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エスピリテラ漂流記  作者: 空創士
ブレイブス・チュードレン
13/123

12 リベンジ・バトル(前編)

【Revenge Battle】 


 その夜、オーン御殿にオーンゾリオ集落の主だった者が集められ、緊急会議が開かれた。

いずれも集落の(かしら)たちで、オーゾンリオでオーンの部下としてさまざまな重要な役割をはたしている者たちだ。


「近頃、グヮルボによる被害が増えて来ておったので心配しておったが...」

苦渋の表情でオーンは話しはじめ、一息つき、(かしら)たちを見まわした。

イクシーとマヌーも片隅にいる。

「まったくだ!最近、目に見えて増えて来たと思っておったが...」

「成人のラピテーズを襲うとは!」

(かしら)たちが、深刻な顔で相槌をうっている。

「このような事態が起こっては、もう手放しにしておけん!」


オーンは、ユリアたちを見た。

「ユリアたちがいなければ、誰一人生き残ってはおらんかっただろう... ユリアたちには、族長として心から礼を言う」

そう言うと、オーンは前足を伸ばして頭をさげた。

それを見た(かしら)たちも一斉に前足を伸ばして頭をさげる。

これがラピテーズ族の感謝の作法なのだ。イクシーとマヌーも深々と頭をさげている。


 たしかに、ユリアたちが駆けつけなければ、イクシーたちは骨だけを残してみんな食い殺されていたことは確かだったろう。グヮルボは目もいいが、嗅覚も鋭く、遅かれ早かれイクシーたちも隠れ場所を発見されていたであろうことは間違いなかったからだ。


「そもそも、グヮルボが最近増え出した理由は、ストリギダ族が生息地域としていたレムザー湿原からストリギダ族を追い払ってからだ」

「族長の言う通りだ。グヮルボどもは餌の豊富なレムザー湿原を手に入れたことで一気に数を増やし、今度は数が増えすぎたために食料不足に陥っているのだ!」

オーンに負けずとも劣らない体格の(かしら)の一人が唾を吐くように言った。

彼はケイラの兄のゴレンだ。マヌーの父親でもある。


「グヮルボどもは、野山の動物を狩るだけでなく、我々でさえ少人数で女、子どもだけだと見ると襲って来るようになり、女、子どもは安心して集落の外に花を摘みに出ることもできんようになった!」

もう一頭の(かしら)がいまいましいという表情で言う。

「あれはお父さんの弟のゴートよ」

ユリアのそばにいらリア―が教えてくれる。

オーンは5人の弟がいて、ゴート、ギート、ジート、ヌート、ブートという名前で、いずれも(かしら)だそうだ。


「オレはなんとしてもニクズの仇を打つ!」

オーンの弟のギートがテーブルをドン!と叩いて立ち上がる。

「オレもだ!」

「ワシもだ!」

「おれもだ!」

イクシーやマヌーのカノジョたちの親たちも立ち上がった。



 ユリアは彼らの話を聞きながら、昨日、グヮルボたちと戦ったあとで荷馬車に揺られながら集落への街道を急ぐ中でラピアとリア―からグヮルボについて聞いたことを思い返していた。


「グヮルボはね、鳥人族たちの中ではもっとも知能が発達しているのよ。一匹のメスは1度に3個から5個の卵を産み、孵化したグヮルボは100日ほどで大人になるの」

「そして、ペアを探して子作りをまたはじめるのよ」

「だから、食料さえ豊富なら、一つのグヮルボの(つがい)は、1年間で100匹から160匹ほどに増えるというわけ!」


“昨日、イクシーたちを襲ったグヮルボたちの数は300匹を下らなかったわ。あんな狂暴なモノが増えすぎたら、たいへんなことになっちゃうわ…”

ユリアたちにも事態はかなり深刻だということを理解できた。


「グヮルボどもは、今やレムザー湿原を本拠地にして、どんどん活動範囲を増やしている。このまま放置しておけば、われわれラピテーズも安住の地を追われることになってしまう!」

