20 スカーミッシュ
【Skirmish 前哨戦】
「たいへんです!新たなグヮルボの大群がレムザー湿原に向かっているとの報告です!」
翌日、五芒星が地平線から昇って間もないころ、ラピテーズがオーン御殿に駆け込んで知らせに来た。
昨夜が遅かったリュウたちは、まだ部屋で寝ており、ユリアたちは何もなかったので、もそもそと起き出し、顔を洗ったり、歯を磨いたり、着替えたりしている最中だった。
ユリアたちは早速、リュウたちをたたき起こし、30分後、ようやく顔を洗い、服を着替えた彼らを、半分引きずるようにして階下の会議室に行った。
そこにはすでに、オーン以下、 オーンゾリオ集落の主だった頭たちとヤドラレ人の副ボスが数匹とブボ・ケトゥパ配下のストリギダ族の者が三匹ほどいて、|マザー・パラスピリト》もミモ・パラスピリトたちとすでに着席して、ユリアたちの来るのを待っていた。
ユリアたち女子があまりうるさく言ったからなのか、マザー・パラスピリトもミモ・パラスピリトたちも、全員、ブラジャーとパンティを履いていた。
それを見たリュウたち男の子の目は、明らかに失望の目だった。
おまけに、昨夜の激しいラブシーンは夢だったのか... とさえ思えるように、彼女たちはリュウたちを見てもただ微笑むだけで、いつも通りの近寄りがたい威厳さをオーラとともに発していた。
「おお、朝早くからすまん。実はこのブボ・コロマンドゥス殿が、ストリギダの見張りが、今朝、キララウス山脈を超えてレムザー湿原に向かうグヮルボの大群を発見したといって至急、知らせに来てくれたのだ!」
オーンがユリアたちを見て、そばにいる大きな身体をしたストリギダ族を手で示した。
「グヮルボの大群って... レムザー湿原からどこかへ獲物探しに行った連中では...」
「いいや。見張りからの連絡では、今朝見たグヮルボたちは新手の群れだそうだ。その数はおおよそ5万匹!」
「5万!」
「そんなに?!」
「えっ、本当か?」
ザワザワザワ…
みんなが騒ぎはじめたのを片手で制したオーンが告げた。
「これは、明らかにグヮルボどもも、こちらを一挙に潰すつもりで増援を呼んだのに違いない!」
「そう言えば、この一週間、グヮルボどもは、この集落を毎日3、4回遠くから偵察を続けておった!」
ゴレンとゴートが思い当たったように言う。
「近寄れば弓で撃ち落とされるので、矢の届かない遠くから集落の様子をうかがっていたのだ!」
「ダーマガの平原にも、懲りずに毎日数回やって来て、あそこでも遠くから様子を見ておったしな!」
ほかの頭たちも口々に言いはじめた。
「ワレワレの森ニモ 頻繁ニ グヮルボ ガ 様子ヲミニキテイル!」
「ストリギダ族の森にもだ。そのたびに、われわれは追い返してはいるが...」
ヤドラレ人の副ボスやブボ・コロマンドゥスも少し不安そうな顔をして言う。
「状況は緊迫している。明日は、なんとしても戦わねばならん!ダーマガの平原の方の準備は出来たか?」
「うむ。レン殿の言われた柵は十分すぎるほど作った。あとは戦士の配置だが...」
オーンの言葉にゴレンが答えたとき、それまで静かに聞いていたマザー・パラスピリトが口を開いた。
「すでに申し上げましたように、私たちパラスピリトも全力をあげてグヮルボとの戦いに臨みます。グヮルボとの戦いに参加でき、戦闘ができる能力を持つ者のはハイ・パラスピリトだけで、現在、3百人ほどしかいませんが...」
「ええっ?たったの3百人?」
ラピテーズ族の部落長の一人がおどろいて言った。
「1万人が戦いに参加できるものと思っておったが...」
「心配はご無用です。ハイ・パラスピリトの能力は、最低でも3百人で3万のグヮルボを倒せます」
「はあ...」
ユリアたちは、グラトニトルの町がグヮルボの大群に襲われたとき、大混乱の中でミモ・パラスピリトたちが数千匹のグヮルボを同士討ちさせたのを知っているが、その部落長に限らず、ストリギダ族もヤドラレ人たちも、チルリとミルリと共生しているラピアとリーア以外は、ミモ・パラスピリトたちの能力のすごさを見ていないのだから疑うのも無理はない。
「3百人は、ダーマガの平原で最前線でグヮルボと戦います。そして残りのパラスピリトたちの中で、体を動かすのに問題のない者たちは、後方で矢の運搬や、ケガ人の手当てなどをさせます」
「おお、それはたいへん助かる!」
オーンが如才なく礼を言う。
「それと、昨日もオーン族長からダーマガの平原における戦いの作戦を聞かせていただいたのですが、この作戦について私からも提案があります...」
