41 フリズスゴレル・ローム(後編)
大ホールでの食事は2時間余りにもおよんだ。
ミノアングォ人たちの胃袋は底がないのではないか、と思うくらい片っ端から持って来る料理をたい平らげていった。
ユリアたちやクリスティラたちは早くに食べ終えたが、エチケット上、最後までミノアングォ人たちが胃袋をいっぱいにするまでおしゃべりの相手をしながら待たなければならなかった。
ようやく昼食が終わると、ラダントゥースにふたたび案内されて別室に移った。
そこは大ホールや謁見の間からくらべれば小ぢんまりした部屋だった― と言っても20メートルほど奥行きがあり、ガラスの壁には薄い上品なカーテンがかけられていて、座り心地のよさそうな椅子と長椅子がいくつかとローテブルもあり、いかにも食後にティーを飲んだり、酒などを楽しむ部屋といった感じだった。
その部屋にはラダントゥースの妻たちは入らず、ラダントゥースとヴァルゴースを含む10人ほどの側近神とセジスムーズだけがユリアたちと入った。
すぐに小柄なヤドラレ人のメイドが数人、ティーカップとティーポット、それにグラスとリキュールボルトを黄金製のトレーに乗せて持って来た。
小柄と言ってもミノアングォ人の平均体格からすればの話で、ユリアたちくらいの身長がある。メイドたちは、ヒザ上サイズのミニスカートみたいな腰巻を着けているだけで、上半身は何も着けてないので、おっぱい丸見えだ。
ラダントゥースはリキュールを勧めたが、クリスティラもユリアたちもティーを選んだが、アキュアマイアもシルレイもラィアもロリィもリキュールを選んだ。ハイ・パラピリストたち、お酒好きになったようだ?
(クリスティラ... ときに相談があるのだが...)
ビールジョッキほどもあるサイズのグラスにこぼれんばかりにリキュールを注いで、まるで水を飲んでいるように5、6杯飲んだあとで、ラダントゥースはクリスティラの顔をうかがうような感じで“念話”で話しかけた。
(はい。なんでしょう?)
(マザー・パラスピリトは、吾が輩の妻になる気はないかな?)
男神は、謁見の間でマザー・パラスピリトたちをハグしたときに、その柔らかな体とふくよかな胸の感覚に魅了され、自分のモノにしたいと思ったのだった。
「えっ?.........」
突然のプロポーザルに蒼い目を丸くして驚くクリスティラ。
思わず声が出てしまった。
そして、大きな椅子に座っているラダントゥースの両足の間をちらっと見た。
3メートルもの巨躯をもつ男神のアレは... 彼女が愛しているリュウの手首よりも太かった!
(いえ... そ、それはムリです...)
“あんなの入れられたら...裂けちゃうわ…”
平静を装ってはいたが、心臓がドキドキしていた。
(そうか... 残念だ。ではほかのマザー・パラスピリトたちに訊いてみよう)
アキュアマイアたちは、薄紫色の甘いリキュールをビールジョッキサイズのグラス半分ほど飲んでおり、もう完全に酔っぱらっていた。リキュールのアルコール度数は、ハチミツ酒の比ではないのだ。
「いやあ、オヨメさんにはなれないけど、一回くらいなら寝てあげてもいいわ!」
アキュアマイアがご機嫌で承諾している。
(アキュアちゃん、お酒の勢いで気軽に何でもホイホイと受け入れないで!)
クリスティラが、個人チャンネルで浮かれ気味のアキュアマイアに忠告する。
(なに言っているの、クリスちゃん? せっかく男神が、私の魅力を認めて、一夜を共にしようって...)
(あなた、リュウとの時でも、あれほど痛がったじゃない? あなたも見たでしょう? 男神のアレは、リュウの6倍はあるのよ?)
(スゴイわ!6倍もあるのなら、気持ちよさも6倍じゃない?)
酔っているので、アキュアマイアはうまく考えられないようだ。
(なにバカなこと言っているの? リュウとの時だって、アソコが避けるって大騒ぎしたくせに!)
(...... あ 思い出したわ あれはメチャ痛かった...(汗))
(今度はオシリまで裂けるわよ?)
(げげげっ... やめるわ...)