「めぼしい食料のある場所は、すべてグヮルボどもに占領されてしまうぞ?そうなれば、ラピテーズ族の将来は真っ暗だ!」

ブートとヌート が今にも弓や槍をとって、今にもグヮルボと戦いに行かんばかりの勢いで言う。

「グヮルボどもの本拠地であるレムザー湿原を攻めるべきだ。奴らの族長を殺せばグヮルボども動揺するだろう!」

オーンが決断を下した。



そんときユリアは決心した。

(みんな!私たちもグヮルボとの戦いに参加しましょう!)

((((((((オ―――ウ!))))))))


一斉に賛成の声があがった。



 ユリアたちがグヮルボとの戦争に参加することを知ったオーン族長と(かしら)たちは、歓喜の雄叫びをあげた。


ブヒヒヒ――ン!

ギュヒヒヒ――!

ブヮヒヒヒ――!

ブヒヒヒ――ン!

ギュヒヒヒ――!

ブヮヒヒヒ――!


まあ、雄叫びと言ってもラピテーズの雄叫びなので、あまりカッコイイものではなかっただ。




 夜が明けると、オーンは使者を近隣のラピテーズ族の部落長たちやストリギダ族の族長のところに走らせた。 グヮルボ族は少数ではない。レムザー湿原からストリギダ族を追い出したあと急速に個体数を増やしている。オーンたちは約10万匹のグヮルボ族がいると推定していた。


 グヮルボは知能が高い。

ラピテーズたちだけで戦う場合、 オーンゾリオ集落で戦いに参加できる者だけでは圧倒的に数が足りない。集落に住む10万頭のラピテーズのうち、戦えるのは2万頭ばかりなのだ。

 近隣にはラピテーズ族の部落が10以上あり、これらの部落には合わせて3万ほど戦える者がいる。

それに、グヮルボからレムザー湿原をとりもどしたいであろうストリギダ族を説得して戦いに参加させることをオーンたちは考えたのだ。



「グラトニトルのパラスピリト(寄生霊)たちにも戦いへの参加を呼びかけてはどうでしょう?」

ユリアが提案したが、リア―とラピアに共生しているミルリとチルリに即座に却下された。

パラスピリト(寄生霊)たちは、そんな問題に関心はないわ」

「そうよ。それにパラスピリト(寄生霊)の町には、よそ者を寄せつけない装置があるのよ!」

ミルリとチルリによれば、グラトニトルの町の中心にある高い塔からは、異種族の侵入を斥ける念波が放射されており、そのため、ラピテーズであれ、グヮルボであれ、門番たちの検問を受けて承認された者以外は町に入れないのだという。

 


  ストリギダ族の族長の説得に向かうことになったのは、二人の(かしら)― ゴレンとジート、それにユリア、リュウ、マユラだった。ラピテーズの戦士50頭が護衛につくことになった。

