28 アキュアローム(後編)
「ちょっと中途半端なお時間ですけれど、お食事にしましょうね!」
アキュアマイアの一声で、美しいヤドリレイ人の娘たちが次から次へとカートに乗せた料理を運んで来てテーブルに置きはじめた。
ヤドリレイ人たちは、全員、パラスピリトなのだが、“この世界の常識”として、全員、スケスケの衣装で下着は一切つけてない。
おまけに若い娘ばかりなので、男の子たちはずーっとエキサイトしたままだった。
幸い彼らはスケスケの服は着てないし、羽織っているマントで前を覆ってテントを張ったみたいになっているパンツの部分をうまくかくしていたが。
アキュアマイアがテーブルの上座側にクリスティラを横にして座り、下座側にユリアたちがミモ・パラスピリトたちと座って食事がはじまった。
「まず、最初に、わたくしのかわいいプリュースの子どもを助けてくださったお礼を述べなければなりませんね? お名前はアイさんでしたね、たいへんありがとうございました」
「いえいえ、お礼なんてとんでもありません。あの状況を見たら、誰でも助けます」
「でも、いくら空を飛べるとは言っても、人魚食いギャンゴラゲと戦うには、かなりの勇気が必要です。あの助けていただいたプリュースのリーダーの報告では、みなさんとても落ち着いておられたとのこと。お若いようですけど、それなりに戦いの経験などたくさんおありなのでしょうね?」
そこでユリアたちは自分たちはミィテラの世界から来た者で、あちらの世界で魔大陸でゴブリン狩りなどをして戦い方をおぼえたことなどを話した。
アキュアマイアたちはたいへん興味を持ち、色々と訊いて来た。
「ああ、それで、あなたたちはヤドラレ人のようですけど、ちょっと違うところがあるのですね?」
アキュアマイアはそう言って、ユリア、アイ、リュウ、マユラ、レオタロウ、モモコたちを興味深そうに見た。
ユリア、アイ、ミア、それに リディアーヌ はエルフの母親と人間の父親をもつハーフたちなので、それぞれエルフの特徴である細長い耳をもっている。もっとも、ミアなどは人間でるレオ王の血が濃いのか耳はそれほど長くはないが。
一方、レオタロウとモモコは母親が鬼人族なのでツノが頭にある。
モモコは女なので額の横から2本の短いツノが出ているし、レオタロウは男なので額の真ん中から15センチほどの立派なツノが生えている。鬼人族の男のツノは、年をとるにしたがって伸び、また戦いなどで勝利すると伸びたりする。なので、鬼人族の戦士にとってツノの長さはステータスでもあるのだ。
ただ、レオタロウの場合は、怪力のモモコ姉にツノを掴まれやすいというウイークポイントになっているのだが。
そしてマユラは獣人族の豹種族である母とレオ王の娘なので、豹耳とシッポをもっている。
顔は母親似で美人だが、体は薄い褐色に斑点があり、特技はカメレオンスキルで、その名前の通り、周囲の色に体色をあわせることができる。カメレオンスキルは豹種族の中でも、特定の女性にしかできない貴重なスキルでもあり、男はどういうわけか一切できない。
ただし、カメレオンスキルは服を着ていては意味がないので、裸になる必要がある。
年頃の豹種族の女の子にとって、裸になるということはとても恥ずかしいことだが、カメレオンスキルがもっともパーフェクトに使えるのは奇妙なことに思春期から30歳くらいまでの“女ざかり”の期間なので、獣人族軍も隠密部隊にピチピチの豹族の若い女性たちを招集するくらいだった。
マユラの母・ ミューロィナ、愛称ミユも、若き日のレオにカメレオンスキルを披露して― あとで彼女は体中から火が出るように恥ずかしかったと述懐したのだが― その美貌と抜群のスタイルをレオ王に認められて勇者の仲間になり、そののち、レオ王と結婚して王妃にまでなったのだから、まさしく“芸は身を助ける”だ。
ちなみにリュウは白竜族の母とレオ王の子であり、レンは夜叉族の母をもつランとレオ王の子なのだが、この二人は外見上はリュウのブルーとゴールドの混じった髪と冠羽状のものを頭にもっているのが違っているだけで、あとはどこも変わったところは見えないし、レンに至っては、まったく人族そのものなのだ。
