45 ソードスミス
【Swordsmith 刀鍛冶】
「えっ? ちょっと待って!」
レオタロウが急いでドアを開けに行く。
そこにはエラインとタミレスが立っていた。
二人とも昼間つけていた厚い生地のヒザ上腰巻ではなく、薄いスケスケの腰巻をつけていた。
入浴したらしく、黒い髪が濡れていてソープの香りがする。
目の前にプリプリした双丘を見て、レオタロウはどういうわけか心臓がドキドキし、少しかすれた声で訊いた。
「どうしたんだい?」
「あの... 」
エラインが言おうかどうしょうかと迷っている。
「お部屋の中でお話ししてもいいですか?」
タミレスの方が勇気があるらしい。
「えっ? そりゃ全然構わないけど...」
「はいってもらえよ、レオタロウ!」
「あ、うん。じゃあ、そんなところに立っていてもしかたない。入って!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
エラインとタミレスは部屋にはいって、すすめられてベッドに腰かけた。
二人とも男神ラダントゥースの妻のヤドラレ人メイドで、エラインが16歳、タミレスが15歳。
背は1.5メートルほどと小柄で、あまり陽を浴びない肌は薄い褐色できめ細やかだ。
「で、どうしたんだい?」
「あの... えっと...」
「私たち... 抱いて欲しいんですっ!」
今回もタミレスが言った。
「抱いて欲しいって... オレたちとアレをしたいということかい?」
「え? あの... その...」
「はい!私とエラインとしてください!」
少ししどろもどろのエラインに比べてタミレスの方はハッキリ言う。
何とかして男の子たちに抱かれたいと思って、二人は自分たちの部屋を出てから廊下の隅でレオタロウたちの部屋を観察していたのだと言った。
そして、リュウがユリアの部屋に行ったのをチャンスと思ってドアをノックしたのだと言った。
「オレたちに抱かれたいって... どんなことをするのか知っているのかい?」
「も、もちろんです!」
「チューをして、□□に〇〇を入れるんでしょ?」
「君たち、したことあるのかい?」
「い、いいえ、全然ありません!」
「私もエラインもバージンとかいう女の子です!」
バージンの意味を少しはき違えているが、未経験であることは確かだろう。
「......... あのさ...」
「はい?」
「なんですか、レオタロウさま?」
「最初は... 痛いことが多いんだけど...」
「だ、だいじょうぶです!ガマンします!」
「絶対に泣きません!」
「よし、じゃあ誰が誰に抱かれるか...」
偶数奇数ゲームで決めようと言いかけたら
「もう決めています。エラインがレオタロウさまで、私がレンさまって」
「そうか、もう決めいるのか。じゃあ、話が早い... じゃあ、エライン、オレのベッドに来て」
「はい!」
レオタロウのベッドに来て、彼の横に座ったエラインの肩をレオタロウが抱く。
すべすべした肩だ。
彼女の顔を自分の方に向かせると、そのかわいい唇にチュをした。
「ふにゅう...」
エラインは目をとじて小さく息をした。
「タミレスはここでいいよ」
「はい!」
レンはタミレスの細いウエストに手を回して引き寄せると、彼女のぷっくりした唇にチューをした。
「あふぅん...」
タミレスも声を漏らす。
エラインは、レオタロウを摩天楼で初めて見たときから心が動いた。惹かれた。
男神ラダントゥースの妻の一人であるキアヌーラさま付きのメイドの一人だったエラインは、同僚で一つ年下のタミレスとはとても仲がよかった。
西の地からやって来たというマザー・パラスピリトさま一行の食事の給仕が終わり、休憩時間にメイド部屋でタミレスといっしょに遅いランチをとりながらおしゃべりをした。
「レオタロウさまって素敵ね!なんだか大らかな感じで、あのような男の人大好き!」
「レオタロウさまも悪くないけど、私はレンさまがいいな!」
そう言って、タミレスは食事の給仕をしていてレンのそばを通ったときに、最初に偶然触れたような感じで胸に触られ、次に― これは絶対に偶然を装うことができない行為― オシリを触られたとエラインに言った。
「えーっ?タミレス、レンさまに胸とオシリを触られたの?」
「それだけじゃないわ。念話で“君の名前は何て言うんだい?おっぱいもオシリも魅力的だね!”って言われちゃったのよ!」
「えええーっ? あの人たち、結構女の子が好きかもね?」
「あのね... 私もエラインもオトコって知らないでしょう?」
