92 リドゥ・ザ・バトル(後編)
【Redo the battle – 2nd Part やり直し②】
(大勢が接近して来ます。敵ではありません!)
予知能力のあるペタラスが知らせる。
「どうやら味方のようね。あのトンネルから地下のホールに向かいましょう」
そう言うと、白龍王妃はすぐに飛行して巨大なウォンブ・ホロスの根本に見えるトンネルに向かった。ズミレンママやアーナンダたちも後を追う。
トンネルから内部に入ったところは、天井がとても高くすごく広いホールのような場所だった。
飾りも何もない殺風景なホールで、誰もいない。その大ホールから八方に半円形の出口が開いており、レオたちはその一つから入って来たのだ。そして、大ホールの中央には巨大な柱― いや、ウォンブ・ホロスがあった。
リョースアールヴが数人、早速、大ホールを飛行して調査している。
よく訓練されたエルフ魔術師部隊だ。
「なんだ、この場所は?」
(ここはライトムーンの発着ホールで、あの柱はウォンブ・ホロスよ!)
シーノの念話で、ウォンブ・ホロスが何かを即理解するレオたち。
念話のメリットの一つだ。
レオたちが見ていると、そのウォンブ・ホロスからコウモリのような大きな翼をもち、白い身体をした女たちが続々と飛び出して来た。
みんな手に弓や柄の長さが3メートル以上もある槍のような武器を手にもっている。
その槍は中心の穂の根本から両横に30センチほどの刃が両側に突き出しており、突くほかに斬ることもできるようだ。
コウモリのような翼をもった女たちは、レオたちを見ておどろいている。
(やあ、初めまして!オレたちは味方だよ!)
レオがすばやく念話で伝えたため、彼女たちは一応警戒はしているが、何もしない。
リーダー格と見られる女性が、とまどいながら訊いて来た。
(私はエリーニュス族のアレークター女王。クリスティラさまの命令で、エイダさまをお守りするために来た!)
アレークター女王と名乗ったエリーニュスの脇に二人いる若い娘はアレークターにどこか似ているので、たぶん姉妹だろう。
レオは少しあっけにとられていた。
エリーニュス族と言った若い女王も、その妹たちも、キトンのようなモノを着ているが、薄すぎておっぱいも下のヘアも丸見えなのだ!?
彼女たちの後ろにいるエリーニュスたちも同様にスケスケキトンを着ているので、これがエリーニュス族の服装ということになるのだろう。
そう言えば、アイやミアやユリア、マユラ、リディアーヌたちもかなり薄い服を着ていて、ブラジャーやショーツが丸見えで、アイミやイザベルたちから「何ですか、女の子なのにはしたない!」と小言を喰らっていたな...
アレークター女王も、二人の妹も、赤い目とコウモリの羽根に似た翼をもっているほかは、人族とあまり変わりない。いや、かなりの美女たちであることは間違いない。
そんなコミュニケーションをしている間にも、ウォンブ・ホロスからは続々とエリーニュスたちが現れている。
“まずは自己紹介からだな”と考えたレオから最初に自己紹介する。
(オレはレオン・オーコット・アルマライト。ここにいる、アイやミアやモモコ、マユラ、リディアーヌ、レン、レオタロウ、リュウの父親だ。ミィテラの世界からやって来た!)
(ボクは カイオ・イングラム・ゴッドスペッド。ユリアの父親です)
(私はアイミ・キャロール・テフ・オーコット・アルマライト。アイとミアの母親です)
(私はオダ・モリ・ラン・オーコット・アルマライト。レンの母親よ)
(わたしはダルーシ・モモッタ・ロウ・バンディ・オーコット・アルマライト!よろしく!)
(わたしはミューロィナ・キャルニヴォル・オーコット・アルマライト。マユラの母親ですっ!)
(ソフィア・ベンケー・シュテン・オーコット・アルマライトだ。モモコとレオタロウの母だ!)
(キリュアナ・プートリナーガ・アデライト・ゴッドリュー・オーコット・アルマライト。リュウの母です)
(エマヌエラ・キャロリーナ・アルマライトよ。よろしくね!)
(アシュマナーダ。リュウの曾祖母よ!)
(ズミレンママ。リュウの祖母です)
(アズリンパパです。リュウの祖父です)
(アーナンダだ。お見知りおきを)
(タクシャカだ!)
