11 グヮルボの襲撃
【Gwarbo's Atack】
ヤドレイ人の町 『グラトニトル』 を訪問したオーンたちとユリアたち。
リア―とラピアがパラスピリト姉妹に寄生されるというハプニングが発生したが、守護天使ティーナのおかげで“共生”という方法で仲良く冒険旅行が出来るようになった。
『グラトニトル』 の町も一応見物し終わったことでもあり、外泊すると知らせていないので集落に帰る必要があるとオーンは言ったが…
実際のところはパラスピリトに自分の娘たちが寄生されたのを見て、怖くなったのだろう。
「もう夕方だ。儂は集落に帰らなければならん」
オーンの一言で、リーアとラピアの体を借りて共生生活をはじめたばかりのミルリとチルリは、急いで旅行のための準備をしなければならないことになった。
「このヤドラレ人の娘たちはどうするの?」
ラピアがチルリに聞く。
「うーん... お友だちに譲るって方法もあるけど...」
「お下がりを嫌がる者が多いからねぇ...」
チルリとミルリが答える。
「あの... ヤドラレ人の森に連れて行くというのはどうですか?」
それまで、あまりしゃべらなかったリディアーヌが提案する。
「それはどうかな... この娘ら、もう5年もここで暮らしているから...」
「森での生活にもどっても適応できないと思うわ」
「えっ... そうなるの?」
「うん。だから、パラスピリトが飽きた宿主は、第三区域で労働に従事させられるのよ」
「でも、慣れない肉体労働なんかで、すぐに体調を壊して死ぬ元宿主も多いって聞いたわ...」
「それって、ヒドすぎない?」
「利用するだけ利用してあとはポイって酷いよな!」
ほかの子どもたちも憤慨している。
「ねえ、お父さま。このヤドラレの娘たち、躾もよくされているから...」
「お家でメイドにしてあげたら?」
「うん? 御殿にはもうメイドが4人ほどいるが...」
「この娘たち、体が小さいからあまり食べないからさぁ!」
「お願い、お父さま!」
「しかたがないな...」
娘たちに目がないオーンはしぶしぶメイドにすることを承諾した。
しかし、ヤドラレ人の娘たちを、 『グラトニトル』の町から連れ出すのは少々やっかいだとわかった。
なぜなら、パラスピリトの『決り《ルール》』では、使い終わった宿主は死ぬまで仕事をさせることになっているからだそうだ。
そこで、チルリとミルリの提案で、ラピアとリーアの背に乗せて、いかにもチルリとミルリが乗っているかのように見せて町を出ることにした。
「えーっ、また服を脱ぐのー?」
「また革の胴着を着るのー?」
ラピアとリーアはいやがったが、背に腹は代えられない。
仕方なしにオーダーメイドのかわいいファッションを脱ぎ、ラピテーズにもどり、胴着を着ることになった。
ウヘウヘ顔でそれを見ていたのは男の子たちだった…
が…
(リュウ!またそんなイヤらしい目でこの娘たちを見ているのね!)
(いや... ユリア、おれは...)
(当分の間、キスはお預け、私とのデートもお預けよ!)
(レン、ラピアとリーアの胸ばかり見てるんじゃない?)
(いや、アイ、せっかく見せてくれているんだ。いいじゃないか?)
(一週間、キスもハグもなしよ!)
(レオタロウ、あんたそんなにジロジロ見たら失礼でしょうが?)
(だって... おれ、他人のおっぱい見る機会なんてないから...)
ゴチン!
「イテっ!」
「ツノへし折ってやろうか?!」
「やめて、モモコ姉!」
ともかくも、なんとかラピアとリーアを元のラピテーズ姿にして西門にさしかかった。
ダトーゥ族の衛兵もストリギダ人の尋問官たちも、チルリとミルリがラピテーズに乗っていると思っているので、最高階級のパラスピリトに疑いなどもたずにフリーパス…
と思ったら、ゼナノンがガラス張りの衛兵控え所から走って来てオーンたちを制止した。
(あちゃー!バレたか!)
リュウが念話で叫ぶ。
(だいじょうぶみたいよ、リュウ。危害の意思はないみたいだから...)