「そ、そんなの当たり前じゃない!生まれてから今まで、私の体に触ったことのある...」
「オトコはいない!でしょ? 私も同じよ。オトコに抱かれるなら、レンさまみたいなオトコがいいわ!」
「私はレオタロウさまに抱かれたいわ...」
そういう会話があってから、エラインは努めてレオタロウの近くを通ったり、給仕をしたりするときはオシリをよけいにふって歩いたり、ぐっと胸を突き出すようにして給仕などをした。
レオタロウは、かなりエラインに興味を示したようだが、男神の客人である手前もあってか、レンのように触っては来なかった。
そうしたエラインとタミレスの行為は、いわば“メイドの秘められたアバンチュール”ともいうべきもので、場所と時代が中世ヨーロッパであったなら、客人である貴族は、ホスト貴族の妻であろうが、メイドであろうがお構いなしにラブレターなどを送ったり愛のアッピールをしたりして、目出度く一夜のロマンを過ごしただろう。
しかし、ここはエスピリテラで、ゲストはかなりマジメな勇者王国の王子たちなのだ。
曲がりにも勇者王国の名に傷をつけるような真似はできない。ホストである男神の妻のメイドと一夜のロマンスなどしたくともできない。
しかし、創造主さまは若い二人のメイドを見捨てなかった。
エラインとタミレスは突然、男神さまからドヴェルグ族を訪問するユリアたちのガイドとして付き添って行くように命じられたのだ。
そのことをキアヌーラ王妃から告げられたとき、二人は畏まって答えた。
「はい。立派にガイドの役目を果たして参ります!」
「男神さまのご期待に応えるよう精いっぱい務めさせていただきます!」
だが、そのあとでメイド部屋に旅の準備をするためにもどってから、二人は手をとりあって飛び跳ねてよろこんだ。そして、機会を見つけてレオタロウさまとレンさまに抱いてもらおうと決意しあったのだった。
それが、今こうしてドヴェルグの村で、エラインはレオタロウさまに抱かれ、タミレスはレンに抱かれていた。
エラインとタミレスは、まるで夢のような一夜を二人は過ごした。
二人とも自分たちの部屋には帰らずに、レンとレオタロウに抱かれて朝まで寝た。
リュウの方は、ユリアをドヴェルグ族が馬代わりに使うジェギという動物の厩舎に連れて行って、柔らかい枯草の上で愛しあって、そのまま朝を迎えた。
部屋に一人で残されたマユラはボヤいていた。
「あ~あぁ!リディアーヌはいないし、ユリアもメイドたちもオトコのところに行っちゃったしー!」
「私も早く恋人作らなきゃー!」
* * *
翌日、ユリアたちは、ドヴェルグ鉱夫たちが鉄鉱石を採掘している鉱山見学に行った。
驚いたことに鉄鉱石は露天掘りだった。ドヴェルグたちはザックザックとツルハシやスコップで掘り起こして一輪車に積んで道路のそばまで運んで山積にし、それをジェギが引く荷車に積ませて村に運ぶ。
「鉄の製造には石炭も必要ですが、ここから二山超えたところには、ここと同じように地面に石炭が出ているのです! ガッハッハッハ!」
案内役のドゥルバ村長は愉快そうに大笑いした。
サクロス・サイピズ山脈は鉱物の宝庫で、ありとあらゆる鉱物資源があるのだそうだ。
金や銀はさすがに地面にはあまり露出してなく、坑道を掘って採掘しなければならないそうだが、
「金や銀は、我々ドヴェルグにとってそれほど価値あるものではないのですよ! ガッハッハッハ!」
それはそうだ。金銀宝石が価値があるのは、それを装飾品に使ったりして他人に自分をより良く見せるため、見栄のため、地位を、財力を、権力を他人に見せるためなのだから。
三日目には、製鉄場を見学した。
溶鉱炉に風を送り込むのに川の水を利用した水車を使っており、たくさんのドヴェルグの女が男たちに負けずに働いているのにユリアたちは驚いた。
「ドヴェルグ族は男も女も同じように働くのです。鉱夫も半分は女だったんですけど、みんな同じような恰好で汗と埃で真っ黒になっていたからわからなかったようですがな!ガッハッハッハ!」
製鉄場の熱さには閉口したが、そんな場所でもドヴェルグたちは文句も言わずに汗びっしょりになって働いていた。ドヴェルグは本当に働き者だ。
昼食のあとは、ドゥルバ村長が自慢する鍛冶職人たちを訪問することにした。
ドウジギの鍛冶屋に入ると、中では職人たちが真っ赤に焼けた鉄をハンマーで叩いていた。
火花が飛び散り、水に鍛えている鉄を入れるとジュワーっと凄まじい水蒸気が立ち上がる。
カン!カン!カン!
