9 パラスピリト
【Paraspirit】
イクシーの大声が響いた。
「しまったーっ!ジャバルドの群れが分かれた―――っ!」
使用人たちがロプスを使って、イクシーたちの待ち構えるところに追い込んだジャバルドの群れが待ち伏せをうまくかわして、イクシーたちの後方に控えていたリア―たちとラピアたちの方へ突進して行ったのだ。ジャバルドの群れの中には巨大で獰猛なヤツもいる。
「かなり大きいヤツがそっちに行ったぞ――!リア―、ラピア―、気をつけろー!」
「何匹くらいー?イクシ――!?」
「20匹ずつくらいだーっ!」
「ええっ、20匹ずつ?!」
リア―の顔が青ざめた。
「リア―、今、そちらに行くーっ!」
オーンが大声で叫んでリア―の方に向かって猛然と走りはじめた。
「ボクはラピアさんを応援しますっ!」
「おれも!」
リュウの大声が聞こえ、すぐにレオタロウの声が聞こえる。
まるで巨大な岩が転がり落ちるようにそいつは突進して来た。
弓を構えていたリア―は正確にジャバルドの眉間に矢を当てたが、巨大なジャバルドにとっては蚊が刺したほどにしか感じなかったようで走りを緩めずに突っこんで来た。
リア―はとっさに横に飛んで逃げようとしたが、ジャバルドはすばしこく方向転換し、その1メートルもある鋭いツノでリーアの横腹を突き刺すべく迫って来た。
万一、ツノから逃れることができたとしても、1メートル以上もあるキバで切り裂かれるのは必至だ。
アイが咄嗟に雷属性魔法『雷禍』を巨大なジャバルドに放った。
突然、目が眩むような青白い光が煌めいた。
ド―――ン!
轟音をたてて雷禍が巨大な獣を直撃した。
ユリアも全力で“炎よ焼き尽くせ!”と念じてガンデーヴァの弓を連射した。
数十本の炎の矢が放たれ巨大なジャバルドに突き刺さり、その衝撃で斜面を突進して来た巨大なジャバルドは見えない壁にぶっつかったように停止したと思ったら、轟々と燃え始めた。
あとに続いて来たジャバルドたちは、リーダー・ジャバルドが火だるまになったのを見て、慌てて脇に逸れて逃げ出そうとしたが、マユラが神速で追ってたちまち剣で3匹倒した。
そこへ駆けつけて来たレオタロウとモモコが、フォシャールとグレイブで残ったジャバルドたちを仕留めた。
モモコのグレイブとレオタロウのフォシャールは切れすぎて、ジャバルド6匹を真っ二つにしてしまった!
オーンも大型のジャバルドを一匹仕留め、刀で二匹倒した。
だが、オーンはアイの雷禍魔法とユリアのガーンデーヴァの弓の威力を見て唖然としていた。
ラピアたちのところに現れたジャバルドの群れも、リア―と同じようにラピアの初撃の矢では仕留めることはできなかったが、リュウがフラガラッハの剣で最初の6匹をひとなぎで真っ二つにし、レンが60センチの棒手裏剣30本を高速念動で飛ばして残りの5匹仕留め、ミアが金縛りで残りのジャバルドを釘付けにしたのを、リュウとレンが始末した。
それからが大騒ぎになった。
イクシーたちが真っ青な顔で斜面を駆け下りて来て、40匹以上のジャバルドが倒されているのに愕然となった。しかも、あの巨大なジャバルドは黒焦げで凍りついており、ほかのジャバルドは真っ二つに切り裂かれていたり、無数の穴が開いていたりした。
さすがにリア―は脇を通り抜けたボス・ジャバルドのキバで後足に傷を負っていたが、リディアーヌが治癒魔法ですぐに治してやった。
間もなく、使用人たちもやって来て、驚いたり、リーアやラピアたちが無事なのを見て胸を撫でおろしたり、想像以上の成果-40匹ものジャバルドをどうやって集落まで運ぶかで悩んだりとたいへんだった。
「じゃあ、ジャバルドを解体したらいいんじゃないですか?」