ユリアたちは、今まで食べたことのない美味しい料理に舌鼓をうっていた。
「これ、とてもおいしいですね?何という料理ですか?」
「この湖で獲れるグフというお魚のスープですわ」
ユリアの横に座っているシルレイが教えてくれる。
「このサラダもおいしいわ!」
「それはアルガエという藻の一種ですよ」
アイの横にいるイザイラというミモ・パラピリストが教えてくれる。
「このプリプリした身はエビかい?」
「多くの足をもって固い皮に覆われているカマロネという名前の甲冑類よ」
ペルラというミモ・パラスピリトがレオに教える。
「アキュアマイアさま、このモグノアガローム湖にはアトゥンとかケシャなどというお魚はいないのですか?」
「ガゼとかハララゴとか言うものもいるか知りたいです!」
ラィアとロリィがアキュアマイアに訊く。
よほど野宿で聞いた寿司の話が記憶に焼き付いていたのだろう。
「アトゥンにケシャ?」
アキュアマイアが不思議そうな顔をして問い返す。
「それとガゼとハララゴです」
「ガゼとハララゴ?」
シルレイもフォークとナイフの手をとめて訊く。
「アトゥンは赤身の魚で、脂が乗ったものが美味しいんですよ!」
「ケシャはピンクがかったオレンジ色の身の魚で、脂のりがよくて美味しいんですっ!」
ラィアもロリィも、すでに“食べたことのある”ような感想を言っている。
「ラィアさん、ロリィさん、アキュアマイアさまにご馳走をいただきながら、ほかの料理のお話をするのは失礼ですよ?」
クリスティラがたしなめた。
「ハララゴは“口にいれて噛んだらプチプチって鳴って、濃厚な甘さが口中に広がる”んですって!」
だが、るが、そう言った口でクリスティラも、いかにも食べた経験があるようなことを言っているのだから、いかに三人が“寿司”というまだ食べたことのないものに魅了されているかがわかろうというものだ。
「そのお魚、何だかとても美味しそうですね... でも、残念ながら、川や湖には赤身のお魚はいませんわ...」
アキュアマイアがラィアたちを見ながら答える。
「ガゼとかハララゴとかいうものも採れません」
シルレイも寿司の話を聞いたときに、思わず生唾を飲んで残念そうに答えた。
「それらのお魚や卵は、どんな料理をしていただくのですか?」
「アキュアマイアさま、これらのお魚や卵はですね...」
「スシというおコメを炊いて握ったものの上に...」
その質問を待っていました、とばかりに、ラィアとロリィが代わる代わる寿司という超うまい食べ物について話し始めた。
ユリアやリュウたちは、驚いておたがいの顔を見合わせていたが-
「あーっはっはっは!」
「きゃはははははー!」
「ガーッハッハッハ!」
「あははははー!」
「やだー、ラィアちゃんもロリィちゃんも!アーッハッハッハ!」
みんな大笑いだ。
「?」
「?!」
そのときになって、初めて二人のグラトニトルのミモ・パラスピリトは、自分たちが何を言い出したのか気づいて下を向いて真っ赤になってしまった。
「いいよ、いいよ、ラィアちゃんにロリィちゃん、話を続けて!」
「そうよ。ほら、アキュアマイアさまも続きを聞きたがっているじゃない?」
「ラィアちゃんとロリィちゃん、説明上手だね!」
「本当に上手だわ!」
「ラィアさん、ロリィさん、続けてください」
みんなから励まされ、クリスティラさまから促されて、二人は顔を真っ赤にしながら説明を続けたのだった。
「それはお話を聞いただけで涎があふれて来そうなお料理ですね?」
アキュアマイアは“寿司”にたいへん興味をもったようだ。
「このモグノアガローム湖で獲れるお魚で、そのスシという料理に使えるお魚はいるでしょうか?」
シルレイも興味をもったようだ。
「うーん... どうかな。マサさんは『寿司には川魚は使わないんだよ!』って言っていたけど...」
「えっ、そうなんですか?どうしてでしょう?」
「それは、海の魚は最初からもう塩味がついているからだって!」
「あ、なーるほど!」
「海の水はしょっぱいって聞きますものね!」