カン!カン!カン!
カン!カン!カン!
数組の職人が、汗を流しながらわき目もふらずにハンマーを叩き続け、その横では助手がふいごを動かして空気を吹き込んでいる。精錬のことなど何もわからないユリアたちから見ても、迫力ある、真剣で神聖な作業だった。
名高い刀工ドウジギは一番奥で精錬をしていた。
30分ほどして、ようやく精錬が終わったようで、ドウジギの相方の刀工が叩き上げた剣を研ぐために炉から離れたときに、ドウジギは初めてユリアたちの存在に気がついたようだった。
タオルで流れ落ちる汗を拭きながら、「フン!」と まるで興味ないような顔をしてちょっと離れたところにある鉄製のテーブルの上に置いてあった鉄製の水差しから、これも鉄製にコップに水を注いでゴクゴクと飲む。
そしてふたたびユリアたちの方を見たとき、コップをもっていたドウジギの動きが止まった。
「うん?」
ろくに見もせずにコップをテーブルに置いた- つもりだったのだろうが、コップは床に落ちて残っていた水がこぼれたが、彼はそれには構わずにズンズンとユリアたちの方に歩み寄って来た。
「おう、ドウジギ親方、作業中にすまなかった、この方たちは...」
ドゥルバ村長がユリアたちを紹介しようとしたが、村長には一顧だにせず、ユリアとレオタロウとリュウの持っている武器を見て驚いたように言った。
「それは... なんという武器だ!こ、これはドヴェルグの作ったものではないことは、ひと目見ただけでわかるが...」
「私の弓は、神弓ガンデーヴァよ!」
「オレのは聖槍ゲイ・ボルグ!」
「そしてこれは伝承の光の神の剣、フラガラッハの剣だ!別名“報復者”と呼ばれている!」
最後にリュウがカッコつけて言った。
「神の弓に聖槍、それに報復者と呼ばれる光の剣か!...」
ドウジギはユリアが肩にかけているガーンデーヴァの弓に目を近づけて見て、それからレオタロウが手に持っているゲイ・ボルグの槍を鼻をくっつけるようにして見て、それからリュウが背に担いでいるフラガラッハの剣- 鞘に入ったままだが- を鼻がくっつかんばかりにして凝視していた。
「そ、その、フラガラッハの剣を抜いて見せてはくれんだろうか?」
「いいですよ、ドウジギさん」
リュウが使う剣は、長さ1.5メートル以上あり、“ツヴァイヘンダー”に似た大剣だった。
銀色の装飾が施された鞘に入れて背中に背負っている150センチほどある大剣を、どうやってリュウが抜くのかドウジギ親方も彼の弟子たちも、そしてドゥルバ村長も興味津々で見ている。
リュウは右手を背に回し、大剣の柄を握るとそのまま抜いた。
「!」
「おっ?」
「なに?」
「どういうことだ?」
みんな驚いている。
フラガラッハの剣は、それを使う者が柄を握るだけで鞘から抜ける不思議な剣なのだ。
どういう仕組みで抜けるのかはリュウも知らない。最初にレオン王が神殿の宝庫で見つけた時からそうだったと聞いているだけだ。なので背の高さもリーチの長さも関係なく、持ち主が柄を握り、抜こうとすれば抜けるのだ。
ユリアたちはもう慣れているので別にめずらしいことではないが、親方や村長や弟子たちにとっては、まるで手品を見ているようだった。
「も、も、もう一度、抜いて見せてくれんか?」
ドウジギがどもりながら頼む。
その眼がすごく真剣だ。
「いいですよ」
リュがフラガラッハの剣を背中の鞘に当てると、光の神の剣は銀色の鞘に収まった。
そしてふたたびリュウが抜く。
「おおっ!...」
「なんと言う剣だ!」
フラガラッハの剣は、どのような材質を使って作られたのかわからないが、刀身からは威圧を感じる気が出ている。
「光の神の剣!...」
ドウジギはそうつぶやくと、ガバっと床にひざまづいた。
次にレオタロウの持つ聖槍ゲイ・ボルグを見たときも、同じように聖槍を敬い床にひざまづき、ユリアがガーンデーヴァの弓で遠くに見える大木を一発で粉砕して見せたのを見たときも、床にひざまづいた。
「俺は、これまで世界でもっとも優れた剣や槍を鍛えれるのは、俺かウマルギオのヤツかと思っておったが、とんでもない慢心だったと気がついたよ!」
そう言って、リュウが持たせてくれたフラガラッハの剣を、ぶるぶる震える両手で押しいただいて目を細めて見ながら言った。
ドウジギ親方は、自分は神の武器など鍛錬できないが、今日、神の武器を拝見させてもらって、さらに刀工として奥を極めるための精進を続けたいと言って、今日のお礼にいつの日かリュウたちを納得させる剣を作ってみせる!とユリアたちが鍛冶場を出る時に言った。
