64 エリーニュズ・シスターズ
【Erinhoses Sisters エリーニュズ三姉妹】
お腹が空いていたのだろう、一生懸命に食べる二人を見ながら、クリスティラたちもお茶を飲んだり、フルーツジュースを飲んだりしている。
水とフルーツジュースをお代わりし、ラピテーズの肉まんじゅうを3個ほど食べた二人は、ようやく落ち着いたようだった。
「あなたたち、お名前を教えてもらえますか?」
「あたしはティーラポネー。ウラノスとガイアの娘です」
「あたしは メグアイラ よ。ウラノスとガイアの娘で、アレークター姉さんと、このティーラポネー姉の妹よ!」
「アレークター姉さんはどこ?」
「今日の戦いで、私たちを守るために死んだわ...」
「ものすごい炎を操るヤドラレ人の女にやられてね!」
「あなたちの姉を倒したのは私です」
アイが前に出て二人を見て言った。
「ウッソ!あんた、まだ若いじゃない?あたしより若いみたい...」
「私の名前はアイ。年は17歳でエルフと人族のハーフよ!」
「じゅ、17って... あたいよりずーっと若いじゃないか? エルフ?人族?なに、ソレ?」
「あんたが使った、あの物凄い炎はナニ?」
アイは二人に彼女たちがミィテラの世界からやって来たことを話し、彼女やミア、リディアーヌたちは魔術師であることを説明すると、二人とも驚いてしばし何も言わなかった。
「マジュツ... 聞いたことない...」
「4千人もの仲間が、それで殺されたのね...」
「いや、それをやったのはアイだけじゃないぜ? オレも4、5百人やっつけたけどな!」
「あんたは、あたしたちを捕らえたヤドラレ人... じゃない、ミィテラ人!」
「オレ、レンってんだ。よろしくな!」
「レン...」
「ティーラポネー姉、ちょっとカッコイイね?」
「な、なにを言っているの、メグアイラ?」
末妹の言葉に慌てるティーラポネー。実は、彼女もレンに興味を持っていたのだ。
メスとして甲斐性が十分ありそうなオスであるレンに。
「だって、レンもそこにいるツノの生えた男の子も、ゴールドとブルーが混じった髪の毛の男の子もカッコいいんだもん!」
カッコいいと言われて相好を崩すレオタロウとリュウ。
「あ、オレ、レオタロウってんだ!この中で一番力があってカッコいい男だ!」
「よろしく!」
「オレ、レオタロウ、よろしくね!」
「オレはリュウだ。これでも白龍族のプリンスなんだ!」
「あたしはエリーニュスのメグアイラ王女よ!よろしくね、リュウ!」
「あたしも王女よ!ティーラポネーって言うの。よろしく!」
(ちょっと、クリスちゃん... この二人、すっかり男の子たちになついてしまっているじゃない?)
(ソーウェッノーズが、生きている者にこれほど効果があるとは知らなかったわ...)
(今後、捕獲する悪霊に使えそうね!)
(無駄に殺生をしないでいいのなら、その方がいいわ)
ハイ・パラスピリトたちが話している間に、ティーラポネー と メグアイラはさらに情報をもたらしてくれた。
ティーラポネーは2万15歳でメグアイラは2万12歳。戦死したアレークターは2万20歳だったそうだ。
彼女たち自身が言った通り、二人はエリーニュス種族の王女。
父親のウラノスはアモンの長男で、母のガイアはアモンの長女だという。
「えっ、それって兄妹婚?!」
アイが驚き、ミアも目を丸くしている。
「でもあたしたちの父親は雲隠れをしているんだ...」
「そう。隠遁生活をしているんだ!」
ウラノスは、父・アモンのやり方に批判的だったため、アモンは彼を殺そうとしたのをガイアがそっと知らせて逃げ出して、それからずーっとどこにいるのかわからないそうだ。
エリーニュスは、戦いの時は、身体が黒くなり、犬の頭とコウモリの翼を持つそうだが、ふつうの時はアモンやエイダのような姿をしているのだそうだ。
「おじいさまは、エスピリティラでもっとも力があり、優れた容姿をしているんだ!」
「おじいさまはカッコいいんだ。レオタロウやレンやリュウみたいに!」
二人ともかなりのおじいちゃんっ子のようだ。
『エペロン・テルメン』 に攻め込んだ巨大バッタは、タッバーゾロンという悪霊で知能はほとんどないそうだ。
ただ何でも食べて増殖するだけの悪霊だという。
今回の侵攻作戦は、アスラ将軍の命令だそうだ。