アキュアマイアはラダントゥースからのオファーを丁重に断った。
酔って気が大きくなっていたラィアとロリイも、アキュアマイアの次に男神に抱かれることを考えていたが、クリスティラの忠告で抱かれることをやめた。
三人から断られたラダントゥースは、あきらめずに今度はシルレイを誘った。
「じゃあ、私も...」
これも酔っぱらっていたシルレイが答えかけた。
が-
「シルレイ、おまえはオレのモノだ!」
レンから横やりがはいった。
「...... レンに抱かれるわ!」
そう言って立ち上がると、ふらふらとレンのところまで歩いて行って、彼の膝に腰掛け、首に腕を回してリキュール臭いチューをした。
“やれやれ... 収穫なしか。しかたないな”
ラダントゥースもハイ・パラピリストと一夜を共にすることはあきらめた。
「それでは、マザー・パラスピリトたちもミィテラからの旅人たちもお疲れであろうから、部屋に案内して休んでいただくこととしよう!」
自分たちにあたえられた部屋にはいると-
クリスティラは、ラィアとロリィを呼んで前に座らせると、お説教をはじめた。
「あなたたちは、ミモ・パラスピリトなのですよ。自分の言動に責任を持たなければなりません!
お酒を飲み過ぎて酔ってしまい、軽薄に人の誘いに乗って取り返しのつかない事態になったら、どうするんですか?!」
厳しいマザー・パラスピリトの言葉にシュンとなる二人。
「ミルリさんとチルリさんがミモ・パラスピリトに昇格したように、あなたちも近い将来、マザー・パラスピリトになるかも知れないのですよ?」
「ええっ?」
「わたしたちがマザー・パラスピリトに?」
考えもしなかった言葉におどろく二人。
「あなたたちは、私の娘です。それだけの資質はあるのです。若いから遊びたい、楽しみたいという気持ちはわかりますが、パラスピリトの将来、エスピリティラの将来が私たちにかかっているのです。そのことを絶対に忘れてはいけません」
「はい。申し訳ありませんでした。おかあさま」
「ごめんなさい、おかあさま」
アキュアマイアも、クリスティラの厳しい叱責を“自分への忠告としてだまって聞いていた。
そのころ…
もう一人のマザー・パラスピリト、シルレイは何をしていたかと言うと…
アキュアマイアたちに起こったことは何一つ知らずに、別室でレンに抱かれていた。
「レンさま、レンさま、愛しています!〇〇〇□□□――――っ!!!」
シルレイの悦びの声が摩天楼に響き渡った。
* * *
翌朝。
クリスティラたちはラダントゥースとともに朝食をとった。
男神はマザーパラピリストたちと朝食できるからか、たいへんご機嫌だった。
1時間ほどかけた朝食が終わると、昨夜と同じようにティ―を飲むために別室に移った。
昨日は閉められていたカーテンが開かれていて、そこからはフリスゴレスロームの街が一望でき、はるか遠くにカイラーサ山脈の白い尾根も見える。
そして北方には、延々と平原や山々が見え、その上に大きなライトムーンの姿を見ることができた。
「ここから 『エペロン・ミドリウム』までは、どれほどの距離でしょうか?」
クリスティラが眼下に広がる景色を見ながら訊く。
「ここからだと、 『エペロン・ミドリウム』までは一ヶ月ほどかかるが、『サクロス・サイピズ山脈』を越えねばならんぞ?」
「えっ、『サクロス・サイピズ山脈』?」
「うむ。“鉄で囲まれた聖なる山”という意味の名前の山脈だが、カイラーサ山脈ほど険しくはない。
サクロス・サイピズ山脈は鉄の産地でもあるが、あそこまで行くのであれば、ボルホーンだと一週間もあれば十分であろう。ただし、ドヴェルグたちテリトリーには気をつけなくてはいかん。ヤツらは見知らぬ者に対しては全然好意的ではないからな!」
「ドヴェルグ...?」
聞いたことのない種族だ。
「鉄製の武器や器具の製造にかけては、おそらくエスピリティラでもっともすぐれた連中だ。吾が輩はフリスゴレスロームで採れる食料や生産する工業品を彼らの産品や武器などの交換をしておるがな。交渉をするにしてもなかなか手強い相手だ」
「まあ、ここで好きなだけ休んで、これからの旅の準備などをゆっくりするがいい。フリスゴレスロームの見物もまだだろうから、ヴァルゴースにあとで案内させよう!」
「ありがとうございます。ラダントゥースさま、ちょっとお話があるのですが...」
クリスティラが、男神に話しかけた。
「話し? 吾が輩の妻になってくれるのかな?」
「いえ、それはすでにお断りしました」
「そうか。まあ、気が変わったらいつでも抱いてやるぞ? 我輩に一度抱かれた女は...」
「ラダントゥースさま」