次に訪問したウマルギオ親方の鍛冶屋でも、同じようなことが起こった。
「そ、その武器は?!」
目を丸くして驚き、ハンマーを叩く手をとめて走り寄って来て、ウマルギオの頼みでリュウがフラガラッハの剣を抜いて見せると、
「1日でよいから貸してはもらえんか?」とまで頼んだのだ。
もちろん、明朝にはフリスゴレスロームに帰らなければならないので丁重に断ったが。
そしてドウジギが、さらに素晴らしい剣を造ると言ったと伝えると、
「俺もドウジギなんぞに負けておられん!さあ、目の宝になる神の武器も見せてもらったことだ。もうお引き取り願おう。これから、どうやったらそんな素晴らしい剣を打てるか考えるんだから!」
そう言って鍛冶屋から押し出されてしまった。
「どうも申し訳ありませんな。ドウジキもウマルギオもいつもこんな調子なんですよ。会って話すことが出来ただけでも良かったというものです!ガッハッハッハ!」
ドゥルバ村長はそう言ってまた大笑いをした。
夕刻からラィアとロリィの二人のハイ・パラスピリトの歓迎会が村の広場で行われた。
ハイ・パラスピリトをひと目見ようと、近隣の村からドヴェルグたちが押しかけて来たのだ。
ドゥルバ村長は一村につき、最大5名までと参加人数を制限していたが、そんなことを守るドヴェルグたちではなかった。
まるで団体旅行のように、続々とドヴェルグたちがやって来た。
ただ、やって来たドヴェルグたちも、ドゥルバ村長の村だけにお祭りの一切を負担させてはいかんと、参加者たちは、それぞれ酒樽と料理をひとり一人が背負って来た。
せめて自分が飲み食う分だけは自前で、というのがドヴェルグたちのお祭りのルールらしい。
この日だけは、鉱山での仕事も半ドンとなり、働いているのは製鉄場の連中だけとなった。
村長の話では、製鉄場の連中も交代してお祭りに参加するのだという。
広場の中央に壇が設けられ、ラィアとロリィはそこに鎮座させられて、ご馳走が貢がれ、ひっきりなしにドヴェルグたちが壇の前に来て手を合わせて涙さえ流して感激して、次の参拝者と代わる...
そんな光景が延々と一晩中続いたのだった。
ラィアもロリィも2時間もたつと、そんなことに辟易したが、みんな彼女たちを見にやって来たので、「もうやめましょう」とは言い出せない。
結局、あくびを出しながら、眠い目をこすりながら、明け方まで壇上のお雛さまよろしく鎮座し続けたのだった。
メーンゲストではないユリアたちは、午前零時にはそれぞれ部屋に引き上げ、エラインとタミレスは村長の妻に言ってそれぞれ別の部屋を借りていたので、そこでハネムーンのカップルよろしく、レオタロウ、レンと三日目のスイートナイトを過ごした。
翌日の昼過ぎ。
さすがに一晩中寝らなかったラィアとロリィを朝早く起こして帰ることはできなかったので、出発は遅すぎる昼食の後になってしまったが- ようやくフリスゴレスロームに帰ることになった。
食欲旺盛なレオタロウやレンやリュウたちは、パクパクムシャムシャとご馳走を食べていたが、エラインとタミレスは食欲がないのか、あまり食べてない。
それに気づいたユリアが、二人のそばに行って小声で訊く。
「あなたたち、どうしたの?全然食べてないじゃない?」
「あまり食欲ないんです...」
「食べたくないです...」
「...... あなたたち、摩天楼に帰ったら、もうレオタロウともレンとも過ごせないから落ち込んでいるのでしょう?」
「えっ? どうして...」
「わかったんですか、ユリアさま?」
「私も女の子だし、そんなことはわかるわよ」
「恋なんてするんじゃかなかった...」
「人を愛するってむずかしいのね...」
ヤドラレ人娘は哲学的なことを言っている。
「しょうがないわね... 男神さまにたのんで、いっしょに旅について来てもらうしかないわね...」
「えっ、そんなこと出来るんですか?」
「キアヌーラさまがお許しになるかしら...」
「そんなことは、話してみなければわからないでしょう?」
そして昼過ぎ、物々交換で仕入れた鉄製品や武器、装飾品をティーナ・ロケットに積み込んだユリアたちは、ロケットをフリスゴレス・ロームの方角に向けると村の広場から打ち出された。
ティーナ・ロケットを見たドヴェルグたちの驚きといったらなかった。ティーナのことを前もってドゥルバ村長に説明してはいたのだが、
「こ、これはまさしく、神の僕である守護天使さまのお力だ!」
大仰に驚いていた。
あまりの大騒ぎに、ドウジギ親方もウマルギオ親方も広場に走って来て、同じく目を丸くしていた。
「それでは発射ー!」
ド―――――ン!