予知能力のあるミアが安心させる。
「チルリさま、ミルリさま!ラピテーズたちと出かけるのであれば、あのダトーゥ族の子どもを見つけたところまで連れて行くように命令してください!」
「ダトーゥ族の子ども?」
「はい。もうすっかり元気になっておりますし、衛兵どもも母親のところに返してやるのがいいと申しておりまして!」
ということで、ダトーゥ族の子どももいっしょに来ることになった。
このダトーゥ族の子ども― オスの子どもなのだが― は、 グラトニトルの町へあと二山ほどの距離というところで、フラフラと道を歩いていたのを見つけたのだった。
最初見たとき、背中に大きなコブがある動物かと思ったが、オーンたちが
「カラパッドに食いつかれている。ダトーゥ族の子どもだ!」
「かわいそうに... このカラパッドの大きさじゃ、もう一週間以上血を吸われているわ!」
「ダトーゥ族は硬い鱗甲板で覆われているけど、カラパッドは鱗甲板のすき間に口吻を差し込んで血を吸うのよ!」
オーンやリア―たちが状況を説明する。
「なんとか助けてあげれないの?」
「カラパッドを切り取ったら?」
ユリアたちが、オーンたちにたのんだが...
「カラパッドは、宿主が安全だとわかった時点で、宿主から剥がされないように、刃も通らないほど固くなる接着液で吸口を固めるのよ!」
「だから、吸いついてすぐなら、まだなんとかなるけど、こんなに日にちがたって大きくなったらムリ!」
「ムリして剥がすと、口吻が接着している宿主の組織を破壊することになって、宿主は死んでしまう!」
もう手の施しようがないとあきらめ口調だ。
(ティーナちゃん、お願い!)
(このダトーゥ族の子を救ってあげて!)
(まかせといて!)
1分もかからずに、カラパッドはダトーゥ族の子どもの首筋からボトンと落ちた。
ティーナがカラパッドの脳に“もう腹いっぱい血を吸った”とのニセ情報を送ったのだ。
アイがファイアーフレアーでカラパッドを黒焦げにした。
そしてリディアーヌが治癒魔法と回復魔法をかけ、ダトーゥ族の男の子は一命をとりとめたのだった。
しかし、一週間もまんぞくに食べてないダトーゥの男の子は衰弱しきっていた。
お弁当にもって来ていた、ラピテーズの分厚い煎餅みたいな肉まんじゅうをやってみたが一口も食べず、わずかにフルーツジュースを一口、二口飲んだだけだった。
ここまで来てオーンゾリオ集落に引き返すわけにはいかないので、パラスピリトの町まで連れていって、治療と休養をさせようということになったのだ。
ダトーゥ族の番兵たちが何か薬でも飲ませたのか、ダトーゥの子どもはかなり回復しているようだ。
『グラトニトル』の町を出て、オーンゾリオ集落へと続く街道を歩きはじめると、ダトーゥ族の男の子はカタコトだがしゃべりはじめた。
「ボクを タスケテくれテ アリがとウ!ボク ジャタンコック なまエ!」
「ジャタンコック? 長いわね? タンコックって呼んでもいいかしら?」
森にはいったところでヤドラレ人の娘姿になり、小藪にはいって服を着なおしたチルリが言った。
「それでも長いわ。いっそタンクにしちゃいなさい!」とミルリ。
それでダトーゥ族の男の子はタンクと呼ばれることになった。
「たんク... たんク!うン! いいナマエ!」
タンクは2歳だと言う。
森に友だちと遊びに行って迷ったらしい。
そして、それまで足を踏み入れたことのない深い森でカラパッドに食いつかれたらしい。
食いつかれてすぐは気がつかなかったそうだ。
気がついたときは、しっかりと食いつかれていてとれず、そのうち意識が朦朧となり、あとはおぼえてないという。
そのときだった。
グワーァ グワーァ!