あわただしい朝食をすませたあと、オーンはふたたびラピテーズ族の部落長たち、頭たち、それにヤドラレ人のボスバンゾウ 、それにストリギダ族のブボ・ケトゥパたちを午後から招集して最終的な作戦の指示を伝えるために使者を出した。
そしてユリアたちは、マザー・パラスピリトと イーリャ、ピア、ラィアたち三人のミモ・パラスピリトを護衛して、ある任務のために荷馬車で出発することになった。
一行の護衛には50匹のラピテーズ族の戦士たちがついた。
マザー・パラスピリトたちは、それぞれユリアやアイ、ミアたちなどから借りた服を着ていた。
グラトニトルの町の聖域にいたときのような服装では活動しにくいし、男の子たちやラピテーズやヤドレイ人のオスたちの注意を反らすというユリアたちの主張を受け入れたのだ。
それもそうだろう。おっぱいや下が丸見えの衣装を着ていては、オスどもの注意も散漫になるというものだ。マザー・パラスピリトなどはパンツルックにブラウス姿だったが、中にはショートパンツや、デニムのミニスカートを選び、上には露出の多いトップスを着たミモ・パラスピリトもいた。
もちろん、ラィアやロリィなどの比較的若そうなミモ・パラスピリトで、ほかのおとなしい感じのミモ・パラスピリトたちは、マザー・パラスピリトのようなパンツルックかロングドレスやスカートに合わせてシャツやブラウスを着ていた。
マザー・パラスピリトたちといっしょに行くのは、ユリア、レオタロウ、モモコ、それにマユラだ。
アイたちは集落に残ることになった。リュウは白龍王学で戦術・戦術についても習っているので、オーンたちと明日の作戦についての詳細のすり合わせをするためだ。 ミモ・クラナたちもすり合わせに参加している。
ミモ・クラナはミモ・パラスピリトたちの中でナンバー2の位置を占め、マザー・パラスピリトの片腕とも言える存在だ。
オーンゾリオ集落の東門を出て、500メートルも行かないうちにミアからアラートが発せられた。
(警戒!警戒!グヮルボの大群が集落に向かって来るわ!)
(方向はどちらから?)
(東からよ!かなりの数!)
(ミア、オーンさんたちに至急知らせて!)
(はい!ユリアさん!)
1分も経たずに、集落の見張り台からジャバルドのツノで作った角笛が高らかに鳴り響く。
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
集落は広いので、見張り台は集落を囲む塀にそって6ヵ所ほどあるが、族長の御殿で角笛が鳴らされると、それらの見張り台でも一斉に鳴らされるようになっている。
6ヵ所の見張り台からもすぐさま角笛が鳴り響いた。
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
プア―――ン! プア―――ン! プア―――ン!
集落は騒然となった。
ラピテーズの子どもたちの泣き叫ぶ声と母親たちの子どもを呼ぶ声、オスたちの怒声や戦士たちの走り回る音が集落中に響き渡る。
「ユリアさん、任務は一旦中止です!私たちも集落の防衛を手伝いましょう!」
「はいっ!」
「ここは集落の東ですから、グヮルボたちと最初に接触するのは私たちとなります。先ほど、ミモ・クラナたちを念話で呼んだので、5分もすれば駆けつけるでしょう!」
「私もアイたちを呼びました。ここで食い止めましょう!」
ほどなくして、 クラナたちミモ・パラスピリトとアイたちがラピテーズの戦士の背に乗って駆けつけて来た。
「みんな、準備はいいわね?」
「「「「「「「「お――――う!」」」」」」」」
「グヮルボたちは、やっぱり石を抱えているわ!」
目のいいマユラが注意をうながす。
「いいこと? 明日の戦いの手の内は絶対に見せちゃダメよ!」
「ちっ!じゃあ、オレは棒手裏剣だけか!」
レンが口惜しそうに叫ぶ。
「じゃあ、私は天変地異魔術を使うわ!」
「あまり大がかりなのは使わないでよ?」
アイが胸を張って言うのに、少し心配になったユリアが眉をひそめて言う。
「手加減するからだいじょうぶよ!」
そのやりとりを興味深そうに見ているマザー・パラスピリトたち。
彼女たちはいたって冷静なようだ。
というか、ラィアや ロリィ などはヤル気満々で武者震いをしているくらいだ。
「よーし、やるわよー!」
「ラィアには負けないぞーっ!」
「ロリィなんかに負けるもんですか!」
「ラィア、ロリィ、これは競争ではないのですよ?」
先輩らしいピアが二人をたしなめる。
「ふふふ。そう心配しなくてもだいじょうぶですよ、 ミモ・ピア」
「は、はい。マザー・パラスピリトさま」
(ミア、グヮルボたちの動向を知らせて!)
