22 ダーマガの決戦
【Batlle of the Damaga Plains】
『ダーマガの平原』における決戦は、翌日未明の奇襲から始まった。
ストリギダ族の戦士1万8千匹が、グヮルボの棲むレムザー湿原の森を奇襲したのだ。
グヮルボは昼しか活動しないが、ストリギダ族は夜行性なので真っ暗闇でも問題なく戦える。
寝込みを襲われたグヮルボたちは暗闇の中、反撃のしようもなく、バタバタとストリギダ族の戦士たちの弓や槍で倒されていった。
しかし、いくらストリギダ族の戦士たちが勇敢であろうと、グヮルボは14万匹以上だ。多すぎる。
ストリギダ族戦士たちは力の限り奮戦し、5万匹以上のグヮルボを倒した。そして夜明け前に引き上げた。
明るくなれば、数が多いグヮルボが俄然優位になるからだ。
ストリギダ族の奇襲を受け大混乱に陥っていたグヮルボたちは、夜が明けてから2時間ほどでようやく混乱を収束し、四方八方に偵察隊を出し、ダーマガの平原に3万のラピテーズ軍が待機していることを知ると、早速5万のグヮルボたちを送りこんで来た。
グヮルボの大群が沼地周辺の森から一斉に飛び立ったのを見て、ミアが飛行魔術で上空へと向かう。
彼女は上空から戦況を確認し、地上の味方に情報をあたえる。もちろん、グヮルボたちから攻撃されないように母親譲りの姿を消す“ステルス魔法”を使ってだ。
グヮルボは、わずか3万のラピテーズを見て、見くびったのと同時に、なんとしても奇襲の仕返しを一秒も早くしたいとロクな作戦も立てずに、ダーマガの平原に戦列を組んでいるラピテーズたちに襲いかかった。
ラピテーズ戦士たちは、全員が強力な弓を構えていた。
ラピテーズ族は、人族の10倍以上の体重があり、力も4倍以上あるため強弓を使えるのだ。
彼らはグヮルボの大群が充分な射程にはいるのを待って、一斉に矢を放った。
ザザザザザ――――!
ザザザザザ――――!
ザザザザザ――――!
ザザザザザ――――!
ザザザザザ――――!
それは、まるで引力に逆らって地上から天に向かって降る雨のように― いや、ラピテーズの使う矢は槍ほどの大きさなので、天に向かって降る槍の雨と言った方が正解か― 血眼になって反撃のために飛来して来たグヮルボたちを襲った。
初撃で1万匹以上のグヮルボが撃ち落とされた。
慌てふためくグヮルボの大群に矢継ぎ早に二撃目、三撃目と矢継ぎ早に攻撃され、1時間もしないうちに4万匹を撃ち落とされ、残ったグヮルボたちは這う這うの体で森へ逃げ帰っていった。
ダーマガ平原の戦い
間髪を置かずに、すぐに第二波の5万匹のグヮルボたちをレムザー川に向かわせ、大量の河原の石を抱えさせて投石作戦に出ようとした。
しかし、グヮルボたちは河原に降りる前に一斉にグングンと高度を上げ、300メートルの上空から黒い雪崩のように河原に次々に衝突し、固い石にぶち当たって黒い羽を、肉を、血を飛び散らして死んでいった。
グワッ グワッー グワッ?!
グワ グワッー グワッ?
グワ グワッ グワワーッ?!
レムザーの森は、レムザー湿原を囲むような形になっている。
レムザーの森は、夜明け前にストリギダ族の奇襲を受けたグヮルボたちの塒であり、森に残ったグヮルボたちは仲間の自殺行為を見て、“一体、何が起こっているのだ?”と大騒ぎをはじめた。
そして、彼らは河原の周辺に、百人ほどのヤドリレイ人たちがいるのを発見した。
それはミモ・クラナたちに率いられた150人のハイ・パラスピリトたちだった。
ハイ・パラスピリトたちは夜明け前にラピテーズに乗ってレムザー川の河原に到着し、周辺にかくれて待機していたのだ。
グヮルボたちは、直感でその河原にいるヤドリレイ人たちが“何か魔法でも使って”仲間たちを墜死させているのだと悟った。すぐに千匹ほどのグヮルボたちが、ハイ・パラスピリトたちを攻撃するために森から飛びだしたが…
結局、この千匹も何もできず、意思に反して空高く舞い上がると、やはり次々と地上目がけて死のダイビングを行いはじめ、たちまち全滅してしまった。
そしてラピテーズ族部隊の前進が開始された。
ジャバルドの角笛が高らかに鳴らされる。
ププププッオ―――!