クリスティラの顔つきが変わった。
口調も厳しいものになっている。
「ん? どうした? お前のそんな顔もゾクゾクするな? どうだ、考え直して...」
「いえ、私もほかのマザー・パラスピリトたちも、ミモ・パラスピリトも、ユリアさんたちも、金輪際、あなたさまの性ドレイにはなりません!」
「性ドレイ? 吾が輩は無理強いはしておらんぞ?」
「アキュアマイアさまもほかのハイ・パラピリストたちも酔っていたのです。まともな判断ができない状態だったのですよ? それを利用して私たちを抱こうと考えるなど...」
「しかし、酔っていたとはいえ、一応吾が輩と寝ることに同意したではないか? あとで断わられたのは残念だが...」
「それは、私がやめなさいと忠告したからです!」
「忠告? なぜだ? ほかのハイ・パラピリストたちが我輩に抱かれるのが羨ましかったからか?」
「とんでもありません!」
「じゃあ、なぜ邪魔をした?」
男神もクリスティラがハイ・パラピリストたちを抱くのを邪魔したと知って怒気を拭くんだ口調になった。
「ラダントゥースさんはどれだけの身長と体重がおありなのですか?」
「む... 3メートルちょっとで体重は300キロくらいだ」
「身長はラダントゥースさまの半分ほど、体重もラダントゥースさまの10分の1ほどのいたいけない女性が、ラダントゥースさまの巨大なモノを入れられたらどうなるかご存じでしょう?」
「ム... グググ...」
男神も、クリスティラの言っていることが理解できた。
しかし、火花散るような男神とマザーパラピリストの会話に、ヴァルゴースやセジスムーズやほかの側近神たちもハラハラビクビクしている。
「それは... 吾が輩はバージンの女が好きなのだ!」
クリスティラの鋭い問い詰めに口をすべらせてしまった。
「ならば、体格的にも相応な、ミノアン人かミノアングォ人の女性と寝てください。そんな巨大なモノを体重が十分の一しかないヤドラレ人の女性に寄生している私たちに入れて、泣き叫ぶのを力で押さえつけてヤるなんて、ファザー・パラスピリトの風下にも置けない卑怯、傲慢な態度であり、エイダ《光の母》さまのお名前を辱めるようなことは金輪際やめていただきたいと思います!」
「クっ......」
図星を差されて言葉を失うラダントゥース。
重苦しい静寂があたりを占める。
「悪かった...」
なんとラダントゥースが謝った。
「謝るのは私にではなく、ハイ・パラピリストたち全員に謝ってください」
「みんな、悪かった。許してくれ」
「え? あ... いいです、クリスちゃんの忠告で寝なかったんだし!」
「あ、わたしも赦してあげるわ!」
「右に同じ!」
ラィアとロリイも元気よく答える。
「ったく... アキュアちゃんは、リュウさんの時に、あんなに痛い目に遭って、リディアーヌちゃんに傷を治してもらったっていうのに...」
あまりにも能天気なアキュアマイアやラィアとロリイの様子をっ見て、さすがのクリスティラも少しブツブツ言っている。
「ほう... リディアーヌとやらは、治癒魔法を仕えるのか?」
「はい。ついでに膜も蘇生しておきました」
「リディアーヌちゃん、それまで言うことないのよ!」
マユラがあわてて阻止しようとしたが、もう口から出ていた。
「え?そうなの? じゃあ、私またバージンになったの?」
「そういうことになるわね」
マユラがヤレヤレと言った口調で答える。
その会話を聞いていたラダントゥース。
「なんと素晴らしい能力をもつ娘だな? どうだ、リディアーヌとやら、吾が輩の妻に...」
「リディアーヌはラダントゥースさまの妻にはなりません!」
マユラが大声をあげた。
「そうか... 残念だな。 おまえでもいいぞ、マユラという名前だったな?」
「そんなデカいモノ、私はイヤです!」
「吾が輩のモノがデカい? ワーッハッハッハ!」
一時はどうなるかと思った会話だったが、しまいには男神はご機嫌で大笑いをしはじめた。
「はーっはっはっは!ラダントゥースさまの大きさは定評ありますからな!」
「わーはっはっはっは!」
「ハハハハハハっ!」
「ぐわっはっはっは!」
ヴァルゴースやセジスムーズやほかの側近神たちまで安心して追従笑いをはじめた。
「それにしても、クリスティラ、おまえはマザー・パラスピリトの中のマザー・パラスピリトだな? ますます気に入ったぞ! お前が望むなら、吾が輩はこの体をお前に合う大きさに変えてもいいぞ?」
「いえ、結構です。わたくしにはすでにリュウがいますので」
全員の視線を浴びてリュウがきまり悪そうに、そしてちょっぴり誇らしげにしていた。