ユリアが、回復・治癒専門のリディアーヌ とともにオーン御殿に残り、御殿の見張り台に登ってあたり一帯を見ながら上空で“ステルス魔法”で姿を隠し、グヮルボたちの接近を監視しているミアは指示を出す。
(グヮルボたち... 三つの大群に分かれて飛んで来るわ!一つの群れはこちらに向かっているけど、あと一つはストリギダ族の森へ、もう一つの群れはヤドラレ人の森へ向かっているわ!)
ユリアとミアの念話を聞いていたのだろう、マザー・パラスピリトがユリアとアイに向かって言った。
「集落は、私とミモ・クラナ、ミモ・ピア、 ミモ・イーリャにまかせて。ユリアさんはミモ・ラィアとミモ・ロリィを連れてストリギダ族の森へ!アイさんはミモ・トリルとミモ・ヒュネとミモ・アシュを連れてヤドラレ人の森へ急いで行ってください!」
「はい!じゃあ、リュウとレオタロウは私とラィアとロリィさんといっしょに、ティーナ・ロケットで!モモコとマユラはトリルさん、ヒュネさん、それにアシュレンさんといっしょにレンの念動力でヤドラレ人の森へ急速移動して!」
「「「オオオ――ウ!」」」
「「「「「「「「「は―――い!」」」」」」」」」
ティーナが瞬時にティーナ・ロケットを作り出す。
マザー・パラスピリトやミモ・パラスピリトたちが目を丸くしておどろいている。
ティーナ・ロケットを見るのは初めてなのだが、それよりもティーナの能力に驚いているのだ。
ユリアがロケットに乗りながら、ヤドラレ人の森に移動する者を集めているレンに叫ぶ。
「レン!グヮルボに目立つような移動はしないでよ?」
「オーケー、オーケー!超低空飛行で行くよ!」
(レン、時間がないから、発射角度25度でストリギダ族の森の方向へロケットを向けてちょうだい!)
ティーナから要請が来る。
「オーケー!もう全員乗ったか?」
「「「「「ハーイ!」」」」」
レンが念動力でティーナ・ロケットをおおよその方角へ向け、機首を25度と思う角度にあげる。
「ティーナちゃん、これでいいかな?」
(オーケーよ!じゃあ発進――!)
「みんな掴まって!発進するわ!」
ユリアが言い終わらないうちに ドーン!と必要ないが、おなじみのティーナ流の演出で発射音が鳴り響き、ティーナ・ロケットがミサイルのような速さで打ち出された。
「「「「「「「「!!」」」」」」」」
マザー・パラスピリトたちがビックリしている。
「さあ、こっちも出発だ!用意はいいかい?」
「「「「「「はーい!」」」」」」
こちらは発射音もなく、ただ空気抵抗を少なくするために体を横にされて、地面すれすれに― さながら高性能の巡航ミサイルのように― 音速に近い速度でヤドラレ人の森へ向かって移動をはじめた。
途中にある灌木や岩などを上手に避けながら、見る見るうちにヤドラレ人の森に接近する。
「ひゃ――っ!怖――い!」
「ひぃぃぃ―――っ!」
「きゃ―――っ!オシッコもれます――!」
トリルとヒュネとアシュたちが悲鳴をあげている。
一方、ティーナ・ロケットでストリギダ族の森へ向かった連中は、森の手前の草原に着陸したが、地面がデコボコで止まるまでの間、ジェットコースター並みに上下に振動した。
「キャ―――っ、 ラィア――っ!」
「ひぇ―――っ、ロリィ―!オシッコもれちゃうよ――!」
こちらもトリルとヒュネとアシュたちに負けないほど悲鳴を出していた。
(皆さん、グヮルボたちは石を抱えています。一匹たりといえど、集落の上に来させてはなりません!)