アキュアマイアとシルレイが納得し、クリスティラたちも頷いている。
だが、それが本当ではないことをリュウは知っている。
海に棲む魚の肉が塩味であるはずなどない。寿司職人のマサさんは「川魚には様々な寄生虫が寄生しているから、生で食べることは避けるんですよ」と本当の理由を教えてくれたのだが、そのことをみんなの前で言うと、知らずに得意そうに話しているラィアとロリィを恥ずかしがらせることになるのでリュウは良識を使ったのだ。
寿司レクチャーが一応済んだころ、ユリアがアキュアロームに来たときから持っていた疑問を口にした。
「ところで、どうしてここにはヤドラレ人が多いのですか?」
「ああ、それは、千何百年ほど前に、大勢のヤドラレ人たちが西からこの地に移動して来はじめたのです。
明らかにほかのマザー・パラスピリトが作った生命が進化したものだとすぐにわかりました。二本足で歩き、手も器用に使え、頭もそれほど悪くない- というか、正直な話、わたくしがここで作り上げた生命より賢いと思ったので、厚遇してやり、ここに定住するように勧めたのです...」
「では... このヤドラレ人たちは...」
「おそらくクリスティラちゃんが作られたヤドラレ人たちだと思いますわ...」
「!... そうですか... ヤドラレ人って、結構遠くまで来ていたのですね」
「この地にとどまらず、さらに旅を続けた集団もいましたわ。ですから、ここから東にも、いえ、エスピリテラのどこにヤドラレ人がいても不思議ではないと思います」
「それで、アキュアマイアさまはヤドラレ人を気に入って、宿主に選ばれたわけですね?」
「わたくしもプリュースまで進化させることができましたけど... ヤドラレ人の方が機能的だし、身体も美しいですし」
「どうも。アキュアマイアちゃんにお褒めいただけてうれしいわ!」
二人のマザー・パラスピリトは、おたがいの顔を見て微笑んだ。
「それでここにたくさんのヤドラレ人がいるのは分かったけど、一つわからないことがあるんだ」
「あら、何かしら、リュウさん?」
「マザー・パラスピリトさんもミモ・パラスピリトさんたちも、みんな女性じゃないですか?男のハイ・パラスピリトって、グラトニトルの町にも、この町にもいないようだし。男のマザーパラピリスト、じゃないファザー・パラスピリトとかっていないんですか?」
「それは...」
アキュアマイアはそこまで言うとクリスティラを見た。
「「女性は母性本能をもっているからです!」」
二人いっしょに答えた。
「え? 母性本能?!」
「そうです。女性は生命を生み、育むのに適しているのですよ」
「女性の特徴、存在意義とも言えるでしょう」
アキュアマイアとクリスティラが男の子たちの顔を見ながら言った。
「ああ、だからクリスティラさまは、オレたちと愛し合って子どもを作るって言ったんだ!」
「え?クリスティラちゃん... このオスたちと交配しようとしたのですか?」
アキュアマイアが水色の目を少し見開いて驚いて訊く。
「えっ、そのっ、あれはっ、そのっ...」
なんと、クリスティラが蒼い目を白黒させて狼狽している。
蒼い目なので、白蒼というのが適切かも知れないが、ここは古代からの慣用句通りに表現するとしよう。
「それで、妊娠はされたのですか?」
アキュアマイアが鋭く突っ込む。
いや、彼女にクリスティラをイジメてやろうなどという気はまったくないのだが、側で聞いている者にとってはそんな風に見える。
「あの... マザー・パラスピリトさま、いくら何でもそこまでは...」
見かねたシルレイが間に入ろうとする。
「いえ、シルレイさん、いいんです。妊娠はしていませんし、したいとも思わなくなりました」
「「「「「「「「ええええ―――――?!」」」」」」」」
今度はリュウたちが驚く。
「ヤドラレ人のお産経験者に訊いたら... 出産ってとっても痛いそうです。アソコが裂けるそうです...」
そのイメージをクリスティラはアキュアマイアとミモ・パラスピリトたちの脳に送ったので、みんなドコのことかわかった。
そして... 真っ青になった!
