1 ブレイブス・チルドレン
【Braves Children】
魔大陸。
魔大陸は、面積2300万平方メートルと言う巨大な大陸だ。
魔大陸は魔王ルゾードに率いられた魔族および魔眷族が棲む大陸だった。
この魔大陸から、魔王は数百万もの魔軍をミィテラ各国に送り込み、ミィテラの世界征服を企てた。
この魔王ルゾードの野望に対して、ミィテラの全種族- エルフ族、ドワーフ族、トロール族、人族、獣人族、鬼人族が一致して戦い、勇者グループの協力もあって、魔軍と熾烈な戦いの末、勝利を治めることができた。
「レン兄っ!右よ!右からミューゴブが三匹!」
「おう!テェ―――っ!」
大声とともに長さ60センチ以上もある棒手裏剣が30本、槍衾のように空中を飛んできて、レンを横から襲おうとしていたミューゴブリンの体を貫通する。
「ギェー!」
「グェー!」
「ギェッ!」
棒手裏剣は音速で飛び、重さもあることから貫通してしまうのだ。
「ユリア姉っ、ミオンのバックをカバーしてあげてっ!」
「ほい、まかせときっ!」
ユリアが赤い髪をなびかせ、目にも止まらないような速さで神弓ガンデーヴァで矢を射る。
神弓ガンデーヴァから放たれた矢は、炎の束のようになってミオンの後から迫っていた|ミューゴブリン5匹の降り注ぎ、たちまち火だるまにした。
「ユリア、ありがとう!」
ミオンは叫びながら、前と左右から迫っていたミューゴブリン3匹をフラガラッハの剣のひとなぎで倒した。
「どういたしまして! だけど、後ろにも気をつけなきゃダメよ!?」
「悪い。そんな余裕ないんだ!」
ミオンは突進して、さらに2匹を倒した。
ミオンの持つ長剣フラガラッハの剣は“報復する者”という意味を持ち、神によって作られたと言い伝えられる。フラガラッハの剣による一撃は、鎧や盾で止めることは不可能であり、さらに、どんな鎖も切り裂くことができる。
フラガラッハの剣は、持ち主が抜こうと思うだけでひとりでに鞘から抜け、持ち主の手におさまる。
敵に向かって投げれば、剣自らが敵を倒し、持ち主の手元に戻ってくるという神武器だ。
ユリアもミオンの左から攻撃しようとしていたガニゴ3匹をガンデーヴァで始末する。
「本当に、ミアちゃんがいてくれて助かるわ!」
斜め後ろから飛びかかろうとするがガニゴの群れの上にガンデーヴァで火の雨を降らせながら、上空30メートルに浮遊してみんなに適切なサポートをしているミアをちらっと見る。
ユリアの手にするガンデーヴァの弓は、火神アグニの子、英雄アルジュナが使ったと言われる伝説の神弓で、無尽蔵の矢が出てくる矢入れが付いており、“炎の矢よ全てを焼き払え”と念じれば、矢の届く範囲にあるものはすべて焼きつくす力を持つといわれる恐怖の武器だ。
3百メートルほど先では、アイが『雷禍』と呼ばれる凄まじい魔法でミューゴブの群れをまたたく間に炭にしていた。そしてアイと背中合わせで、ルシエルが火属性魔法のフージョンフレアや氷属性魔法のジェロブリザードでミューゴブを焼き払ったり、ガニゴの群れを凍らせたりしている。
右手では、ジオンとマユラが見事な連携プレーで、爆裂弾と煙幕弾を投げながら秒速30メートルの高速で移動している。このスピードではガニゴも追いつけない。おまけに四つ足走行なので、弓矢なども当たりにくいというメリットがある。
それでも行く手を邪魔するミューゴブやガニゴが現れると、刃渡り60センチの剣で切り伏せながら走っている。さすが豹族だけあって、疾風迅雷と言うにふさわしい戦いぶりだ。
左手では レオタロウとモモコが、競うように7メートルのグレイブとフォシャールを持って爆発的と言っていい破壊力でミューゴブやガニゴどもを薙ぎ払いながら大声で笑っている。
「ガーッハッハッハ!もっと来い!雑魚どもー!」
「ワーッハッハ!これで25匹目だァ!お姉ちゃんより2匹多いぞ!」
「なに言うか?それ、24匹目、25匹目、26匹目だ!どうだー、追いついたぞー!」
「くそっ、負けてらんねー!こちらも26匹目、それ、27匹目だー!」
さすが鬼人族だけあって、まるでミキサーのように敵を切り刻んでいる。
(みんなー!ディアボニクスが大挙して演習場の方から来るよー!)
ミアがアラートを念話で発する。
(なに?ディアボニクス?)
(反対側からはブラックドラゴンに乗ったミューゴブがいっぱい来るわー!)
(ミア、どれくらいの数?)