ププププッオ―――!
ププププッオ―――!
それはラピテーズ族戦士の戦闘ラッパだった。
縦隊のラピテーズ戦士たちが
ブヒョヒョヒョ―――ン!
ブヒョヒョヒョ―――ン!
ブヒョヒョヒョ―――ン!
ラピテーズ族戦士たちの雄叫びがダーマガの平原に鳴り響き、レムザー湿原にいるグヮルボたちを挑発した。
「グワッグワ グワ――――!!」
「グワワッグワワッ グワワワワワ――――!!」
グヮルボのボスの“突撃!”、“敵を一人も残さず皆殺しにしろ!”の命令が響き渡り、森の中から新たに4万匹のグヮルボたちが、血相を変えてダーマガの平原にいるラピテーズ族戦士に殺到した。
ダーマガの平原には、ユリアたちのほか、マザー・パラスピリトが150人のハイ・パラスピリトたちを率いてグヮルボの攻撃を待っていた。
マザー・パラスピリトたちは、ここでもグヮルボたちの脳を操作し、墜死させるつもりだった…
だが...
どういうことか、グヮルボたちはまったく高度を上げることなく、ラピテーズ軍に向かって全速力で接近して来た。マザーパラピリストたちが顔色を変えて、懸命にハイ・パラスピリトたちとグヮルボの脳操作を行おうとするがまったく脳操作を試みるが、まったく効き目がない。
ラピテーズ軍の上空に達したグヮルボたちが矢を雨のように射る!
ラピテーズ兵たちも必死に応戦するが、何せ敵の数が多すぎる。
次々と矢を受けてラピテーズ兵たちが倒れだす。
このままではラピテーズ軍は全滅してしまう!
その時-
突然、ラピテーズ族部隊のいる平原の地面がモコモコと盛り上がりはじめた…
と見ると、地上に穴を開けて出て来たのは...
なんとダトーゥ族たちだった!
ダトーゥ族の戦士たちは、土くれを押しのけ地上に出ると、素早くラピテーズ族戦士たちの前に立ち、全身の鱗甲板をババーっと広げた。
グヮルボの放った矢は、ダトーゥ族が扇子を開くように展開した鱗甲板で弾き返される。
だが、それでも矢の数が多すぎた。ダトーゥ族戦士たちが広げた鱗甲板と鱗甲板の間から飛び込んだ矢でなおもラピテーズ族戦士たちがバタバタと倒されていく。
ラピテーズ族戦士たちも負けじと弓で射返すが、四方八方からグヮルボが飛びながら攻撃して来るので、対応のしようがない。
(ユリアさん!どういうことか、何度やっても、私たち-ハイ・パラスピリトの脳操作スキルが利きません!)