マユラの提案を受け、すでに真っ二つに切られているジャバルドをのぞいて、ほかのジャバルドの血抜きをラピテーズたちが手早く始めた。獲物は仕留めた後、すぐに血抜きをしないと肉の味が落ちるのだ。
リュウはフラガラッハの剣を使って、モモコやレオタロウたちは剣を使って、血抜きが済んだジャバルドをまたたく間にを解体していった。ほかの者たちは使えない内臓などを取り除き、食料にできるところだけをとる作業を手伝った。
肉が多すぎるので、イクシーのいとこのマヌーとニクズは、荷馬車をとりに集落にもどることになった。
ユリアやアイ、リディアーヌ、ミアたちは、初めての解体作業に辟易したが、みんながっやっているのに自分たちだけが高みの見物しているわけにはいかない。だが、繊細なリディアーヌやミアなどは吐き気をこらえるのに懸命だった。
1時間ほどで解体作業は終わり、肉の塊が荷馬車に山と積まれた。
巨大なボス・ジャバルドは表面が黒焦げだったが、中身は問題なかった。
ボス・ジャバルド一匹分の肉だけで一台の荷馬車がいっぱいになるほどだった。
内臓はロプスたちに狩りの褒美としてたらふく食べさせ、もって帰る内臓は革袋に詰めた。
「さて... マヌーとニクズが荷馬車を持ってくるまでは、早くても3時間半はかかるな...」
オーンは大量の獲物に目を細めてたいへん満足そうだった。
「今から昼食をして、それからここから東に2時間ほどのところにあるヤドリレイ人の町まで足を伸ばしてみよう!」
リーアとラピアが火をおこし、イクシーとマヌーとニクズのカノジョたちは狩ったばかりのジャバルドの肉を手ごろな大きさに切り取り、塩をふると、木の枝に刺して即席バーベキューを始めた。
昼食は例の分厚い煎餅みたいな肉まんじゅうと発酵酒にフルーツジュースだ。
焼けるにしたがって、ほどよく焼けた部分を1センチほどの厚さに切り取って熱々を食べるのだ。
みんなでバーベキューの火の回りを囲み、狩りのことをワイワイ話しながらのジャバルド焼き肉を食べ、フルーツジュースや発酵酒を飲む。
ジャバルドの肉味は濃厚でとても美味しく、火であぶられ溶けかかった脂の部分は絶品だった。
「ジャバルドの肉っておいしいね!」
「うん。これほど美味って知らなかったわ!」
アイとミアがさかんに食べながらジャバルドの肉の美味しさについて話している。
「うふふ... あなたたちはさっき、内臓を取りのぞいていたとき、吐きそうな顔していたもんね!」
「あちゃー!リーアさん見ていたのね!」
「そりゃ誰でもわかるわよ。あんな顔していたら。まあ、最初は誰でもあんなものよ」
「それにしても、やはり、その武器は凄いものだな。おまえたちの父が魔王の軍勢を破ったということが真実だと信じられる!」
発酵酒で顔を赤くしたオーンが饒舌になって話しはじめる。
「それに、そのレオタロウの武器とモモコの武器、それにレンの両方が槍の先のようになった武器も凄い!」
オーンが言っているのはレオタロウのフォシャールとモモコのグレイブとレンの60センチの棒手裏剣のことだ。
「アイが、あの巨大なジャバルドを最初に攻撃したカミナリみたいなのはなに?」
リーアが聞く。
オーンは少し遅れて来たため、青白い光と轟音は聞いたが、なぜあの場所でカミナリが起こったのか知らない。それに、アイはあの時、周囲にいる者が巻き込まれないように、アイは巨大なジャバルドだけに集中して雷禍を放っていた。
「うん?あのカミナリみたいなモノか?雲もない、雨も降ってないのにおかしなことがあるものだと儂も思っていたが...」
「あれは、魔法よ」
「「「「「「「「魔法?!」」」」」」」」
ラピテーズたちが異口同音で驚く。
