117 リターン・トゥ・ミィテラ(後編)
【Return to Mytera – 2nd Part ミィテラの世界への帰還②】
夕刻―
『暖炉の前』と呼ばれるライトパレスのリビングルームに、次から次へとみんなが集まりはじめた。
3ヵ月ぶりにレオたちが帰って来たというので、急遽トンシー大先生の屋敷で夕食会を開くことが決まったのだ。
トンシー大先生の屋敷では、毎週金曜日に夕食会が開かれるのだが、レオたちが帰ったのは一日前の木曜日だったのが、一日早めに開くように提案が出されたのである。これも気が利く優秀な秘書である美雨の考えだった。
レオが帰ったというので、レオと関係の深いミィテラの世界各国のゲストたちがほかの重要な用事などすっぽかして続々とドコデモゲートを使ってライトパレスに集まりはじめた。
人数が多いので、どんどん『暖炉の前』からトンシー大先生の屋敷に-これもドコデモゲートを使って送り込む。
夕食会は午後4時から始まった。
トンシー大先生もロゼリ奥さんも、久しぶりにレオたちを囲んでの夕食会に大よろこびで、美雨から連絡を受けるとすべての仕事を中止して、昼から夕食会の準備をロゼリさんと始めたほどだった。
夕食会はトンシー大先生の屋敷で行われるが、もはや勇者王国王室のインフォーマル・イベントになっているので、ライトパレスからも大勢のコックや調理助手やボーイ、メイドなどが応援に送りこまれる。
なにせ3百人近い人数の食事の用意をするのだからたいへんなのだ。
クリスティラたちは、アイフィママからオクタゴン・ハウスのそれぞれの部屋に案内され、一休みをしたあとでヴェロニカ夫人に案内されてライトパレスを見学していた。
「ライトパレス... とても美しい宮殿ですね!」
「青い屋根に白い壁。まるでおとぎの国のお城みたい!」
「庭にもたくさんのお花が咲いていてきれい!」
「エイダさまの宮殿ほど豪華ではないし、ラダントゥースさまのグォルム・ナールほど大きくありませんけど、とてもきれいでかわいい宮殿ですね!」
ライトパレスのガーデンをヴェロニカ夫人に案内されて歩きながら、クリスティラたちが感嘆の声をあげる。
「ここがエルフの隠れ里と呼ばれていていたころは、質素な館が当時のエスティーナ女王さまのお住まいだったそうです。そのエルフの隠れ里を譲り受けたレオさまが、この宮殿をお作りになられたのですよ」
ヴェロニカ夫人がクリスティラたちに説明する。
「その時期に、私たち一家も亡命してここに住むことになったのです。夫のミハイロもこのガーデンを造るお手伝いをしましたのよ」
ミハイロとヴェロニカは、オラシア国の皇帝・皇后だったが、宰相ズダーリンが陰謀を企て、皇帝一家を皆殺しにして、美女として有名だったミハイロとヴェロニカの娘たちを自分のモノとしようとしたのだが- 陰謀の実施直後に現れたレオたち勇者グループの活躍によって一家全員が救出され、その後、皇帝一家は勇者王国に亡命したのだ。
ちなみに、その後、元皇帝夫妻の三女アナスターシャと四女ミラーナはレオと正式に結婚し、王妃となった。
長女のヴィクトリアはバルキュス司令官の妻になり、次女エリザベータは勇者王国軍副参謀長の勇者王国イーデルと結婚している。イーデルは鬼人族国女王ベンケイ(レオの王妃でもある)の実弟だ。
「現在、ミハイロはライトパレスの保全管理をまかされておりますのよ」
ヴェロニカ夫人は、彼女も元皇帝のミハイロも勇者王国でたいへん幸せに暮らしていると語った。
そして夫婦の楽しみは、孫たちの成長を見ることだと幸せそうな顔をして言った。
トンシー大先生の屋敷の広い中庭には長いテーブルがいくつも置かれていた。
レオが帰った- そして久しぶりに夕食会が開かれる- と連絡を受けたレオ国王の妻たちの親戚たちや勇者王国と縁の深い人物たちが続々と時間前に到着し、にぎやかに話していた。
勇者王国の王族やレオ王、カイオ副王の妻たちとその子たちもすでに来ていて、招待客たちを迎えたり、トンシー先生の妻であるロゼリ奥さんの手伝いなどをしている。
王族や招待客たちの関心は、もっぱらレオがエスピリティラから連れて来た美女たちだった。
「これはこれは!たいへん美しいご婦人方ですな?」
ヤマト国のオダ・ノブノブ元陸軍司令官が、相好を崩す。
「レオ殿はどこへ行っても手ぶらで帰って来んな?今回は美女を12人も連れて来るとは!ガーッハッハッハ!」
大笑いをするタルのような体躯のガンタレーパ・バンディ-通称ガン元ドワーフ陸軍司令官。
「お父さま、あまりジロジロとクリスティラさんたちを見るから恥ずかしがっているじゃない?」
そう言うのはガンさんの娘で、現在ドワーフ陸軍司令官のアグア=ラナ・バンディ大将-通称ラナ将軍。
彼女はレオの王妃の一人であり、勇者王国軍参謀長でもあるモモの母親だ。
ラナ将軍はドワーフ族特有の背が低くてタル形の身体をしているが、モモはエルフや人族なみにスマートだ。その理由は、彼女の母方の祖先が白龍族の王子モモッタ・ロウと恋仲になり、その二人から生まれた娘の血を強く受け継いでいるからだ。
いわば先祖返り的な遺伝なのだが、その白龍族の王子モモッタ・ロウというのが、現在の白龍王プラキルスタなのだ。したがって、白龍王プラキルスタの娘アナは、モモと血がつながっていることになる。