アスラ将軍はアモンの三番目の妻シーヴァの長男で、残忍さにおいては闇の父アモン以上だという。
「アレークター姉さんはね、あたしとメグアイラにウェスト・ゾーンに帰って、エリーニュス部隊とタッバーゾロン軍が全滅したってアスラさまに伝えろって言ったんだけどね...」
「帰っていたら、きっとアスラ将軍に殺されてひき肉にされて、今ごろはアスラの夕食のおかずになっていたよ!」
ティーラポネーは、新しくフルーツジュースを注いで飲みながら言い、メグアイラは食べ盛りなのか、またラピテーズの肉煎餅を一つとって食べながら言った。
「もう休みたい」というエリーニュス姉妹の世話をアダたち少女にまかせて、クリスティラたちは作戦会議室にもどって今後策を練ることにした。
「あいつら、だいじょうぶなのか?」
リュウがエリーニュス姉妹が上がって行った階段を見ながら言う。
「それは問題ないと思います。お話し中に彼女らの脳を調べましたけど、悪霊の気配はすっかり消えて、善霊になっていますから」
「げっ、クリスちゃん、そんなことやったの?」レオタロウが驚いている。
「クリスティラちゃんがそう言うのならだいじょうぶでしょう」
ユリアも問題ないと考えているようなので、この件は一件落着となった。
「今回の戦いで参考になったのは、キュアたちニュンペーの魔術ですね」
アイの言葉にミアも頷く。
「キュアたち、威力はそれほど大きくはないけどワールウィンドを使えるしね。コンボ魔術で16人のニュンペーが一度にワールウィンドを使ったら、すごい威力だったわ!」
「ということは、ミノアン人たちやヤドラレ人たちの中にも、魔術を使える者がいる可能性は高いということですね!」
アスクレピオスが、それは希望がもてる話だと笑いながら言う。
「早急に魔術覚醒と訓練をしなければなりませんね」
「それとラダントゥースに言って、早く、イーストゾーンでまだ訪問してない町々を訪問し、アライアンスに参加するのを説得することね!」
クリスティラに続いてアキュアマイアも発言する。
「ミルリとチルリがいる|ハーヴニュンプ・ビーハイブ《森の妖精たちの町》にも行かなければなりません!」
「そうです!彼女たちは今回の戦いの事も、わたしたちがエイダさまにお会いしたことも知りませんし!」
「そうですね。では、ミルリさんとチルリさんに会って説明し、|ハーヴニュンプ・ビーハイブ《森の妖精たちの町》がどうなっているかを見て来るのは、ラィアさんとロリィさんにお願いしますね」
「わかりましたっ!」
「はい!」
「グラニトルゾリオの町の方は、マモ・クラナさんたちにおまかせするとして...」
「はい。おまかせください、おかあさま!」
クリスティラが、話を続けようとした時、レオタロウが彼女の言葉を遮った。
「ちょ、ちょっと皆に伝えておきたいことがあるんだけど...」
「そう。ちょっとプライベートなことなんだが...」
レンも少し言いにくそうにみんなの顔を見る。
「やはり言わなきゃね...」ユリアも頷く。
「なにを三人そろって企んでいるの?」アイが眉をひそめている。
「......... 実は... オレ、エラインと結婚式を挙げることになったんだ...」
「「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」」
みんな驚く。
「オレもタミレスと挙げることになった。ユリアもいっしょに挙げたいって...」
「ちょっと!レン、なに、その言い方?どうしてタミレスの名前を先に言うのよ?最初の恋人は私でしょ?」
「そんなことを言ったって、キアヌーラ王妃は、最初にタミレスと式を挙げろって言ったんだよ?」
「そもそも、あなたの恋人第一号は私でしょ?」
二人の間で痴話喧嘩がはじまった。
それを黙って見ている女性がいた。
シルレイだ。
アキュアマイアが、彼女の顔を見て目で訊く。
“あなた、どうするの?”
「わ、私もレンさまと結婚しますっ!」
「返事遅いのよっ!」
毒づくアキュアマイアだが、笑顔ではち切れそうだ。
「いいとも!そうでなくちゃあな!」
レンもホッとしたように喜んでいる。
(お姉ちゃんは、どうするの?)
ミアがアイに訊く。
(ど、どうしよう...)
あまりの急展開に頭が混乱するアイ。
(わ、私も結婚しちゃおうかな...)
(そう? ママも17歳でパパと結婚したんだからね!)
(そ、そうだね!)