マザー・パラスピリトが、かなり動揺した感じの緊急念話連絡をしてきた。
事態を理解したユリアたちは、これ以上、ラピテーズ族戦士たちに犠牲者が出るのを防ぐために、すでに攻撃を開始していた。
ユリアはガーンデーヴァの弓で1秒間に10発以上の連続してファイアー・アローを機関銃のように打ち出しはじめた。ファイアー・アローは直径1メートルほどの火炎弾で、一撃必殺だ。
アイも“雷禍”魔法でグヮルボどもを数百匹ずつ丸焦げにしていく。
そして、レンは例の何千と立てられていた長く太い先端の尖った丸太の柵のようなものを、念動で一斉に高速で飛ばし、グヮルボたちを撃ち落としていく。
レンたちが数日かけてダーマガの平原に並べた策- あれは柵ではなく、決戦でレンが飛び道具として使う武器だったのだ。
ダーマガの平原では、ラピテーズ族、ダトーゥ族を巻き込んだ凄惨な戦いがくり広げられていた。
夜明け前にグヮルボたちを奇襲した1万8千匹のストリギダ族たちも、急を聞いて飛んできて戦いに加わった。
地上で、空で、凄まじい血みどろの戦いが始まったが、獰猛さと数の多さでグヮルボたちが圧倒的で、味方は押され気味だ。ストリギダ族が空を飛べるといっても、彼らが得意とするのは夜間だ。ストリギダ族たちも近接戦の末、次々と落とされて行く。
地上ではリュウ、レオタロウ、マユラたちが必死に応戦し、リディアーヌ は数えきれないほどの負傷者の治療・回復に流れ落ちる汗を拭くひまもないほどだ。
形勢は、どう見てもグヮルボたちが優勢だ。このままでは、ラピテーズ軍も、ストリギダ軍も、ダトーゥ軍も全滅してしまう。
「クソっ!このままではやられてしまう!退却しかないか?」オートが叫ぶ。
「まずい!グヮルボたちが多すぎる!昼間はストリギダ族に分が悪い!バンゾウ の率いるヤドラレ人軍はどこにいるんだ!?」
ブボ・ケトゥパが次々と落ちて行く仲間を見ながら歯ぎしりして訊く。
ゴレンたちやゴートら《頭たち、イクシー、マーギュ、ピリュラーたちオートの妻たちリアーもラピアも必死で戦っている。
「マザー・パラスピリトさま、援軍はまだですかっ?」
「これ以上はムリですーっ!」
リアーとラピアが悲鳴をあげている。
彼女たちに共生しているミルリとチルリは、グヮルボたちを脳操作で攻撃できないとわかったので、リアーとりピアに体をまかせて戦わせているのだ。
自軍が圧倒的に優勢になり、ラピテーズ族やストリギダ族を圧倒しているのを見たグヮルボのボス。
「グワハッハッハ――――!!」
「グワッグワッグワッ グワワワワワ――――!!」
“これで勝った!”とばかり大笑いをすると、森に残っていたすべてのグヮルボたちに“総攻撃”を命じた。
森の中から残っていた2万のグヮルボたちが一斉に飛び立った。
ザザザザザザザザザザ ――――――ッ!
ザザザザザザザザザザ ――――――ッ!
ザザザザザザザザザザ ――――――ッ!
「グワワワワワワワワ――――!!」「グワワワワワワワワ――――!!」
「グワワワワワワワワ――――!!」「グワワワワワワワワ――――!!」
「グワワワワワワワワ――――!!」「グワワワワワワワワ――――!!」
「グワワワワワワワワ――――!!」「グワワワワワワワワ――――!!」
けたたましい叫び声をあげて、2万のグヮルボの新手がダーマガの平原に殺到する。
それを見たマザー・パラスピリトは念話で命令を出した。
(ミモ・ラィアさん、ミモ・ロリィさん、今よ!プランB発動!)
(はいっ!)
(はい、マザー・パラスピリトさま!)
突然、レムザー湿原をはさんだ形で北西にあるヤドラレ人の森と南西にあるストリギダ族の森の奥から、馬に乗ったヤドラレ人の部隊が一斉に空へ飛びだした。
バサバサバサバサ――――――っ!
バサバサバサバサ――――――っ!
バサバサバサバサ――――――っ!
バサバサバサバサ――――――っ!
それもすごい数の馬が!
「あれは馬?!」
「いや、違う。翼があるわ!」
「ボルホーンじゃない?」
ラピアとリーアが目を丸くしておどろく。
そう、それは馬ではなかった。体の両脇から四つの大きな翼が生えている。
それはギリシア神話に出てくるペガサスに似たエスピリティラの動物ボルホーンだ。
「ボルホーンに乗っておるのは?」
「ヤドラレ人たちではないか?」
オーンとブボ・ケトゥパが茫然と急速に接近するボルホーンの大軍を見ている。
ボルホーンの背には二人のヤドラレ人が乗っており、前のヤドラレ人がボルホーンを操り、後ろのヤドラレ人が弓や槍を構えている。
ヤドラレ人の戦士たちを乗せたボルホーンの大軍は、見る見るうちにダーマガの平原の上空に達すると、ボルホーンの背に乗ったヤドリレイ人戦士たちは、弓で一斉にグヮルボたちを攻撃しはじめた。
それを見たリュウが念話で叫んだ。
「ティーナちゃん!オレたちをレムザー湿原のグヮルボのボスのところへっ!」
「オーケー!ティーナ・ロケット――っ!」
守護天使がたちまちティーナ・ロケットを作る。
レンがミアから報告を受けたグヮルボのボスがいらしいところへロケットの機首を向け、角度を調整する。
「アイとマユラとレオタロウはここに残って!私とレンとリュウはボスを倒しに行くわ!」
「わたしたちも行きます!」
ミモ・ヒュネとミモ・アシュも乗りこむ。
「よっしゃー!まかせとけ!」
「いいわ!ここは私たちで十分よ!」
「気をつけて!」
ド――――ン!