 ユリアたちの提案で、チルリとミルリが寄生しいた二匹のヤドラレ人の娘― 名前はなかったので、便宜上、少女Aと少女Bと呼ぶことになった― も連れて行くことになった。


「少女Aと少女Bを連れて行きましょう!」

ユリアが提案したとき、ゴレンとジートは怪訝な顔をした。

「こんな足手まといにしかならないヤドラレ人をなぜ連れていく必要があるのか?」

「まて、ジート。ユリア殿たちが、この娘たちを連れて行くのを提案しているのには、ストリギダ族との交渉を見せたいからに違いない」

「そうか。わかった!ユリア殿たちは族長が見られた“力”を見せるつもりなんだな?」

さすが次期族長候補と言われるだけあって、ゴレンは頭の回転も速かった。



 ユリアたちは、ストリギダ族はグラトニトルの町で尋問官として働いているのを見ている。

彼らはピンと立った羽耳(うかく)があるのが特徴だ。

レムザー湿原をグヮルボたちから奪われて以来、レムザー湿原から40キロほど離れた山稜地帯に住むようになっていた。



ストリギダ族のテリトリーである山稜地帯に入った時、すぐに上空を警戒していたストリギダの見張りに発見された。


「ホホーゥ!ホホーゥ!」


甲高い警戒音が見張りから発せられて10分後。

ゴレンたちは百匹を超えるストリギダたちに囲まれていた。

ストリギダたちは空を飛べるので、木の上から弓や投げ槍を構えている。


「われわれは オーンゾリオ集落の者だ!敵意はない。レムザー湿原をグヮルボからとり返す戦いについて、ストリギダ族の族長と話をしたい!」

ゴレンがそう大声で言うと、ストリギダたちはざわついた。


そしてストリギダたちの群れの中から、一匹が近くの枝に飛んできて止まり、ゴレンたちを見降ろして訊いた。

片目がないが、どうやらこいつがリーダー格のストリギダらしい。


「レムザー湿原をグヮルボからとり返すとは、どういうことだ?」

「言葉通りだ!おまえたちストリギダ族が長年住み慣れたレムザー湿原を、グヮルボどもからとり返すということだ!」

「ふん!あの湿原は、ラピテーズにとっては、ほとんど価値がない。それをとり返す戦いにラピテーズが関心を示すとはどういうわけだ?」


片目のストリギダは疑い深い性格らしく、50頭のラピテーズ戦士たちとユリアたちを油断なく見ている。

周りのストリギダ戦士たちも、弓に矢をつがえており、片目のリーダーの命令があり次第、即座に攻撃するつもりだ。


「まず、オレから名を名乗ろう!オレはオーンゾリオ集落の(かしら)のゴレンというものだ!オーン族長の代理として来た!」

片目のストリギダは、ラピテーズたちが武器を構えてないので少し安心したのか、ストリギダ戦士たちに警戒を解くように言ってから、ゴレンの前に降りて来た。

「ワシは ブボ・ケトゥパ... 族長の義兄... だ!」

 


 ゴレンは、ブボ・ケトゥパにオーン族長の息子たちがグヮルボの群れに襲われたこと。

グヮルボの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)が目に余るようになり、このままではラピテーズ族の生存までが脅かされるようになる。

それだけではない、グヮルボの繁殖力の凄まじさは、ストリギダ族の例を見てもわかるように、他種族の生存も危うくする。ならば、その生存が脅かされる種族と共同作戦を提案しようという考えに至ったことを話した。


 20分ほどにわたって話をしたところ、ブボ・ケトゥパは「あとはオゥトス族長に話してくれ」ということになり、森の中を数十分分け入ったところにある池のある空き地にまで連れて行かれた。



 しばらくすると20匹ほどの護衛に囲まれたオゥトス族長が飛んできた。

最初に護衛たちが降りて来て、ゴレンたちの前に並ぶ。後ろと左右にはすでにブボ・ケトゥパの手勢が囲んでいる。


オゥトス族長は、かなり白い羽の混じった高齢のストリギダだった。

「儂がオゥトス・ストリギダだ!」

腹に響くような声で族長は名乗った。

ストリギダ族の族長は、族名を名乗るらしい。


ゴレンはふたたび、先ほどブボ・ケトゥパに話したことを最初から話すことになった。

30分ほどかけて念入りにストリギダ族の戦いへの参加があれば、グヮルボたちとの戦いに勝利できる可能性があること、勝てばレムザー湿原を取りもどせることなどを説明した。


「ストリギダ族は、そのような無謀な戦いには参加せん!」

長々と説明を聞いたあとのオゥトス族長の返事はノー!だった。

「し、しかし、オゥトス殿、このまま何もせずに手をこまねいていては、やがてこの地にもグヮルボたちがやって来ますぞ?!」

「いや、このあたりには、それほど食料になる獲物はいない。グヮルボどもはこの地域におとなしく住んでいる我々に手は出さんだろう!」

「し、しかし...... 」

「それに、たかが2、3万のラピテーズだけでは、空を飛べる10万のグヮルボの前には多勢に無勢に等しい。じゃから、無謀じゃと言っとるのじゃ。戦いたければラピテーズだけで戦うがいい。ストリギダ族は無意味な戦いには参加せん!」