派手な発射効果音に、ドゥルバ村長も、ドウジギ親方もウマルギオ親方も、男だか女だかわからない鉱夫たちも足を広げてひっくり返った。
リュウたちは、そこで初めて開いた足から見えるモノで、オトコ鉱夫とオンナ鉱夫の違いを区別することができたくらいだった。
その目の保養になる光景(もちろんオンナ鉱夫だけだ)も、たちまち小さくなってティーナ・ロケットはぐんぐんと高度を上げ、 サクロス・サイピズ山脈を後にした。
* * *
1時間半後。
ユリアたちは摩天楼の例のティールームに男神ラダントゥースと側近神たちといた。
クリスティラやアキュアマイア、それにアイたちも、魔術の修練を一時休んで来ている。
ラダントゥースは、ユリアたちが歓迎され、ラィアとロリィが“神”のように敬われ、大歓迎の宴まで開かれたことを知って、自分のことのようによろこんだ。
「そうであろう、そうであろう!ドヴェルグ族は、我々ハイ・パラスピリトをたいへん畏敬しておるからな!それに、このような美女ハイ・パラスピリトが二人も行けば、大歓迎されるのも当然だ!」
ビジネスでも、今回は予想以上にドヴェルグたちが鉄製品や武器や装飾品を交換してくれたとユリアたちを褒め、労った。
「男神さま、お褒めの言葉は、私たちでなく、メイドのエラインとタミレスにあたえてください」
「何と? あっはっは!あの二人のメイドたち、それほど役立ったか? キアヌーラ王妃に言って、あとで褒美をあたえることにしよう!」
「男神さま、お願いがあります」
「おう、何でもよいぞ、吾が輩は今日はたいへん愉快だし、気分もいい。何でも遠慮せずに言うがいい!」
「メイドのエラインとタミレスを譲ってください」
「ん? メイドたちを?」
唐突なユリアの申し出に、ラダントゥースはリキュールを飲むのをやめた。
「はい。どうやらあの二人はレオタロウとレンに恋をしたようで、旅立つときに愛し合っている者たちを離れ離れにするのは忍びないと思いましたので」
「えっ?」
「ユリア姉!?」
「!」
「レンと?」
レンとレオタロウが驚き、アイとミアも驚いている。
「よい!ユリア殿たちには、オロチ退治のことといい、今回のドヴェルグ訪問のことといい、世話になっておるからな!たった今からあの二人のメイドはあなたたちのものだ!」
「ありがとうございます」
「まだ礼を言うのは早い。吾が輩たちは、まだ魔術のマの字も習得出来ていないのだ」
「えっ、まだ何も?」
「うむ。アイ殿、ミア殿、それにリディアーヌ殿には悪いが、吾が輩たちが魔術を習得するまで、このフリスゴレス・ロームに滞在してもらうことになるだろう...」
「ええっ?」
ユリアが驚き、ほかの子どもたちもクリスティラたちも、男神の言葉に口をあんぐりと開けたり、目を瞠ったりしている。
「そう心配せずともよい。魔術習得の暁には、後を追わせるゆえ」
「えええ―――っ?」
「悪く思うな。これは決して吾が輩のわがままではない。吾が輩も、オロチなどと言った悪霊からこのフリスゴレス・ロームを守らねばならんのだ!... イーストゾーンにおける悪霊たちの侵略を許すことは絶対にできん。魔術を習得して、この地を守ることは、悪霊たちの侵攻を食い止める防波堤を守ることでもあるのだ。マザー・パラスピリトの方々も、そのことは重々承知されておるであろう!」
見るとクリスティラもアキュアマイアもシルレイもうなずいている。
たしかにそうだ。通常の武器ではオロチなどには対抗できない。ハイ・パラスピリトたちが得意とする脳操作も悪霊のレベルが高いと効果がないことは、グヮルボとの戦いでもオロチとの戦いでも嫌というほど経験している。
「わかりました。男神さまのおっしゃることはごもっともです」
「そうか。わかってくれたか。それでは、今日はもう魔術の訓練は終わりにして、ドヴェルグの村での話でも聞きながら夕食としようではないか?」