グワーァ グワーァ グワワーァ…
グワーァ グワワーァ グワーァ グワワーァ
突如けたましい鳴き声が遠くから聞こえて来て、森の木の梢越しに、500メートルほどの距離のところを紫色をしたブキミな鳥人の群れが飛んで行くのが見えた。
「グヮルボだ!」
「数が多いわ!早くかくれましょ!」
「地面にふせろ!」
ラピテーズたちが顔色を変えてガバっと地に伏せた。
まあ、リアーとラピアはヤドラレ人の娘の恰好をしているので、でっかい体でうずくまったのはオーンと使用人だけだったが。
オーンは次々と西へ向かって飛んで行くグヮルボの群れを見て、
何を思ったのか急に立ち上がった。
「お父さま!グヮルボたちに見つかったら...」
「襲われるわ!」
リア―とラピアがオーンの体にとりついて、ふたたびうずくまらせようとしたが、
「いや、あのグヮルボたちは儂たちには目もくれないで飛んで行った。ヤツらの目的は、イクシーたちが荷馬車で運んでいるジャバルドの肉に違いない!」
「「!」」
リア―とラピアが、驚いている。
「イクシーたちが危ない!急いでもどらないと!」
「お父さま、急いでもあの場所までは2時間かかります!」
「ああ!ボルホーンみたいに翼があったら...」
(ティーナちゃん、なんとかできないのっ?)
(ティーナちゃんなら、出来るんじゃない?)
何か緊急事態が発生しているらしいと分かったユリアたちが守護天使に聞く。
(やったことはないけど、出来るかもしれません!)
(翼を私たちにつけるの?)
(そんなメンドウなことしません!)
(じゃあ、なによ?)
(ロケット―――っ♪)
(な、なによ、その「ろけっと―――っ」って?)
(シーノお母さんから知識をもらっていますけど、実際はやったことないんです)
(ま、まあ... 速く行けるのならやってみて!)
守護天使ティーナが、シーノママの100分の1という能力で作ったのは...
長さ10メートルほどの筒状で先端の尖った乗り物だった。
丘の傾斜地に斜め上を向いて置かれたロケットというモノ。
それは、カヌーのように上部に切り込みがあった― そのコックピットの中に乗るのだそうだ。
「さあ、『ジャバルド山駅行き』、30秒後に発射しまーす。ご利用の方はご着席くださーい!』って、ティーナが言ってますよ!」
ティーナの通訳になってしまったマユラがみんなをせかす。
一番図体の大きいオーンが最後部に座る。
そしてオーンの前に全員が一列に座った。
「荷馬車のように車輪もない、こんなヘンテコ... いや、モノがどうやってイクシーたちのいるところまで...」
オーンが、そう言ったとき、マユラが叫んだ。
「みなさん、しっかりお掴まりくださーい!」
オーンがロケットのコックピットのへりを掴んだとたん、
ド――――ン!
と打ち出された。
しっかりとコックピットのヘリに掴まっていたのはオーンだけだったので、
ユリア、アイ、ミア、マユラ、 リディアーヌ、モモコ、ラピア、リーア、二人のヤドラレ人の娘、リュウ、タンク、レン、レオタロウそれに使用人のマロが将棋倒しのように最後部のオーンに倒れ掛かってしまった。
「ムグ―――ゥ!!」
オーンが12人と一頭分の重さに必死に耐えているとき、ティーナのロケットは音速に近い速度で飛んでいた。もちろん、ティーナのバリアーで保護されているため、空圧も感じないし呼吸困難も起きない。
加速が終わり、Gを感じなくなったみんなもようやくコックピットのヘリを掴んだ。
「ティーナちゃん、イクシーのところへはどれくらいで着くの?」
(ユリアさま、10分もかかりません!)
そう言っている間にティーナ・ロケットは機首を下げはじめた。
オーンもラピア、リーア、マロ、それにヤドラレ人の娘も恐々と下を流れている風景を見ている。
「あれを見て! グヮルボたちが黒山のようにたかっているわ!」
最前席にいるユリアが指さす方向を見ると、たしかに数十匹のグヮルボが荷馬車を襲っているのが見えた。
「やはりイクシーたちが運んでいたジャバルドの肉を狙ったか!...」
オーンが歯をギリギリさせる。
「ティーナちゃんが、胴体着陸するのでしっかり掴まってって言っていますっ!」
マユラが大声で叫ぶ。
ティーナ・ロケットはどんどん機首を下げている。
「胴体着陸って... 急に止まるんだよな?」リュウが聞く。
(たぶん、急には止まれないので、たぶん接地してから何十メートルか地面を滑ると思います!)