いつも通りにバカでかい効果音を出して、ティーナ・ロケットはレムザーの森の一角を目指して打ち出された。
レムザー湿原の真ん中にあるレムザー湖。
そこを源流とするレムザー川は、湖の東側― すなわちダーマガの平原からもっとも遠いところにあり、グヮルボたちのボス グヮン=グヮジルドは、そこで500匹の親衛隊に守られて戦いの指揮をとっているのをミアが発見していた。
グヮルボ軍が、新たに現れたヤドラレ人のボルホーン部隊に突然攻撃され、大混乱に陥っている今が、敵の本陣に殴りこむ好機だとリュは考えたのだ。
ティーナ・ロケットは高速飛行し、ミアがもたらした敵・グヮルボの本陣の真っただ中に強硬着陸した。
グヮルボ親衛隊が、ものすごい速さで接近する奇妙な筒型のロケットを「?」「?」「?」と見ているところにロケットは着陸した。
ティーナ・ロケットが着地する寸前に、レンの念動によって全員がロケットの周囲に展開された。
全員が着地するのと同時に、ティーナが防御バリアーを張った。
ユリアが目にも止まらない速さで、森の木を燃やさないように一発必中の矢をグヮルボ親衛隊たちに機関銃のように連射しはじめ、森の木々の枝にとまっているグヮルボ親衛隊たちを片っぱしから撃ち落としていく。
レンはジグザグに高速念動飛行しながら、30本の60センチの長さの鋼鉄製の棒手裏剣を音速を超えるスピードで飛ばし、迎え撃ちに来るグヮルボどもを穴だらけにする。
そしてリュウは胸の前で両腕を交差すると、
「ヘンシーン!」と叫んだ。
次の瞬間、身長175センチのリュウの身体は
5メートルの大きさの月白色の白龍に変化した!
(えっ、なによ、その“ヘンシーン!”って?)
(なんだ、それは?リュウ、おまえだけカッコよすぎる!ズルいぞ?!)
ユリアとレンがリュウの変化を見ておどろく。
(キャっ!リュウ、ステキ―!)
(カッコいいわー!)
ミモ・ヒュネとミモ・アシュがうっとりとした目で飛んで行くリュウの姿を追っている。
リュウの背中からは、透明に近い月白色の翼が出ており、頭はゴールドとブルーが混じった美しい毛になり、後部頭には冠羽のようなゴールドの羽が生えていた。
グヮルボ親衛隊たちは、ロケットが彼らの本陣の真っただ中に着陸したのを見て仰天したものの、すぐに応戦体制に入った。
そこへ、白龍化したリュウが飛びこんで来た。
「グワワワ――――(なんだ、コイツは)?」
「グワワッワワ――(飛んで火にいる夏の虫だ、殺せーっ)!」
「グワッグワワ――――(ボスに近づけるな)!」
リュウの姿を見て、グヮルボ親衛隊数十匹が矢を一斉に放ったが、白龍化したリュウの肌は硬くて矢など通さない。
それでも数十匹のグヮルボ親衛隊が槍や剣をかざしてリュウ目がけて突っ込んでいった。
レンは敵を攻撃していた30本の棒手裏剣のうち、半数をリュウに向かって来るグヮルボ親衛隊たちに向けて飛ばして援護をする。ユリアもガーンデーヴァの弓の速射で援護射撃をする。
レンとユリアの援護のもと、リュウは自分の進路をふさぐグヮルボ親衛隊たちを、フラガラッハの剣を水車のようにふりまわして― あまりにも速くてグヮルボたちは刃先を見ることもできずに、片っ端から叩き切られて落下していく。
リュウはグヮルボのボス グヮン=グヮジルドの巨大な体をめがけて一直線に飛んだ。
ボスを守るべく体を張ってリュウの行く手を遮ろうとするグヮルボたちを、レンはもう棒手裏剣を使わずに、念動力でふっ飛ばしてリュウのために道を開けてやる。