「そうか... それで納得がいった。魔法というものは、精霊界でもあるし、善霊たちや悪霊たちの中で使えるヤツも多くいる。しかし、肉体をもつパラスピリトに寄生されたヤドラレ人以外の者が使えるとは知らなかった...」
「オーンさん、どうやらこの精霊界では、魔法を使えない者の能力もアップしているようなんです」
ユリアがリュウやレンタロウの攻撃力が強くなったことを言った。
「そうだよ!おれもフラガラッハの剣は使っているけど、魔大陸などではそれほど威力なかったし!」
「私もよ。イザベルおばさんはガーンデーヴァの弓で、魔王の大軍を迎え撃ったって言ってたけど、私の場合はせいぜい一本ずつしか矢を撃てなかったんだけど、さっきはあんなにたくさんの炎の矢を撃てて驚いたわ!」
ユリアの話を聞いていたマユラが、脇に置いてある聖槍ゲイ・ボルグを見て言った。
「じゃあ、このゲイ・ボルグの槍も、お父さんの言っていたようなスゴイ力を出せるのかな?」
「出せるに決まっているわ!ほら、お父さんも言っていたでしょう、神の武器は使うにつれて能力が増すって!」
「そ、そうだったわね...」
「今まではあまり使う機会がなかったけど、これからどんどん使っていけばいいのよ!」
「だ、だよね?」
ほとんど誰も傷を負うことなく終わったジャバルド狩り。
実は誰も深い怪我をしなかったのは、守護天使ティーナがバリアーを張ってみんなを守っていたのだ。リーアの怪我が軽傷で済んだのもティーナのおかげだった。
ユリアたちはもちろん、それを知っていたがオーンたちには何も言わなかった。
守護天使のことを言うのは時期尚早だと考えていたからだ。
* * *
2時間あまりを歩き、山をいくつか超えたあとでヤドリレイ人の町に着いた。
ジャバルド狩りからヤドリレイ人の町に向かったのは、オーン、リーア、ラピアと使用人のマロ、それにユリアたち11人の総勢14人だ。
イクシーたちは彼といとこたちのカノジョたちとほかの使用人と残って、マヌーとニクズがオーンゾリオ集落にまでとりにもどった荷馬車の到着を待つことになった。
実際は、イクシーはオーンの真似をして、帰り道に彼女たちと交尾したかったのだろう。
まあ、それはイクシーの個人的事情なので誰も何も言わなかった。
ヤドリレイ人の町は、オーンゾリオとは比べものにならなかった。
オーンたちの集落が雑然とした石造りの家が無規則にダラダラと建ち並んでているのに対して、ヤドリレイ人の町は整然としていた。
町の規模はそれほど大きくはない。
オーンゾリオ集落の4分の1くらいか。
しかし、すべての家がガラスでできていて、五芒星プラス中心の水色太陽の6色の午後の日差しを浴びて燦然と輝いており、まるでSF世界に出て来る未来の町のようだった。
そして中央には高い塔― これもガラスでできている―が建っていた。
ストリートにはほどよい間隔で並木が植えられていた。並木の木はあまり大きくもなく、やたらと葉が多くもなく、少なすぎずもなく、遠くから見ても快適そうなストリートなのがわかる。
町の入口でストリギダ人の門番に尋問された。
ストリギダ人は鳥人族で、ピンと立った羽耳があるのが特徴だ。
オーンによれば、ストリギダ人は優れた聴覚と視覚をもっているらしい。
ストリギダ人はゾリイム湿原に多く住んでいるそうだ。
門番のストリギダ人は、防具らしい革製の武具をつけていた。
ストリギダ人の門番の後ろには、全身を鱗甲板で覆われた、屈強なずんぐりしたダトーゥ種族の衛兵たち―彼らは武器だけをもち防具はつけてなかったが、何とも長いイチモツを下半身から下げているのが防具の下から見えた?
ダトーゥ種族の衛兵たちは、うさんくさそうにオーンたちを見ていたが...