(ヴァースキです。よろしく!)
(アウロラ・ニルミッタ・ヴィンディーネです。よろしく!)
レオたちが念話で自己紹介し終わると、
(あたしはティーラポネーよ!)
(あたしはメグアイラ!)
アレークターの妹たちも自己紹介する。
「それで、ここは一体何なんだ?」
レオがあらためてあたりを見回してアイたちに訊く。
「えっ?ここは何なんだって... エイダさまのいらっしゃる|ルークラインテン・パレス《月の光りで導く宮殿》ですけど?」
「エイダさまの宮殿って... この月には誰も住んでいませんよ?」
「たしかに... 誰も住んでいませんね。虫などはいるようですが...」
「ここにも一匹、いますな?」
白龍王妃の言葉にアーナンダが頷き、カクさんが足元を歩いている10本足の蟻みたいな虫を指差す。白龍族は、生物や脅威の気配を感知する能力をもっているのだ。
「......... そう言えば... 私たちが前回来た時は、こんな場所ではありませんでした」
ユリアが言えば、アレークターたちも
「そうですね。あたしも人の気配がないので奇妙に思っていました」
「絶対におかしいよ、ここ!」
「だよね?ウォンブ・ホロスで来たんだから、間違うはずないもん!」
「ゲートだったら、ちょっと魔法陣を描き替えたら、全然別の場所に行けますけどね...」
アイミの言葉に、ユリアたちがハッとする。
「え? じゃあ... エイダさまは... ウォンブ・ホロスの行先を変えたって言うの?」
「そうとしか考えられないな!」とリュウ。
「とにかく、そのクリスティラさんとやらがいる所に行こうじゃないの!」
モモの言葉にみんな同意する。
「そうだな。みんなのリーダーに会って、よく話を聞かせてもらうとしよう!」
「じゃあ、パパ、このウォンブ・ホロスの利用法教えてあげるわ!」ミアが言うと、
「いや、パパにはオレが!」
「ダメよ、私が教えてあげるのよ!」
「いや、ここは最年長のオレだろ!」
「何言っているの、レン。それを言うなら私でしょ?私は18歳よ?」
「ウォンブ・ホロスに飛びこむだけです!」
アレークターがポソっと言って、子どもたちの言い争いは終わってしまった。
「アレークターさん、ズルい!」
ミアが半分ベソをかいている。
「ミアちゃん、ごめんね。アレーク姉、きっとレオさんが気に入ったんだよ!」
ティーラポネーがミアの耳にそっと囁く。
《こらっ、ティーラポネー、何を言っているの?あたしとレオタロウさまの仲を裂くつもりなのかい?》
《ひぇ――っ、そ、そうじゃないよ、アレーク姉っ!》
《許さないわ!》
突然、ティーラポネーが飛んで逃げ出し、そのあとをアレークターが追う。
《ごめーん、ごめーん!》
《許さないわ!よくもお客人の前で恥をかかせたわね!》
みんな呆気にとられて大ホールの中を飛び回っている二人のエリーニュスを見ている。
末妹のメグアイラは、面白そうに見ている。
アレークターがティーラポネーに追いつき、剣が一閃したと思うと、ティーラポネーの羽根が片方スパッと切られて、ティーラポネーが15メートルほど落下して床にぶっつかった。
アレークターはそれを見て、何事もなかったかのようにレオたちの所に降りて来た。
見ていると、ティーラポネーは1分ほど動かなかったが、見る見るうちに切られた羽根が再生し、ぴょこんと立ち上がり、服についた埃を払いながらレオたちの所に歩いて来る。
そしてアレークターにあらためて謝る。
「アレーク姉、ごめん!」
「次回はその首ちょん切るからね!」
「うん。もうレオさまの名前は出さない」
「ティーラポネ――――っ!」
「ひゃあ、うっかりだよ、うっかり!」
見るに見かねて、レオが中に入る。
「まあ、まあ、アレークターちゃん、ティーラポネーちゃんに悪気はないんだから...」
「ア、アレークターちゃん?!」
エリーニュス女王が真っ赤になった。
「さあ、エリーニュス姉妹の仲のいいところもたっぷりと見せてもらったし、そろそろクリスティラさまに会いに行こうじゃないの!」
モモの声に、レオたちは次々とウォンブ・ホロスに飛びこんだ。