「そう言うなよ、ラナ姉さん。美人は親父の目のいい保養になるんだから!」
そう言うのはドワーフ国兵器廠長官のダルドン・バンディ大将-通称ドンさん。
「ロン、聞いた?レオさまは、今度も既婚女性をたくさん連れて来たんですって!」
「そんなに驚くことないんじゃないか、ミナ?レオ殿は美女だったら、既婚未婚とか選ばないみたいだから」
ミナ- エデュ=ミナ・バンディはラナ将軍の妹でドワーフ軍陸軍中将、夫のロン- ガンロン・グレドも同じく陸軍中将だ。
「えっ?レオタロウを、そのエスピリティラとか言う世界に置いて来たんですか?」
「当たり前だろ、オルト?レオタロウはあっちでオンナを見つけて結婚して子どもが生まれたんだぞ?」
「だけど姉さん、じゃあなんでモモコだけ連れて来たんだよ?」
「そ、そりゃ初孫の顔が見たいからに決まっているじゃないか、マーズ!」
「初孫って... レオタロウの子どもが初孫じゃないのかい?」
息子のレオタロウをエスピリティラに置いて、娘のモモコだけを連れて帰ったことを弟たちから攻められているのはベンケイだ。ちなみにオルトは“泣く子も黙る”、“魔軍も逃げ出す”と言われるほど恐れられる鬼人族国陸軍突撃隊の司令官で、マーズは副司令官だ。
「まあ、いいじゃないですか、兄さんたち。姉さんは、モモコの出産に付き添ってやりたいんでしょう」
四弟のイーデルが兄弟をとりなす。
「そうソフィアを責めるものではないぞ?ソフィアの息子のレオタロウに女の子が生まれたのなら、ソフィアの血を引いて、もしかすると鬼人族国の女王になるやも知れんからな?」
「何を言っているのですか、ヘイロン? そんなに鬼人族国の大王にわが泰山家一門のオンナを据えたいのですか? あなたの言うことを聞いていると、まるで鬼人族大王の座をかけて娘のソフィアと三番勝負をして惨敗したのを誇っているように見えますけど?!」
鋭い舌鋒で前鬼人族国大王だったヘイロンを責めているのは、ヘイロンの妻ヘレナだ。
ヘイロンはベンケイの父で、鬼人族国十王の1家門である泰山家の当主であり、鬼人族国大王だったのだが、妻のヘレナが言う通り、娘のソフィアにコテンパンに負けてしまい、泰山家の当主の座と大王の座をソフィアに渡すことになってしまったのだ。
「ねえ、ねえ、レオさま、もっとエスピリティラのお話してください!」
「黒い月と白い月があるんですって?それがヘソの緒でエスピリティラの星と繋がっているなんて、ロマンチックですわね?」
「あの、ゴボウ星という名前でしたっけ?5つの太陽に囲まれた太陽は?」
「エスピリティラで一番おいしい食べ物はなんですか?」
「エイダさまって、なんだか創造主さまに似ていると思いません?」
レオの周りを取り巻いて、何やらかやら訊いているのは、テラの世界の美女将校たち。
マーシア、アリス、フランチェスカ、ジャンヌ・アーク、マリア・ナタリア、ユウカ、シャーロット、スカーレットの8人だ。ちなみにシャーロットとスカーレットの二人は軍人ではなく、それぞれテラの世界のペイン王国とアームズ国の王女だ。
レオが叔父のアキレウス・アルマライト王を助けてGATO軍とともにウインチョスター連盟軍を破り、テラの世界に平和をもたらしたあとで、これらの美女たちを妻に向かえてミィテラの世界に連れて来たのだ。
「いやあ、驚いたよ、レオ!エタナールさまがテラの世界とミィテラの世界を繋ぐゲートを開けてくださり、さらに時間の流れも同調してくださったとは!」
レオの叔父アキレウス王が最近、少し白い毛が見え始めたアゴ髭をさわりながら面白そうに言う。
「本当にエタナールさまは、ご慈悲深いですわ。これでエマヌエラともいつでも会えますし、アマンダやアマリエそれにエンジオとも会えますわ!」
アキレウス王の妻マーゴット王妃がうれしそうに相槌を打つ。
「まったくですな!ワシも娘のシャーロットにも孫のヘロイザとヘクトルに会いに来れますからな!」
「ここにはイケメン男子も美少女も多いから、ヘロイザもヘクトルもさぞ青春を満喫していることでしょうね!おっほっほ!」
そう言っている夫婦は、レオの王妃の一人であるシャーロットの両親のヘインツ・ペイン王とメアリー・ジェーン王妃だ。ちなみにシャーロットは前述のマーゴット王妃の異母妹で、ペイン王のハースタル王国はアーマライト王国がもっとも信頼する同盟国である。
「いやあ、ワタシもスカーレットをレオ殿にもらっていただいた時は、スカーレットがこれほど幸せに暮らすとは想像もしませんでした...」
しみじみと語るのはカナン王。
彼はアームズ国の国王であるが、自国で起こった共生産主義革命のあとで、あの悪名高いピストル塔に一家もろとも幽閉されたのだ。まあ一家全員処刑されなかっただけマシだが- ほかの王国では王族貴族は全員処刑されるという悲惨な事さえ起きていたのだから。
ピストル塔に20年間幽閉されていたカナン王一家を解放したのはレオだった。
そのお礼にと、カナン王夫妻は娘のスカーレット王女をレオの妻か愛妾にと差し出したのだった。
「私たちも、おかげさまでアームズ国で何不自由なく暮らしています。これもひとえにレオさまのおかげですわ」
ベルタ王妃が言うと、カナン王も大きく頷いた。
ピストル塔