「...... 」


ゴレンは何も言わなかった。

言っても無駄だとわかったからだ。

“さて、どうしたものか…”

ゴレンが腕を組んで目をつぶり、しばし考えていた。


そのとき、後ろにいたブボ・ケトゥパ が前に出て来てオゥトス族長に言った。

「族長、もう一度、ラピテーズの提案を考え直してみてはいかがですか?このままでは...」

「黙れ、ケトゥパ! 族長は儂じゃ! キサマは儂に命令をするつもりか?」

「いえ、とんでもありません...」

ブボ・ケトゥパが怯む。


「ストリギダ族はグヮルボとの戦いには参加せん!族長としての儂の決定に背くものは追放する!」

そう言うと、オゥトスはバサバサっと羽音を立てて飛びはじめた。

護衛たちも一斉に飛び立つ。


その直後だった、ブボ・ケトゥパが叫んだ。

「ストリギダ族存続のためだ!族長、死んでもらうぞ!」

手にしていた弓に素早く矢をつがえると、飛びあがったばかりのオゥトスの背中目がけて放った。

狙いはたがわず、族長の背を深々と射抜いた。


「ギャホっ!」

オゥトス族長は一声鳴くと、ズシーンと落ちた。


「キサマ、血迷ったか!」

護衛のストリギダたちが弓を、槍を手に向かって来ようとしたが、それこそ多勢に無勢で、ケトゥパの意をくんだ配下のストリギダ族戦士たちによってたちまち撃ち落とされてしまい、残った4匹は武器を投げ捨てて降参した。


 「レムザー湿原にグヮルボどもが押し寄せて来たとき、ワシやほかの主だった者たちは、湿原を守るべきだと提言したのだが、“戦いは犠牲をともない、憎しみの連鎖により永遠に諍いが耐えなくなる。湿原を手放すということは辛いが、ストリギダ族の将来のためには耐え忍ぶしかない”などといって、食料の乏しいこんな場所へ我々一族を移動させたのだ!」

「そのせいで、生まれて来るストリギダの子どもの中には、食べ物不足で餓死する者さえ出ている!」

憤慨やるかたないといった口調でブボ・ケトゥパは言った。


「病気になった者に食べさせる食料も満足にないというのが現状なのです!」

ブボ・ケトゥパの後ろにいた若いストリギダがこぶしを握りしめて言う。

「それを族長は、病人に食い物をやるなど食料の無駄だ、などと言いおって!」

もうひとりの若いストリギダも怒りを露わにして言う。

「ケトゥプにケトゥポ、やめないか!」

ブボ・ケトゥパが叱責する。

どうやら息子たちらしい。


「どうも失礼をした。若い者は義憤感が強いので、つい感情を表に出してしまう... お許し願いたい」

ブボ・ケトゥパは息子たちの非礼を詫びると、状況を説明しはじめた。

ブボ・ケトゥパはストリギダ族の一部族の長で、ストリギダ族は現在、ブボ部族系の者とオゥトス部族系の者によって8割が占められており、残りの2割が少数部族だと話してくれた。


「ブケ部族とオゥトス部族は仲が悪いわけではない。現に、オゥトス部族の中にもレムザー湿原を手放すことに反対した者が少なからずいた」と語った。

「ワシは、族の主だった連中を集め、ラピテーズ族の提案について話してみる。ところで、ゴレン殿はなんでヤドラレ人を連れて来たのか?それに服を着たヤドラレ人など見たことがないが?」