「ということは... 」
そう言いながら、リュウは後に座っているオーンとマロを見た。
“あのバカでかい族長さんとマロの体重が、おれたちに寄りかかってくるということだな…
ありゃ、オーンさんは千キロくらい、マロも800キロ以上体重がありそうだぞ… 将棋倒しのように、レオタロウからはじまってユリアまで押しつぶされるな…”
(レン!)
(おう、どうしたリュウ? 胴体着陸が怖くてションベン漏らしそうか?)
(バカ言え!そんなことより、このスピードで胴体着陸をしたら、最後尾のオーンとマロにみんな押しつぶされるぞ?)
レンは後ろをふりかえって、2頭のラピテーズの巨体を見た。
(!... たしかに!)
(な?)
(なにか名案でもあるのか? このロケットから放り出すとか?)
(おっ、それはいいアイデアだ!)
(バカ言え!あんなデカい図体のヤツ、誰も放り出せないよ!)
(おまえが放りだすんだよ!)
(なに? そんなことが... そうか、わかった!)
ティーナ・ロケットはグングンと地表に近づいて行く。
10台ほどの荷馬車は、街道のあちこちに捨て置かれているようだ。
グヮルボたちが不気味な黒い目で急速に接近する奇妙なモノを見ているのがハッキリと見えるようになった。
しかし、多くはハゲタカのように荷馬車に積まれたジャバルドの肉や、荷馬車から引きずり降ろした肉を争うように食っている。いや、一片の肉をとりあって激しく争っているグヮルボたちさえ見える。
レンが彼の後にいるレオタロウの後のオーンを見て叫んだ。
「オーンさん、戦いの準備はいいですか?」
「お、おう!準備は万端... 」
グワヒヒーン―――ン?!
グヒ―――――ン!
オーンと使用人マロは返事をし終わる前に、レンの念動力でティーナ・ロケットから放り出された。
いや、ただむやみに放り出したわけではなかった。
グヮルボの群れの中に放り込んだのだ。
オーンは放り出された瞬間、おどろいたが、グヮルボの群れの方に向かって投げ出されたのを見て、レンの作戦を理解した。自分の名前を冠した10万のラピテーズ族が住むオーンゾリオ集落の族長になっただけはある。
レンはオーンとマロがケガをしないように、グヮルボの群れの中に強行着陸させた。
すでに弓を背中に背負っていたオーンは、長剣を抜いていた。
着地時に3、4匹のグヮルボを潰したオーンは、長剣を水車のようにふりまわしはじめた。
たちまちグヮルボたちが首を切り落とされ、頭をそがれ、殺されていく。
マロも屈強な身体で槍をふり回し、グヮルボを叩き潰している。
「レン!着地寸前にみんなを移動させろっ!」
「リュウ、まかせろっ!」
ティーナ・ロケットが胴体着陸する直前に、レンは自分をふくめた全員を、ロケットのコックピットから念動で地上に移動させた。
ただ、ミアだけが飛行魔法で自力で飛びあがった。
魔大陸でゴブリンと戦ったときの戦術を使うつもりだ。
ユリアは着地する前に神弓ガンデーヴァで矢継ぎ早にグヮルボの群れに炎の矢の雨を降らせた。
マユラは聖槍ゲイ・ボルグを手にしている。彼女が母親のソフィアから譲られた魔石を付けたグレイブをレオタロウがどうしても欲しがったので譲り、代わりにゲイ・ボルグを武器にしていた。
ゲイ・ボルグは、2頭の海獣「コインケーン」と「カロウゥード」が争そったとき、敗れた海獣の骨をつかって勇士ボルグがこの槍を作り上げたと言われる伝説の武器だ。
マユラは1台の荷馬車にたかっているグヮルボの群れ目がけてゲイ・ボルグの槍を投げた。
ゲイ・ボルグの槍は、無数に枝分かれしてグヮルボたちに降り注いでたちどころに殺してしまった。
ゲイ・ボルグの攻撃は、一撃で致命傷を負わせる恐怖の武器なのだ。
リュウはフラガラッハの剣をふりかざし、向かって来るグヮルボたちを豆腐でも切るように、片っぱしから切っていく。たちまちグヮルボたちは逃げるヒマもなく死骸の山が作られて行く。
