37 カイラーサ・マウンティンズ(後編)
倒したヒュドラに、シルレイがソーウェッノーズをすると、ミカン大の大きな花火のようなモノがヒュドラの死骸から飛び出し、森の中へ消えて行った。
レオタロウとビルコックの話では、ユリアたちが岩塩山を見に行ったあとに、ヒュドラが反対の方角から突然現れたそうだ。
それを聞いたマユラが顔を西の方角に向けて言った。
「風が西から吹いているから、たぶん、ヒュドラはハンテンジャバルドの肉の匂いにつられて来たんだと思うけど...」
「おとなしい動物ばかりだと思っていたけど、こんな狂暴なバケモノもいるんだな...」
「でも、それは少しおかしいと思いませんか?」
クリスティラが疑問を口にする。
「え、どうしてだい、クリスちゃん?」
「先ほどの岩塩のある山のところにいた動物たちは、みんなおとなしかったでしょう?」
「そうよ。私たちが近寄っても全然怖がらなかったわ...」
「ということは、このあたりには害獣がいないということですよね?」
「そう言われればそうだな...」
みんな、クリスティラの言ったことに納得する。
「ということは...」
「たぶん、このヒュドラはどこか遠くから飛んで来たとしか考えられないな...」
「どこかって... 北?」
「南にはこんなのいませんからね」
「エペロン・テルメンにもいませんわ」
アキュアマイアが断言し、クリスティラもうなずく。
「とにかく、このヒュドラの死骸、何とか始末しましょう。こんなところに放っておいたら腐敗してしまうから」
「そうだな。じゃあ、レン、お前の念動力でこの大岩をどかしてヒュドラを燃やせるところまで移動させてくれ」
アイが魔力切れなので、レンにお鉢が回ることになった。
「えっ?出来るかな?オレの念動力、アイにはかなわないなって思ったんだけど...」
レンはブツブツ言いながらも、顔を真っ赤しにて千トン近い大岩をどけて元の場所にもどし、30メートル以上もあるヒュドラを燃やせるところまで移動させた。
しばらくしてから、魔力を回復したアイがファイアーストリームで燃やし尽くした。
そのあとで全員で水浴をしたが、今回ばかりはヒュドラとの壮絶な戦いのあとだったためか、前回のように男の子たちは女の子を触りまくったり、追いかけたりはせずに、ただ静かにあまりおしゃべりもせずに体を洗うだけとなった。
水浴を終えて池からあがり、服を着ていたときにそいつらは現れた。
モフモフドリが10羽ほど西側の森から現れた。
「きゅるきゅる!」
「きゅるきゅる!」
池からあがって服を着ているみんなを見ている。
「あらっ、モフモフドリよ!」
「ほんと、わァ、かわいらしいわね!」
「ボルホーンのあとをつけて来たのでしょうね」
モフモフドリたちはまったく怖がってないようで、トコトコと歩いて近寄って来た。
「きゅるきゅる!」
「きゅるきゅる!」
青い目でみんなを見つめながらバサバサっと羽を開いたり閉じたりしている。
大きさは30センチほどで白いふかふかの毛で覆われている。
群れのうちからちょっと小さいのが2匹トコトコとミアに近づいて来た。
「あ、こっちに来るよ!」
「ミアちゃん、動かないで!」
ミアのそばに来ると、ミアを見上げていたと思ったら…
バサバサっと羽ばたいてミアの肩に一羽がとまった!
「きゃっ!見て、見て!私のことが気に入ったみたい!」
すると、もう一羽もラィアのところにトコトコと走って行って羽ばたいて彼女の頭の上にとまった。
「ひゃっほう!私にもとまったよ!見て、見て!」
「あーん、私にもとまってーっ!」
ロリィが駄々をこねる子どものように叫ぶと、ラィアの頭から飛んでロリィの頭にとまった。
「あ、来た、来た!ラィアより私の方がいいみたいねっ!」
「こ、こらっ、1分頭にとまらせてあげた恩をもう忘れたのっ!」
プリプリっ!
ロリィの頭にとまっているモフモフドリが、何とフンをした。
「ひゃっ!」
あわてて首の後ろに手をやり、べっちょりと首についた黄色いフンを見て半べそ顔になるロリィ。
「あーっはっは!ロリィはトイレ代わりなんだーっ!」
ラィアが大笑いをする。
「はーっはっはっは!」
「ほーっほほっほ!」
「きゃははははー!」
「わーっはっはっは!」
みんなも大笑いだ。
「もう、モフモフドリなんてキライっ!」
すると今度はラィアに飛んでもどった、と思ったら肩でまたフンをした。
「きゃっ!キタナーイっ!」
ミアの肩にとまっているモフモフドリもプリプリっ!とフンをした。
「あ、いやねェ... ダメじゃない、モフモフ?」
するとどういうことだろう、ミアの肩にとまっているモフモフドリは顔をミアにやさしくこすりつけているではないか?