結論すると行動に移すのは早かった。
これもママ譲りの性格だろう。
「私もレンと結婚します!」
「そうか!アイもオレと結婚してくれるか!」
レンが満面の笑顔になった。
「オレはエラインと結婚することになった...」
レオタロウもみんなに告げる。
「うっそ...」
ミアが目を見開いている。
「ミア、どうするの?あなたもレオタロウと結婚をするの?」
今度はアイが心配して訊く。
「...... でも... 私、まだ12歳だよ? 12歳でパパとママの承認もなく結婚できないよ!」
「... それもそうね...」
彼女たちの生まれ育った勇者王国では、16歳になったら親の承認がなくても結婚できるのだが、ミアはその意味ではまだ“未成年”だった。
「オ、オレはミアが16歳になるまで待ってやってもいいぜ?」
「なにをいっぱし大人ぶっているのよ?」
「イテテっ!やめろ、モモコ姉っ!」
モモコからツノを力いっぱい捻られ悲鳴を上げるレオタロウ。
「なにが“待ってやってもいいぜ?”だ? オトコならハッキリと“16歳になるまで待つ!”と言いなさいっ!」
「じゅ、16歳になるまで待ちますっ」
「うん。わかった!それまでに気が変わらなかったら結婚するよ!」
「へ?」
ミアの返事に今度驚くのは鬼人族の戦士だった。
(アキュアちゃんは、どうするの?)
クリスティラが親友に訊く。
(私はね... 別にレオタロウじゃなくてもいいんだ...)
(えっ?そうなの?)
(それより、アラベラ をペルセーイスと結婚させなきゃ!)
(アラベラさんとペルセーイスを?)
(うん。二人とも出来ちゃったのよ!)
(みなさん、たいへんです!)
その時、ミモ・ピアから緊急念話連絡があった。
ミモ・ピアは、エリーニュスたちやタッバーゾロン集団軍との激しい戦いがあったエリアでソーウェッノーズスキルを死んだ悪霊たちにかけていたグラニトルゾリオのハイ・パラスピリトたちを現場指揮していたリーダーだ。
(どうしたのですか、ミモ・ピアさん?)
マモ・クラナが心配して聞く。
(エウメニデスたちが... エウメニデスたちが...)
急遽、ティーナ・ロケットで駆けつけたユリアたちが見たのは…
なんと生き返ったエリーニュスたちだった!
「アレークター姉さん!」
「アレークター姉っ!」
「ティーラポネー、メグアイラ!」
レンから知らされて、アイとミアから借りたネグリジェやパジャマ姿のままティーナ・ロケットに乗って来たティーラポネーとメグアイラが目を見開いて驚いている。
二人ともティーナ・ロケットに初めて乗る者が、ほとんどそうなるように失禁して下半身が濡れていたが、そんなことには一切構わず、真っ裸で煤だらけのアレークターに抱きついて泣いている。
アレークターは裸でいるのはまったく構わないようだった。
どうやら、エリーニュスはフェニックスのように、灰になっても蘇ることができるようだ。
それが、ハイ・パラスピリトたちのソーウェッノーズスキルによって、悪霊の生命が浄化されて善霊になったらしい。
アレークターは、バツグンのプロポーションをもつエリーニュスで、その見事なバストをレオタロウたちは食い入るように見ていた。髪はティーラポネーと|メグアイラと同じ白で、目の光彩も妹たちと同じ赤だが、血走ってないからか、美しくさえ見える。
「なに、二人とも泣いているんだい? 私たちは不死の女神だということを忘れたのかい?」
そう強がりを言いながらも、アレークターの目からも涙がとめどもなく流れていた。
そして、クリスティラたちを見てマジメな表情になって言った。
「あんたたちが妹たちを助けて、アタシを改心させてくれたのかい?」
「そうです」
「...... こんな風になるとは予想もしなかったけど... みんなを蘇生させてくれたことに対して、エリーニュス族の女王として、礼を言うよ!」
アレークターは彼女の周りに寄って来る部下たちを見ながらクリスティラたちに頭を下げた。
「あたしを捕らえたのは、そこにいる“イケメン”とかいう別称をもっているレンだよ!」
「でも、あたしはイケメン・レオタロウの方が好き!」
ティーラポネーとメグアイラが頬を染めながら、長姉にレンとレオタロウを紹介する。
どうやら彼女たちはイケメンという、“容姿端正な男”につける呼称を別称と勘違いしているようだが、この際、それは問題ではない。少なくとも男の子たちにとっては。
「オレもイケメンだぜ?リュウってんだ、よろしくな、アレークターの姉貴!」
リュウが自分の名前を言われなかったので不満そうな顔をして言う。
「ええっ?アタシはあんたに姉貴なんて呼ばれる筋合いはないんだけどね?...」
アレークターは真っ赤になってリュウから目をそらして言った。
「いいじゃないか! ティーラポネーとメグアイラはレオタロウとレンを選んだんだろう? それで姉貴がオレを選んだら、エリーニュスの女王三姉妹は全員、恋人がいることになるじゃないか?」
「こ、恋人っ?」
アレークターが驚いてリュウを見る。
「恋人がイヤだったら、愛人でもいいぜ?」
「こ、恋人でいいです、リュウ!」
真っ赤になって答えるアレークター。
“えっ?なによ、なによ、この展開?どうして不死のエリーニュス女王がリュウの恋人になっちゃったの?”