ラダントゥースはそう言うと、すでに夕食の準備がされていた大ホールにみんなで移った。
そこにはすでにほかの側近神たちやキアヌーラ王妃を始めとする男神の妃たち、それに側近神や高位のハイ・パラスピリトたちがテーブルについていた。
メイドのエラインとタミレスもキアヌーラ王妃の後ろに控えていた。
二人とも沈んだ顔をして大ホールに入って来たラダントゥースやユリアたちを見ていた。
「すでに知っての通り、今回のハイ・パラスピリトさまお二人とユリア殿たちのサクロス・サイピズ山脈地域訪問は大成功を収めた!」
着席すると、男神はみんなを見渡して言った。
「「「「「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」」」」」
王妃、側近神や高位のハイ・パラスピリトたちから一斉に祝福する。
「そして、この大成功には、誠にうれしいことに、吾が輩の妻・キアヌーラ王妃のメイド二人の働きがあったからとユリア殿から報告を受けた!」
「おお、それはまたうれしい報告ですね!」
キアヌーラ王妃がニッコリと微笑んで言う。
「そこで、今回、見事な働きを見せたエラインとタミレスの二人を王妃のメイド役から解放し、この二人のメイドが恋をしたレオタロウ殿とレン殿といっしょに旅に出ることを許可することにした!」
「さすが男神さま!いつものことながらお見事な決定ですね!」
キアヌーラ王妃が、即座に男神を持ち上げて、彼の決定を褒める。
「えっ???」
「それってどういうこと???」
驚いたのはエラインとタミレスだ。
「あなたたちの働きに免じて、男神さまは自由をおあたえになられたのですよ!」
「えええーっ?」
「マジで?」
二人は男神の顔を見て、それからキアヌーラ王妃の顔を見て、それが冗談でないということを知ると…
エラインは崩れるようにしゃがみこんで、同じようにしゃがんだタミレスと抱き合って泣きはじめた。
「男神さま... キアヌーラ王妃さま... ありがとうございます... うっうっ うっ...」
「男神さま、キアヌーラ王妃さま、このご恩は一生忘れません... えーん...」
「はーっはっは!礼はユリア殿に言うがいい」
「そうですよ。おまえたちは10歳のときからよく仕えてくれましたからね」
「うェ――――ん!うェ――――ん!」
「え――――ん!え――――ん!」
二人とも大泣きだ。
「さあ、もうおまえたちは私のメイドではないのだから、レオタロウ殿とレン殿のそばに行って座りなさい」
「は、はい... うェ――――ん!」
「はい!え――――ん!」
エラインとタミレスは、ほかのメイドがレオタロウとレンの横に用意した椅子に座った。
それを複雑な思いで見ていたのはアイとミアだった。
(アイちゃんとミアちゃん、ごめん!ちょっと行き過ぎたかしら?)
ユリアが二人に謝る。
(...... しかたないわ。ここはエスピリテラだし、レンはもうシルレイさんもいることだし...)
(レンお兄ちゃんもレオタロウお兄ちゃんも、“女好き”なパパの息子だもんね...)
アイもミアも現実を肯定するしかない。
アイは心の中で考えていた。
“この分じゃ、男の子たちはみんなエスピリテラで、それぞれハーレムを築いちゃいのかも…”
ミアは、違った考えをしていた。
“レオタロウお兄ちゃんには、まだアキュアマイアさんとロリィちゃんとリーアとラピアがいるのに今度はエライン? ライバルは多いけど、なるべく嫉妬とかしないでみんなで仲良くレオタロウお兄ちゃんを愛せるようにしなくちゃ!”
その夜、レオタロウはアキュアマイアとロリィとミアとエラインの三人で寝た。
レンはシルレイとアイとラィアとタミレスと寝て、リュウはユリアとクリスティラと寝て、モモコはビルコックと、マユラは久しぶりにリディアーヌといっしょに一つの部屋で寝たのだった。
ツヴァイヘンダー