「ですから、妊娠は断念いたしました」
「そ...それは懸命な判断だったわね... でも、そんなにまでして子どもを作りたかったの?」
「興味がありましたし、経験もしたかったのですが、もう諦めました。その代わり... あ、これは言っちゃあダメですわね?」
そう言って、ちらっとリュウの顔を見たが、すぐにあらぬ方向を見た。
だが、アキュアマイアもマザー・パラスピリトだ。
クリスティラがリュウに一瞥をし、リュウがそれを受け止め“ドキっ!”としたのを見逃さなかった。
(クリスティラちゃん...)
アキュアマイアは念話に切り替え高速コミュニケーションをはじめた。
(な、なあに、アキュアちゃん?)
(白状なさい!クリスちゃん!あのリュウってコとやった交配のことを、洗いざらい白状なさいっ!)
(リュウと交配をしました。終わり!)
クリスティラが棒読みするようにして答える。
何とか、この話題を早く終わらせたいようだ。
(クリスちゃん!私もあなたも同じエイダさまの娘なのよ?)
火を噴かんばかりの強い念話がクリスティラに浴びせかけられる。
いつもは冷静なクリスティラもアキュアマイアの猛攻にたじたじだ。
たしかにそうだ。
クリスティラもアキュアマイアも、エイダさまからエスピリティラを生命で充満させるために産み出され、エスピリティラの各地へ使命を持って旅立ったのだ。
3万年という長い間、アキュアマイアもクリスティラと同じように、口にも出せないような苦労をしたに違いない。
“同じ仲間として経験は共有すべきね…”
そう思ったクリスティラは語りはじめた。
リュウとの初体験を。
赤裸々な愛の褥の様子をイメージを送りながら語った。
(リュウはね、私にやさしくしてくれて... チューを何度も何度もしてくれて...)
(えっ、そんなことされたの? ふんふん、それからどうしたの?)
(そのあとで...... されて...)
(えええっ!信じられないわ!)
(女性はオトコからやさしくチューされたり、身体をさわられたり、揉まれたりしたら気持ちよくなるの...)
(へえ... 揉まれるとね...)
急にアキュアマイアが豊かな胸を両手で揉みはじめたので、そばにいたシルレイやミモ・パラスピリトたちが目を丸くして驚いている。
(アキュアちゃん、そんなこと人前でしちゃあダメよ!)
クリスティラが、まるで自分が胸を揉んでいるかのように赤くなって注意する。
(あら、そうなの?)
アキュアマイアがおかしな仕草をやめたので、クリスティラは話を続けた。
(それで、そのあとで、リュウは私の足を広げて...)
アキュアマイアがテーブルの下で足を開いている。
(アキュアちゃん、ヤメないとお話しやめるわよ?)
(はい。やめました!続けて、続けて!)
(それからリュウは...... したの)
ゴクン...
アキュアマイアが唾を飲みこむ音がした。
(リュウのサイズはどれくらい?)
(うーん... そうねえ... ふつうのヤドラレ人のオスのくらいだと思うわ)
(それで、... されて、どう感じたの?)
(とても気持ちよかったわ!)
(そんなに気持ちよかったの?)
(“こんなに気持ちがいいこと”がこの世界にあるなんて、あの時まで知らなかかったわ。世界が甘くとろけてしまいそうになったの... )
クリスティラは、敢えて初体験がとても痛いということを教えなかった。
* * *
その夜。
ユリアたちは十日ぶりに快適な部屋で寝ることができた。
客人用の部屋の天井は当然ガラスで、部屋には大きなガラス製のベッドが二つあり、鳥の羽をいっぱい詰めた、やわらかでふかふかしたマットレスに寝ることができると知ったラィアやロリィのよろこびと言ったらなかった。
各部屋に4人ずつ寝るようにとシルレイから言われ、男の子たちはビルを含めて4人に一室があたえられた。
「夜、おたがいのお部屋を訪れてお話をされてりしても構いませんが、それ以上のことはお控えください」
“男女間のコトはだめですよ”と言外に匂わせてシルレイは去って行った。




