピースの裾がドロドロに汚れてしまいそうだ。

どうするか迷っていると村の中を駆け回っていた子供のうち二人が私に気付いて近寄ってきた。


「お姉ちゃん、誰?」

「レイジ兄ちゃんの知り合い?」


兄ちゃん…あの見た目で兄ちゃん!思わず吹き出しそうになったがどうにか堪えた。いやどう見てもおっさんでしょあれは。


「そおよー。そのレイジお兄さんを探してるんだけどどこに居るか知らない?」


「せんせえのとこに居るよ」


二人がバラックの中でもややマシな作りの家を指さした。むぅ、行くしか無いか。レイジの事を聞いてしまった以上、ここで引き返すのは不審者みたいになっちゃうし。

私は靴の中がドロドロになるのを覚悟しながら、スカートの裾を軽く持ち上げてゆるい泥の中を歩き出した。




「やあルーシー」


「おや」


「あーっ!あの時のおばあさん!!」


子供達に案内された「せんせえ」の家にはレイジの他に見覚えのあるお婆さんが居た。レイジを引っぱたいて泣いて逃げた時に涙を拭いてくれたお婆さんだ。


「あの時はどうも……」


「先生と知り合いだったのかい?ルーシー」


「まあ、知り合いといえばそうのような違うような……」


経緯を聞かれると気恥ずかしいのでどう答えようか迷ってまごまごしてしまう。ただでさえ先日からレイジとは少しギクシャクしていてまともに会話できていないのだ。


「私はソフィア。この集落で子供達の面倒を見てる。ルーシー、何か用かい?」


その名前を聞いて、レイジが暇になると子供の相手をしているという孤児院というのがここで件の「先生」が目の前の人だと気付いた。孤児院というには大き目の机と椅子が何個があるだけの簡素すぎる内装だが。たぶん寝泊りする場所は別にあるのだろう。


「いや…いえ、私はレイジを追いかけて来ただけで」


「なるほどね。じゃあ折角だ。ちょうど麦が届いたところだし少し手伝って貰おうかね」


手伝い?別に構わないけど何が始まるんだろうか。


「ハッタイコウ?」


案内して来た子供達、男の子のコニーと女の子のマリが目をキラキラさせながら声を上げる。


「そうだよ。出来たら声をかけるから外で待ってな」


やったーと嬉しそうな声を上げながら二人はバラックから出て行った。

ハッタイコウ。初めて聞く言葉だ。

以前の表現と矛盾するような表記があったため、一部文章を追加しました。詳しくは2023/10/19の活動報告を参照下さい。

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