(ディアボニクスが2百羽くらい!ブラックドラゴンは百匹以上よ!)
(ということは、空から新たに2百匹のミューゴブか!)
レンが相変わらず長さ60センチ以上もある棒手裏剣の槍衾を飛ばしながら叫ぶ。
(地上からも新たにミューゴブの大軍が... 5百匹以上、たくさんのガニゴと接近してくるわ!)
(くっ!やっつけても、やっつけてもキリがないわね!)
ユリアがガンデーヴァの弓を引き絞ると、ミューゴブの群れの上に矢が落ちるように計算して放った。
ガンデーヴァの弓からは数十発の火矢が打ち出され、数十匹のミューゴブをたちまち火だるまにする。
(アイ、ルシエル、もっと広範囲の攻撃できないー?)
(それは無理よ、ユリア!仲間が巻き添えになっちゃう!)
(ヤバイよ、かなりヤバクなったよ!)
ミオンが空から、地上から迫って来る新たな敵を見て叫ぶ。
(撤退した方がいいんじゃない、アイ?)
レンも退くことを提案する。
ザザザザ―――――…!
そのときだった。
ブラックドラゴンで近づいていたミューゴブが一斉に矢を放った。
「!」
「!」
「!...」
矢の雨が子どもたちの上に降りそそぐ。
(アイ、ミア!バリアー!)
(広範囲バリアー張って――っ!)
ミオンとユリアが同時に叫ぶ。
(ムリー!離れすぎてるよー!)
(今、バリアー張に行くわー!)
しかし、アイもミアも遅すぎた。
あまり距離がありすぎたのだ。
「ワ――――っ!」
「きゃ―――っ!」
「いや―――っ!」
「ひゃ―――っ!」
ミオンが叫び、ユリアが頭を抱え、レンがうずくまり、モモコとレンタロウが叫んだ。
遠くでジオンとマユラが茫然として矢の雨の降るさまを見ていた。
彼らはみんなからかなり遠いところで戦っていたので矢の雨の圏外にいたのだ。
カッカッカッカッカッカッカッ…
カッカッカッカッカッカッカッ…
突然、少年たちの頭上に降りそそいでいた矢がはね返された。
次の瞬間、空から接近していた百匹のブラックドラゴンたちと2百羽のディアボニクスの大群に、白い霧のような突風が襲いかかった…
その直後、百匹のブラックドラゴンと2百羽のディアボニクスは消失していた。
あとには雪のような小さな結晶らしいものが風に舞っているだけだった。
地上から迫っていた5百匹以上のミューゴブの大軍と数百匹のガニゴたちは、突然の巨大なトルネードに巻き上げられたところを熱線の束や氷柱 、ジガトロヴォン、巨大火球などでたちまち殲滅させられてしまった。
その間、3分とかからなかった。
.........
.........
すべての敵が沈黙したあとで、次々と空中に現れたのは、白いコスチュームに黄色のマントをつけたエルフたちだった。その中に一人、緋色のコスチュームに銀色のマントを羽織った若い女性がいた。
「師匠!...」
「ロラ先生!」
アイとミアが同時に叫ぶ。
「どうやら間に合ったようね?」
ロラ先生と呼ばれた若い女性はブロンドの髪と翡翠色の目をしていた。
「アイちゃんたち、ムチャしちゃダメよ!?」
「そうだよ!私たちが早く来たからよかったものの、もう少し遅れていたら大悲劇だったのよ!」
「死んじゃったりしたら、いくらリョースアールヴの私たちでも、師匠でも手に負えないのよ!?」
「アナさまにお願いして白龍族に生き返らせてもらわないとね!」
口々に言っているのは、エルフの天才魔術師部隊リョースアールヴの面々だ。
「まあ、アルウェン もフィンラもイドリルもミッチェラも、それくらいにしてあげて。この子たち、反省しているでしょうから」
「はい!」
「はい」
「はい、先生」
「わかりました」
「では、ライトパレスへ帰りましょう!」
ゲート魔法の天才フィンラが勇者王国への通路を開け、少年たちは肩を落としてゲートにはいって行った。
* * *
「いったい、誰ですか?魔大陸にゴブリン退治に行こうなんて言い出したのは?!」
いつもは穏やかなアイミ王妃が、子どもたちを前に顔を赤くして怒っている。
アイミ王妃の横には、急を聞いて駆けつけて来たカイオ副王、メイ王妃、ラン王妃、ミユ王妃ソフィア王妃たちがいる。子どもたちを助け出したロラ先生ことアウロラも同席している。
そして当事者の親ではないが、“他人事”ではないと考え、モモ王妃、アナ王妃たちも参加している。
「あなたたちくらいの能力とスキルでやられるほど、魔大陸のモンスターたちはヤワではありません!」
アイミ王妃はアイ、ミオン、ミアを順番に厳しい目で見て、それからレン、ユリア、レオタロウ、モモコ、ジオンとマユラを見て、最後にルシエルを見た。
みんなうつむしてしまう。
「うつむいていないで、しっかりと私の目を見なさい!だいたい…」
ガチャっ!