 そこでゴレムはイクシーたちがグヮルボたちに襲われたとき、彼らミィテラの者たちが300匹近くのグヮルボを倒したと話すとケトゥパは「信じられん!」と丸い目をさらに丸くして、ひ弱げなユリアたちを見た。


「では、ケトゥパさんがストリギダ族を説得しやすいように、今からレムザー湿原に向かい、グヮルボどもを蹴散らすのをお見せしましょう!」

「なに?今からレムザー湿原に行くと言っても、われわれストリギダ族なら1時間半もあれば着くが、ラピテーズなら2時間はかかるであろう?」

「いえ、ティーナちゃんのロケットーで10分ほどで到着できます!」

「なんだ、その“ろけっとー”と言うものは?」



 守護天使ティーナが目の前でティーナ・ロケットを作り出したのには、ケトゥパもほかのストリギダたちも腰を抜かさんばかりに驚いた。

ティーナ・ロケットには、ゴレム、ゴレムの部下のガニム、ユリア、リュウ、マユラとケトゥパ、ケトゥプ、少女Aと少女Bが乗ることになった。

ジートはほかのラピテーズ戦士たちと、ケトゥポ、ならびに手勢たちと池の畔で待つことになった。


今回は、前回のロケット旅行で将棋倒しになった経験を教訓に、ティーナに座席に背もたれ付きのシートと加速・減速時につかまえるためのバーをつけさせた。


 ティーナ・ロケットを撃ち出す方角と斜度を決めると、ラピテーズ戦士たちにロケットを打ち出す角度に合わせて土を盛らせ、その上にロケットを据える。

 恐るおそると言った感じでゴレンと部下のガニム、ケトゥパ、ケトゥプ、それに少女Aと少女Bが乗りこむ。

それからユリアたちが乗った。今回も体が一番でっかいゴレンが最後尾だ。


「それではみなさん、バーにしっかり掴まってくださーい!」

すっかりバスガイドならぬティーナ・ロケットガイドになりきったマユラがシートに座ってアナウンスする。

「みなさん、用意はよろしいですかァ?」

「お、おう!」

「い、いいぞ!」

「用意はいいです!」


ゴレンとケトゥパがどもりながら返事をする。

ケトゥプはまったく平気のようだ。

若いのに根性が座っているらしい。


「ほかの者はオーケーだよ!」

リュウが元気よく答える。


「発射10秒前、9秒前......3秒前、2秒前、1秒前、発射―――っ!」


ド――――ン!


轟音を立ててロケットは打ち出された。


化学燃料を燃焼するロケットではないので、別に音など出さなくてもいいのだが

ティーナは“効果音”を出したがる。


加速で4Gがかかり、もっとも体重が重く1トン以上あるゴレンは4トンになった自分の重さで押しつぶされるような苦しさを感じていた。

Gはストリギダたちにもかかったが、いつも飛び回っていくらかはGを経験しているからか、それほど圧迫感は感じてないようだが、やはり4Gは4Gだ。丸い目をさらに丸くして驚いている。


 8分後、ティーナ・ロケットはレムザー湿原に到着した。

着陸点はレムザー湿原の北側で、前回通りの胴体着陸だ。

そして、これも前回通り、リュウが着陸寸前に、念動力で乗員全員をティーナ・ロケットから地上へ軟着陸させる。


 ティーナ・ロケットは、これも前回通り、すごい土ぼこりを立て30メートルほどの長い溝を作って止まった。

“こりゃ、なんとか軟着陸できるように、次回からは車輪とかブレーキとか付けた方がいいな…”

とリュウは考えていたが、すぐに“異変”をキャッチしたグヮルボたちが十数匹飛んで来た。


 ユリアがガンデーヴァで7、8匹をたちまち仕留める。

炎の矢ではなく、通常の魔矢だ。百発百中で、当たった者は必ず倒される。

残った数匹がおどろいて、ギャー!ギャー!とけたましく鳴きながら逃げて行ったが、これも計画のうちだ。


 予想通り、10分もしないうちに、数えきれないほどのグヮルボの群れが現れ、次々にゴレンたちに襲いかかって来た。グヮルボたちにしてみれば、自分たちの“聖地”ともいえるレムザー湿原に侵入者が突然現れたのだ。激怒するのも当然だ。