少々混乱するユリア。
それはミアもユリアも同じだった。
“なによ、コレっ? レオタロウお兄ちゃんが元メイドのエラインと結婚することが決まったばかりだと言うのに、今度はエリーニュス王女がレオタロウお兄ちゃんの新しい恋人? エスピリティラの世界ってわからなーい!”
“もう、リュウったら... まさか、アレークターとも結婚式を挙げるって言いだすんじゃないでしょうね?”
しかし、このユリアの予感は不幸にして的中することになってしまった。
アレークターはみんなといっしょにティーナ・ロケットに乗ってグラニトルゾリオに行くことになった。
あとのエリーニュスたちは、ミモ・ピアたちハイ・パラスピリトがグラニトルゾリオに連れて行くことになった。
オート御殿に到着したアレークターは、アダたち美少女に手伝ってもらってバスに入り、体を洗った。
そのあとで、体格が似ているマユラのネグリジェを借りて広間に降りて来て、ラピテーズの肉まんじゅうと酒をもらって飲みながら、妹たちからレオタロウとレンが結婚式を挙げるという話を聞いたアレークターは、突然、肉まんじゅうを皿に置き、酒のコップも置くと、リュウに言ったのだ。
「リュウ、アタシと結婚して!」
「「「「「「「「「ええええええええ―――――――っ?!」」」」」」」」」」
クリスティラたち全員が派手にズッコケた。
もちろん、エスピリティラの慣習にしたがって、全員両足を思いっきり広げてズッコケたので、色とりどりのアンダーヘアとシークレットゾーンをご開帳して。
「私もこの年まで、言い寄って来るヤロウどもは星の数ほどいたけれど、これって思うオトコには出会わなかったんだよね... 心の闇がなくなったら、目の前にけっこういいオトコがいるじゃないか。そろそろ身を固めてもいいころじゃないかって思って...」
「お、おう!いいぜ! じゃあ、オレとレオタロウとレンと三人いっしょの結婚式だな!」
リュウはうれしかった。
落ち度は彼にあるのだが、クリスティラの心が彼から離れてしまって以来、自信をなくし、自己嫌悪に陥っていたのだ。なので、たとえエリーニュスであろうとも、彼に好意をもち、求愛している女 -アレークターはクリスティラに負けずとも劣らない美女だった- が現れたということは、エターナルさまのご慈悲としか思えなかった。
「私的なことを優先してしまったのだけど... みんなも知っての通り、私のかわいい部下たち4千人がハイ・パラスピリトたちに案内されて、こちらへ向かっている...」
みんなアレークターの顔を見ている。
「『エペロン・テルメン』 の地を、タッバーゾロン軍を使って、無毛の地にしようとした私の罪は償いきれるものではないのは重々承知しているが、何とか私の部下たちをこの町で受け入れてやって欲しいのだ。アタシたちはもう悪霊ではない。だから、ウェスト・ゾーンに帰ることは出来ない。帰ったとしても裏切者として全員アスラサマに殺されるだろう。もちろん、ただで住ませろとは言わない。仕事はなんでもやる...」
アレークターは懸命に訴えた。
「儂はグラニトルゾリオで、心の入れ替わったエウメニデスを受け入れることに異存はない!」
オートが真っ先に受け入れるという表明をした。
「私もまったく構いません」
マモ・クラナも同意する。
「ワシもいいと思う。食料はあまるほどあるしのう!」
「受け入れることに賛成です!」
「右に同じ!」
バンゾウ、ギガタンコック、ブボ・ケトゥパ も賛成した。
ガバっ!
「この恩、エリーニュスの女王として、永遠に忘れない!」
アレークターは、床にひざまずいて深々と頭を下げて礼をする。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
ティーラポネーとメグアイラも床に伏して礼を言う。
「な、なにをエリーニュスの女王であり、女神でもあるあなた方が、床に伏して頭を下げるのですか?」
「そうじゃ、さあ、立ちなされ!」
「そうよ。女王らしく毅然としてなきゃ!」
「これからは、我らの仲間、同志なのだから!」
オート族長たちが、椅子から立ち上がり、エリーニュスたちを立たせる。
「かたじけない...」
アレークターが族長たちに礼を言う。
「同志... そのような呼ばれ方をされたのは、生まれて初めてだ... 同志という呼び名に恥じぬよう生きて行くつもりだ... ティーラポネーもメグアイラも滅私奉公するのだ。わかったわね?」
「はい。姉さん!」
「わかった、アレークター姉っ!」
二人の妹も神妙に頷いた。
かくして、アライアンスは、エリーニュス族をその軍勢に加えることになった。