オーンゾリオ集落の東門の近くでは、マザー・パラスピリトがミモ・クラナ、ミモ・ピア、 ミモ・イーリャたちに指示を出していた。
(((はいっ!)))
(無謀なグヮルボたちに、ハイ・パラスピリトの力と言うものを見せてあげましょう!)
(((はいっ!)))
集落の東側の塀の内側にはラピテーズ族の戦士たちが、弓に矢をつがえて固唾を飲んでグヮルボたちの接近を待っている。ラピテーズ族は力が強いため、彼らの弓の威力は相当なものがあり、水平であれば500メートル先の獲物をしとめることができるが、空を飛ぶものに対しては最大でも150メートルほどしか飛ばすことができない。
少しでも高いところを飛ぶグヮルボを撃ち落とそうと、見張り台の上や屋上で弓を構えている戦士も多くいるが、グヮルボの高度が200メートルを超えると何もできない。
それでも、グヮルボどもに一矢を報いてやる、とのひしひしした気迫が戦士たちの緊張した顔に出ていた。
戦端はグヮルボの大群がオーンゾリオ集落の上空に達する直前に切られた。
グヮルボの大群の先頭を飛んでいたグヮルボたちが、石を抱えたまま、全速で急降下しはじめた。
それは、目を疑うっような光景だった。次から次へと間断なく、グヮルボの群れは地上目がけて衝突して行くのだ。
マザー・パラスピリトは、集落が投石の被害を受けないように、グヮルボの群が集落の上に来る前に先制攻撃をはじめたのだ。
先日、グラトニトルの町が襲撃されたときは、適切な排除の仕方を考えるヒマもなく、グヮルボ同士を戦わせるという、少々非効率な防衛となったが、その後、彼女たちは対応を検討し、グヮルボを地面に激突させるのがベストという結論に達したのだった。
見張り台の上にいたラピテーズ族の戦士たちが弓を構えたまま茫然としている。
300メートル以上もの高度から、石を抱えて急降下して地面と衝突するのだから、その衝撃の凄まじさが想像できるだろう。
まるで黒い滝のように、グヮルボのたちは地面にドカ、ドカ、ドカっ、ドカっと次から次へと激突し、黒い羽を散らし、血しぶきを上げて死んでいく。ラピテーズたちは凄まじいまでのミモ・パラスピリトたちの“脳操作能力”を知った。
一方、ティーナ・ロケットでストリギダ族の森へ到着したユリアたちも、奮迅の活躍をしていた。
ユリアは矢の尽きることのない“神弓ガンデーヴァ”で1秒間に数十発の矢を放ち続け― 神弓ガンデーヴァは百発百中なので、確実に一本の矢で一匹のグヮルボを仕留めることができる。
ラィアとロリィは集落の前でグヮルボを自殺させているミモ・パラスピリトたちと同じ方法で、こちらでも“黒い滝”でグヮルボたちを壊滅しつつあった。
リュウとレオタロウは前衛となって、血迷って低空から襲って来ようとするグヮルボたちを退治していた。
ストリギダ族の戦士たちは、ラピテーズたち同様、ユリアのガンデーヴァの弓の凄まじい威力やラィアとロリィの“目には見えないが、グヮルボたちを大量に墜死させる力”に目を見張った。
ヤドリレイ人の森の上空では、アイが到着する前にそれまで雲一つなく、五芒星のオーロラのような数分ごとに七色に変わる朝日が照っていたのだが、急に雲が出て来たと思ったら、突然、凄まじい暴風雨が吹き荒れはじめ、なんとミカン大の雹がグヮルボの大群を襲いはじめた。
トリルとヒュネとアシュたちも、これには面食らったが、彼女たちもダテにミモ・パラスピリトではない。すぐにグヮルボの大群を“脳操作”で自殺へと追い込みはじめた。
レンは持参した60センチの長さの鋼鉄の棒手裏剣を高速で飛ばし、近くに寄って来るグヮルボたちを撃ち落としていった。レンの念動力は強力なので、グヮルボの体を貫いてもまったく威力が劣ることなく、次々と撃ち落としていく。
こちらでも木の穴や枝の上で戦々恐々として弓や槍を構えていたヤドラレ人たちは、驚愕してただ茫然と見物するばかりだった。
約1時間後、グヮルボの大群は一匹も残らずに殲滅された。