そのとき、ドアが勢いよく開けられ、紺色の金モール入りジャケットに、黄色のストライプ入りの足にぴったりしたパンツ、そいて赤いマントを羽織った勇者王国の王が息せきって入って来た。
「誰もケガはしなかったか?!」
王の後には従者らしい茶色の髪の若者と金髪の美少女がいた。
「レオさま、幸いミアちゃんがアウロラちゃんに救援を要請しましたので、誰一人ケガを負っていません。」
「おう、そうか!さすがアウロラとリョースアールヴだ!ありがとう。心から感謝するよ!」
レオン王は、予知・予測を得意とするミッチェラが、前もってアウロラに魔大陸へ出撃の準備をしておくようにアドバイスしていたのだと悟った。
「いいえ。お礼を申されるまでもありません。王国の跡を継ぐ大事な子たちを守るのは、私たちの任務です。」
「いやあ、しかし10人だけで魔大陸にゴブリン狩りに行くとは!わーっはっはっは!オレに似て勇気…」
「レオさま、これは勇気ではありません!蛮勇、無鉄砲と言うものです!」
アイミ王妃から思いっきりツッコまれた。
パパが豪快に笑いはじめたことで、これでアイミからのお説教から解放されると安堵したアイたちは、ふたたび耳を下げてしまった。
「まったく... ユリアも女の子なんだから、ユリウスみたいにオムルカルの宮殿でおとなしく勉強をしていればいいのに... レオさまやアイミさまに心配をかけて...」
「お母さま。私はユリウス兄さんのようなモヤシっ子になりたくないわ!」
「ガーッハッハッハ!ユリウスはモヤシかー? そりゃ言いえて妙だ!」
「ソフィアさん、笑わないで!あなたの子どもたちが、この無謀な冒険ゴッコを阻止していれば、魔大陸になど行かなかったのよ!ったく、レオタロウ君もモモコちゃんも母親似で無鉄砲なんだから!」
「エヘっ!」
「だね!」
レオタロウとモモコは褒められたと思ってニコニコしている。
「何を言う、メイ? 魔大陸でモンスター退治をする方が、一日中宮殿にこもって勉強ばかりしているより健康的だ!」
「なんですって、ソフィアさん? いいこと、ユリウスはカイオの跡を継ぐのよ? 将来のオムルカル州の統治者となるために...」
「もうよしなさい、メイ」
「あ... はい。カイオさま」
「ベンケイちゃんもそれくらいにしたら?」
それまで黙っていたモモ王妃もソフィア王妃に言う。
「こらっ、みんなの前で昔のニックネームを言うな、モモ!」
「ママ、みんなママが“ベンケイ”ってニックネームがあるの知っているよ!」
「ベンケイってカッコいいよ!」
「そ、そうなのか?」
とたんに総合をくずすソフィア王妃。
「まあ、そういうことだから、今回の冒険はだれの考えか知らないし、調べようとも思わないが... 親たちやほかの者たちを心配させたのはよくないな!」
「ごめんなさい。パパ」
「ごめん、パパ」
「ごめんです、パパ」
「もうしません」
「反省します」
「次回、アイとユリアに誘われたら、ママにだけは言って行くね!」
「こらっ、モモコ!そんなことをしたら、またメイとケンカになるじゃないか!」
わーっはっはっは!
あーっはっはっは!
わっはっはっは!
はーはっはっは!
メイもつられて笑ってしまった。
まあ、今回のアイミの厳しい説教で、今後、あんな危ない冒険はしなくなるだろう。
「ともかく、戦いというものは、自分の身を守るだけじゃダメなんだ。仲間もしっかり守らなきゃ...」
そこでレオ王は言葉を切って、アイとしっかり手をつないでいるルシエルを見た。
「それに、ルシエル君は、今、お母さんがお仕事で出かけているのだから、お母さんの留守中にケガでもしたら、お父さんはいくら謝っても謝り切れないんだよ!」
「はい。お父さん。どうもすみません」
ルシエルも自分を養子として育ててくれたレオ王に頭をさげる。
「とにかく、みんな無事で何よりだ。ただし、ケジメはつけなきゃダメだ。君たちは一か月間ユウアイスもユウコーラもアイピツァもおあずけだ。いいな?」
「エ――っ!?」
「そりゃないよー!」
「ひぇーっ、一ヶ月もー?」
「キビシー!」
「パパー、一週間じゃダメ?」
子どもたちは口々に文句を言うが、“親を心配させた”のだ。
これくらいのペナルティーで済むのは仕方ないと納得していた。
ここは勇者王国。
勇者の子たちは、冒険がしたくてたまらないのだ。