レオタロウは7メートルに伸ばしたグレイブで、グヮルボたちを木っ端みじんにしている。
オルハリコンで作られたグレイブには、母親のソフィアが倒した、『魔王の四天王』ともいえる最強クラスの戦士たちの魔石が数個付けられており、それが鬼人族の戦士であるモモコやレオタロウの怪力と相乗して爆発的な破壊力をもたらすのだ。
リディアーヌはグヮルボたちの記憶を操作して、“仲間を餌を横取りする敵”だと思わせて、同士討ちをさせている。ミアはさしずめ浮かぶ司令塔の役目を果たし、上空から適切な指示を出している。
ミアは攻撃魔法を使えないので、アイが彼女のガードも兼ねてミアを攻撃しようと近寄るグヮルボたちを次々と雷禍魔法や火炎魔法で叩き落している。
20分後。
グヮルボの大半は殺され、十数匹が逃げて行った。
いたるところグヮルボの死骸だらけだった。そして、その中に十頭以上のラピテーズたちの無残に食い散らかされた遺骸があった。
「イクシーっ!」
「イクシー!」
「イクシー兄さん!」
オーンとリア―、ラピアたちがラピテーズの遺体を一頭、一頭調べている。
「これは使用人のヤンだ...」
「これはマヌーのカノジョよ!」
「これも使用人のギヨン...」
「こ、これはニクズだ!」
イクシーのいとこのニクズが惨たらしい姿で見つかり、イクシーのカノジョたちも二頭見つかり、マヌーのカノジョとニクズのカノジョ、それにさらに使用人の遺体も確認できたが、イクシーとマヌーの姿は見あたらなかった。
オーンたちは途方にくれた。
もう夜の帳が降りはじめている。
ユリアたちも手分けして探すのを手伝うことになった。
「私は匂いを追います」
豹族のマユラはそう言って、グヮルボたちに荷馬車が襲われた周囲の地面を嗅ぎはじめた。
ほどなくして、マユラは血痕を見つけ、跡を追って森の中に入って行き、街道から千メートルほど離れたところにかくれていたイクシーとマヌー、それに彼らのカノジョ四頭と使用人二頭を発見した。
イクシーもマヌーも彼らのカノジョたちも使用人もケガをしていた。
リディアーヌ が早速、治癒魔法をかけ、弱っているメスたちには回復魔法をかけた。
それから手分けして、遺体を荷馬車に乗せ、残ったジャバルドの肉を集めたが、荷馬車10台以上もあった肉はわずか2台分も残っていなかった。
「ここから集落に帰るとなると、いくら急いでもあと2時間半はかかる。ティーナさんに頼んで、先ほどのロケットとやらで飛んで帰れないものか?」
オーンからお願いがあったが…
守護神ティーナはロケットを作り出し、高速で100キロ以上の距離を飛んだため魔素を使い果たしてしまい、ユリアのペンダントの中で休息中だった。
しかたなく、オーンやラピテーズの姿にもどったラピアとリア―が出血がひどくて衰弱しているイクシー、マヌー、それにメスたちを乗せた荷馬車を引き、使用人たちがジャバルドの肉を積んだ荷馬車を引いて集落に向かうことになった。
幸い1時間もしないうちに、荷馬車の帰りが遅すぎるのを心配したケイラ(オーンの第一夫人)が送ったラピテーズ戦士たち30頭に会い、荷馬車を元気のいい戦士たちに引かせることで2時間後に無事に集落に到着することができた。
戦士隊長が先に送った伝令によって、食料調達隊がグヮルボの大群に襲われたというニュースは集落中にすでに広まっていて、門の前にはケイラやマヌー、ニクズ、彼らのカノジョたちの家族たちや親戚たちが大勢集まっていた。
戦士隊に守られた荷馬車隊が近づくと、家族たちが息子の名前を、娘の名前を、使用人の名前を叫びながら荷馬車に駆け寄って来た。
生きて荷馬車に乗っている者を見て、あたりをはばからず泣きながら抱きしめる者、荷馬車に冷たくなったわが息子、わが娘の骸を発見して泣きくずれる者、地べたに座りこんでしまう者…
オーンゾリオ集落は、未だかってなかった悲惨な出来ごとで騒然となった。