オーン族長や頭たちは狂喜雀躍し、ストリギダ族のブボ・ケトゥパ たちはミモ・パラスピリトたちとユリアの“神弓ガンデーヴァ”の威力に恐れおののき、バンゾウ たちヤドラレ人は突然の暴風雨と雹がアイの魔術と知って驚愕し、こちらでもミモ・パラスピリトたちの神のような威力を目にして、さらにパラスピリトたちに対する尊敬の念を増した。
オーンゾリオ集落の東側一帯、ストリギダ族の森の北側、それにヤドラレ人の森の東北側はグヮルボの死骸で足の踏み場もないような状況になった。
幸いなことに、グヮルボの大群は、それぞれ彼らが襲撃の目的地としていた場所の手前で行われたため、血気にはやったストリギダ族の若い戦士が60匹ほど雹に当たったり、グヮルボから攻撃されたりしてケガをし、ヤドラレ人の森では、グヮルボの大群に恐怖をおぼえ、侵略者たちに向かって射ったつもりの矢が、高い木の枝にいたヤドラレ人の尻に当たった、という笑えないようなアクシデントで10匹ほどがケガをしただけだったが、いずれもあとで リディアーヌの治癒魔法ですっかり治してもらった。
しかし、そのことによってリディアーヌは彼らからたいへん感謝され、挙句の果ては、彼女が美少女であるということも手伝って、〇〇〇をビンビンにしたヤドラレ人のオスたちから求愛され、追いかけまわされ悲鳴をあげて逃げ回る、というオチまでついたのだった。
マザー・パラスピリトたちは、戦いの終わったあとで、1時間ほどかけてソーウェッノーズスキルですべてのグヮルボの死骸の霊を浄化した。
オーンゾリオ集落の東側一帯、ストリギダ族の森の北側、それにヤドラレ人の森の東北側からは、幾千もの線香花火のようなグヮルボたちのコアが近くの森や草原に向かって飛んでいくさまは、まるで幻想の世界の出来事のようだった。
昼食をはさんでオーン御殿でラピテーズ族、ストリギダ族、ヤドラレ人の主だったリーダーたち、それにアイやリュウたちミィテラの若者たちとミモ・パラスピリトたちが集まって報告会が行われ、概算で約1万匹のグヮルボたちが三手に分かれて襲来したことがわかった。
マザー・パラスピリトは、朝のうちにすますはずだった任務のために、軽く昼食をとると、ユリア、レオタロウ、モモコ、マユラと50匹のラピテーズの戦士を連れて出かけて行った。
オーンたちも ブボ・ケトゥパ たちも バンゾウ たちも、今回の戦いの結果を見て鼻息が荒かった。
「ハイ・パラスピリトさまのお力と、ユリアたちミィテラの戦士の力のすごさをつくづく感じた!」とがゴレン言えば、
「まったくだ!グヮルボどもめ、集落を襲おうってのは百年早いんだ!」とがギート 息まき、
「パラスピリトさまたちがついている限り、我々は無敵だ!」とバンゾウ はまるで自分の戦士たちの功績であるかのように厚い胸をこぶしで叩いて豪語し、
「これで作戦通り、明朝、グヮルボどもを残らず叩き潰して、一族念願のレムザー湿原を奪還できる!」とブボ・ケトゥパ は明日の戦いを楽観視していた。
“明日の戦いはもう勝った”
そんな空気が充満しているのを見たミモ・クラナが静かな声で言った。
「戦いは地の利、天の時、人の和が重要であることは、申すまでもありませんが、油断は大敵です...」
みんなシーンとなってしまった。
「今日の戦いは、グヮルボにとってはただの“小手しらべ”でしょう。今朝、グヮルボたちに増援が来たと知らせがあったばかりではありませんか? 増援分を入れると、明日私たちが迎えることになる敵の数は今日の敵の数の15倍です。ですから、マザー・パラスピリトは、念には念をいれて、明日の戦いを必ず勝てきるように動かれているのです」
「申し訳ありません、ミモ・クラナさま。我々が戦ったのでもないのに、浮かれすぎておりました」
オーンが深々と頭を下げると、ゴレン、ゴート、ギート、ジート、ヌート、ブートたちも次々に頭を下げた。
「明日は、ヤドラレ人もこれだけ戦えるという意思をお見せします!」
バンゾウ も頭を下げて反省の言葉を言う。副ボスたちも頭を下げた。
「ワシらも背水の陣で戦いに挑みます。ワシらの孫が、子孫が、将来誇りに思える戦いをすると誓います!」
ブボ・ケトゥパ たちも、顔を引き締め、あらためて全力で恥じない戦いをすることを誓ったのだった。