グヮン=グヮジルドはふつうのグヮルボの倍近くはあろうかという巨大なグヮルボだった。
グヮルボ親衛隊を蹴散らして自分に向かって来る月白色の白龍を見た時、さすがのグヮン=グヮジルドも顔色を変えた。
尋常な敵ではないと言うことが明らかだった。
しかし、だてにグヮルボ軍団のボスではない。
5メートルを超える白龍の急速な接近におどろきながらも、2メートル以上もある大振りの剣で迎え撃とうとしする。
「くらえ―――っ!!」
リュウの渾身の力をこめたフラガラッハの剣の一撃は、ボスの長剣を砕き、脳天から唐竹割でグヮン=グヮジルドの巨大な体を真っ二つにした。
「グヮン=グヮジルド、討ち取った―――っ!」
リュウの大声が響き渡った。
すでに100匹以下に減っていたグヮルボ親衛隊は、衝撃を受けたようだが、一匹も逃げ出すことなく、リュウたちに攻撃を続けた。
それはダーマガの平原でも同じで、グヮルボたちは血みどろの戦いを続けたが、ヤドラレ人たちの増援部隊が現れてからは形勢は逆転しつつあった。
そして、グヮン=グヮジルド が倒されてから、ハイ・パラスピリトたちの脳操作スキルがまた利くようになり、ビルホーンに乗ったヤドラレ人部隊の猛攻も手伝って形勢が逆転しはじめた。
グヮルボたちは、それでも必死になってラピテーズ戦士、ストリギダ戦士、ダトーゥ戦士たちと戦っていたが、ふたたびハイパラピリストたちの脳操作による“死の急降下”によって、次々と空から地上へ激突しはじめた。
そして-
午後3時過ぎに最後のグヮルボが倒され、ようやく血で血を洗うような壮絶な戦いは終わった。
ダーマガの平原の戦いは勝った。
しかし味方の損失も大きく、ラピテーズ族は千匹近くが命を失い、5千匹以上が負傷をし、ヤドラレ人は4百匹以上が死に、3千人近くが負傷した。彼らが乗っていたボルホーンも2百頭がヤドラレ人戦士たちとともに戦いで死に、5百頭以上が負傷した。
唯一、その硬い鱗甲板のおかげで死んだ者がいなかったのはダトーゥ族だったが、それでも百匹以上が負傷をした。そして、ハイ・パラスピリトたちの中からも負傷者が30人ほど出たが、いずれもラピテーズやダトーゥ族たちが必死で守ってくれたためだった。
リディアーヌ は休むこともなく負傷者たちの治癒に努め、マザー・パラスピリトとハイ・パラスピリトたちは味方・敵を問わずに、戦いが終わるや否や、休むこともなく、死んでいった者たちの霊のソーウェッノーズをはじめた。
幾千もの黄色や緑、赤色の線香花火のような霊が、ダーマガの平原、レムザー湿原周辺の森やレムザー川の河原から四方八方へ散ってゆく様は、今日一日、血で血を洗うような戦いが行われたことを一瞬忘れさせるような美しい光景だった。
「残念なことに、今日、ここではたくさんの霊が体を失いました。でも霊は体が破壊され、生命活動を続けることができなくなっても、こうして死後、すぐに浄化・救済をすれば、新たな生命として生まれてくるのです...」
マザー・パラスピリトは、そう言いながら、顔に流れる汗も気にせずに一生懸命に浄化・復活の作業をハイ・パラスピリトたちと続けた。
* * *
エスピリティラの世界の歴史においてエポックメーキングとなった『ダーマガ・レムザーの戦い』。
この戦いの場所に新種の美しい植物や虫が続々と生まれ、ラピテーズ族、ヤドラレ人、ストリギダ族の出生率も急速な伸びを見せることになるのだが、それは後日の話となる。