「ああ、きっと、このモフモフドリは、フンをすることで“自分のモノだ”と意志表示しているのよ!」
マユラがモフモフドリの行動を分析する。
「つまり、犬がオシッコをするのと同じようなものか?」
「そうでしょうね」
「あ、そうなの? モフモフ、もどっておいで!ロリィは何もしないよ!」
ラィアに頬ずりしたモフモフドリはロリィにもどって頬ずりをしたのでロリィは有頂天になった。
ラィアと二人手をとりあって子どものように飛び跳ねている。
その二人の頭を代わる代わる飛んでとまっているモフモフドリも「きゅるきゅる」とうれしそうに鳴いている。
「さあ、モフモフドリにもなつかれたことだし、そろそろ夕食にしましょう!」
ユリアの呼び声にみんなも足元にまとわりついているモフモフドリに気を取られながらも、キャンプファイヤーの周りにめいめい座る。
「ミアは、食事の前にもう一度水で洗わなきゃね」
「はい、お姉さま」
「あー、私もいっしょに洗うわ」
「わたしも!」
三人そろって頭や肩にモフモフドリをとまらせたままふたたび服を脱いで水でフンを洗い流しに行った。
「おっ、やはり美少女のヌードはいいな!」
「異論なし!」
「激しい戦いのあとの楽しみだな!」
男の子たちが色めきだつ。
モフモフドリのおかげで戦いの緊張がとれリラックスしたようだ。
「きゃっ!そんなに見ないでっ!」
「えっちー!」
「そうですよ、みんなエッチー!」
「見て減るもんじゃないからいいじゃないか!」
「あーん、もう!」
「早く池に入りましょう!」
三人の女の子が二回目の水浴を終えたあとで、夕食となった。
今日の夕食のハンテンジャバルドの焼肉を食べはじめる。
ハンテンジャバルドの肉は、濃厚な旨味があり、脂身の部分は格別に美味しかった。
ふだんはベジタリアンのハイ・パラスピリトたちも、少し食べてそのおいしさに目を見張っている。
ガツガツと食べているのはやはり男の子たちだった。
ビルコックをはじめ、すごい食欲でどんどん食べている。
ミアとラィアとロリィは、お腹が空きすぎているので、ぬれた髪をタオルで包んで食べている。
なので、髪から水が滴って胸に巻いたバスタオルにポタポタと落ちる。
「おっ、“水も滴るいい女”!」
早速レオタロウがミアを褒める。
「な、なによ、その“水も滴るいい女”って?」
「ラィアちゃん、それは男からの最大の賛辞よ!」
「あら、そうなの?」
「わたしはどう?」
「私は?」
それを聞いたロリィも男の子たちに訊く。
「ああ、ラィアもロリィも“水も滴るいい女”だよ!」
「うっふん。うれしいわ!」
「あとでキスしてあげるわね!」
「いや、いっしょに寝てくれたらいいよ!」
「えっ?もうそんなことを...」
ラィアが真っ赤になる。
「わたしも誰かと寝てあげてもいいわ」
「おう!ロリィ、オレが候補してやるぜ!」
「わぉ!やったー!」
「レ、レン!」
「あ、わりい。アイのあとでならな?」
「もう、レンったら!」
今度はアイが真っ赤になった。
「きゃーはっっはっは!アイちゃん、抱かれたい気分満々ね!」
「やめてっ、モモコさん!」
「あーっはっは!アイはレンにゾッコンだもんな!」
「はーっはっはっは!」
「ほーっほほっほ!羨ましいですね」
「きゃーはっっはっは!」
「わーっはっはっは!」
みんな大笑いだ。
その騒ぎを池の対岸の森の中から見ている者があった。
「オロチがあとをつけているのに気づいて気になってもどってみたが... 何とか始末してくれたようだな。それにしてもスゴイ連中だ... どこから来たのかな?」
そいつはトガのような布を身体に巻いて、腰には見事な装飾のあるベルトで締め、背丈ほどあるメイスを手に持っていた。
「この連中とは、いずれ会うことになるだろうな...」
そうつぶやくと森の中へ消えて行った。
夜は更けて、いつも通り、女の子たちは交代で男の子たちに抱かれ、マユラは リディアーヌ としっぽり温めあい、モフモフドリたちはキャンプファイヤーのそばで寝て- あの人懐こい2羽はミアとラィア&ロリィたちが抱かれたあとに彼女たちといっしょに寝てしまった。