 それも湿原の四方八方においてあった監視の目をかいくぐって、レムザー湿原のど真ん中に空から飛んできたのだ。グヮルボたちは怒り狂って攻撃をしてきた。


 しかし、それから起こったことは、ゴレン、ガニム、ケトゥパ、ケトゥプ、それに少女Aと少女Bが後ほどした報告&談話を聞いた方が実感がわくだろう。


ゴレン 『鬼神というものが、もしあるのだとすれば、それはあのミィテラの少年たちであろう!

     今、思い返しても、鳥肌が立つような大殺戮だった...』


ガニム 『オレはゴレンさんは、メチャ強い戦士だって知っているさ!

     だがな、あの子たちの強さと言ったら... ゴレンさんを百人くらい集めたくらいの

     強さじゃないか?いや、もっとか、2百人かな?』


ケトゥパ 『ワシも長年生きておるが、あんな一方的な戦いは見たことがない!千匹は確実に倒したぞ?

      これで、グヮルボどもから、我々の故郷をとりもどせる希望が出て来たぞ!」


ケトゥプ 『いや、アレはなんだよ?あんなひ弱そうなヤドラレ人みたいなヤツらが、バッタ、バッタと

      グヮルボどもを撃ち落としたんだ!胸がスッとしたぜ?それにしても、あの武器はヤベえな?」


少女A 『ゆりあサマ スゴク ツヨイ! まゆらサマ スゴク ツヨイ! りゅうサマ カッコイイ!』


少女B 『りゅうサマ メチャ ツヨイ! メチャ イケメン! メチャ ステキ!』


インタービュアー 『ユリアさんやマユラさんはどうでした?』


少女B 『ほか シラナイ りゅうサマ ダケ ミテイタヨ! りゅうサマ に ワタシをダイテと イッテ!』


少女A 『ショウジョB、ズルイ! ワタシも りゅうサマと コウビ シタイ!』


少女B 『ワタシがサキ!』


少女A 『ワタシ ヨ!』


少女Aと少女Bの最後の方の痴話喧嘩は無視するとしよう。



 ユリアは一度に百本以上もの矢を放てるガンデーヴァの弓で、片っぱしからグヮルボの群れを撃ち落としていった。マユラはユリアの矢の雨をかいくぐって接近するグヮルボたちを聖槍ゲイ・ボルグで刺し殺していった。

 聖槍ゲイ・ボルグは、投げれば無数の穂先に枝分かれして降り注いで刺さり、突けば無数の槍の穂となって刺さるし、どんな防具も貫通するのだ。刺された相手は必ず一撃で致命傷を負うという恐ろしい武器だ。

 リュウは使い慣れたフラガラッハの剣で、ユリアの矢攻撃をくぐり抜け、マユラのゲイ・ボルグから逃れて接近するグヮルボどもを目にも止まらない速さで切り捨てて行く。



 結局、1時間ほどの戦いで、ユリアたちは千匹ほどのグヮルボを倒したのだった。

ゴレンは50匹ほど、ガニムが30匹、ケトゥパは30匹、ケトゥプは40匹倒した。

少女Aと少女Bは、ティーナ・ロケットにかくれて頭だけだして戦いを見ていた。


 守護天使ティーナは、1時間後にようやく魔素を充電できたので、ユリアとマユラがグヮルボの接近を押さえている間に全員乗りこみ、ふたたび「ティーナ・ロケット発射――っ!」のマユラの合図でティーナ・ロケットは轟音とともに来た方向へ向けて打ち出された。


 そして8分間の弾道飛行の後、ジートやラピテーズ戦士たち、それにブボ・ケトゥパの手勢たちが待つ森の中の池の畔のある空き地に胴体着陸した。



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