リア―の背中に一匹のダトーゥ族の子どもが背負われているのを見てダトーゥ族衛兵たち騒ぎはじめた。
「おまえら、なぜダトーゥ族の子どもを連れているのだ?!」
「それにどうも病気のようだ!ぐたっとしている!」
「その子をどうするつもりだ!」
「答えによっては容赦せんぞ!」
たちまち衛兵たちに囲まれ、槍を突きつけられ、矢をつがえた弓を向けられる。
「そう、騒ぐな!」
オーンが貫録をみせて一喝した。
ダトーゥ族の衛兵たちが怯む。
「このダトーゥ族の子どもは、カラパッドに寄生されて死にそうになっていたのを、この少年たちが助けたのだ!」
「なに、カラパッドに!?」
「このヤドラレ人の子どもたちが助けた?」
「奇妙に服などを着ているヤドラレ人が?」
衛兵たちが騒ぎはじめる。
そこに衛兵控室の中にいたらしい、ダトーゥ族衛兵の上官らしいやつが現れた。
こいつもかなり大きいモノをぶら下げている。
あまり騒ぐので見に来たのだろう。
上官は手で衛兵たちに槍を下げ、弓を下ろすように命じた。
「みんな武器を下ろせ。 ほほう... ラピテーズがここに現れるのもめずらしいが、ヤドラレ人がほかの種族を助けるというのもめずらしいな?」
「当たり前だ。この少年たちはヤドラレ人ではないからな!」
オーンの返事に上官は眉をぴくッと動かした。
「そうか。どうもヤドラレ人にしては、知恵があるような顔をしていると思った。まあ、別に怪しいものではないようだ。そのダトーゥ族の子どもを衛兵に介抱させて、おまえたちはワシについて来い」
すぐに衛兵たちがリア―の背中からダトーゥ族の子どもを下ろし、オーンたちは検問所の脇にあったガラス建ての家にはいった。
そこはどうやら衛兵の詰め所ところらしく、テーブルやイスなどが置かれ、奥の方には休憩所もあるらしく、ダトーゥ族の子どもは奥へ担がれていった。
「ワシの名前はゼナノン。グラトニトル町西部区域の警備責任者だ」
「儂はオーン。こちらは娘のリアーにラピア。この少年たちについては、ユリアに紹介してもらおう。どうしてこの精霊界に来たのかもな!」
30分後、ゼナノンは感嘆して言った。
「そうか... 道理できれいな服を着て、見事な武器をもっているはずだ。オーラがないからヤドリレイ人でないということはひと目でわかったが...」
パラスピリトの寄生なしでも高度な知能をもち、自主的な行動をとれる者がいたとは驚きだ、とゼナノンは言った。
「それにしてもオーン殿は美しい娘をもっておるな? 気をつけないと、パラスピリトに寄生されるぞ?」
「な、なにィ? 儂の娘たちに寄生だと?」
「そうだ。最近はな、パラスピリトたちも生活習慣を変える試みをしており、違った形態の生物に寄生する連中も出て来ておるからな...」
そして「かく言うワシも、そこの衛兵たちも、ストリギダ人たちも、全員、パラスピリトに寄生されているのだ」と言って、かぶっていた衛兵キャップをとって見せた。
キャップは首筋を強い日差しから守るためのシェードが後ろについていたが、後頭部からはパラスピリト特有のオーラが出ていた。
ゼナノンが首の後を見せると、そこは少し盛りあがっており、白っぽいパラスピリトが付着しており、わずかに脈打つように白い光を発していた。
「そ、そうか... 儂もここへ来るのは子どものときに、先代の族長に連れて来られただけだから、はっきりとは覚えてないが、そう言えば、あのときはヤドラレ人の門番しかいなかったな...」
「まあ、ワシはこの体が気に入っているので、ラピテーズに代えようとは思ってはないが、パラスピリトがしつこく寄ってきたら、さっさと逃げる方がいい」
ゼナノンはアドバイスをしてくれた。
「とにかく、おまえたちが害意をもたないということは、みんなに伝えておいたので、ゆっくりと町見学をするがいい。泊まりたい時は、誰か白色以上のパラスピリトを寄生させているヤドリレイ人に訊くと、泊れる場所に連れていってくれるだろう」
と親切に教えてくれた。
「あの... ゼナノンさん...」
「おう、何だ?ユリアとやら」
「先ほど、 リアーさんとラピアさんが寄生されるかも知れないと言ってましたけど...」
「ああ、おまえさんたちのことか?同じように寄生されるのではないかと心配しているのか?」
「は、はい!」
「そうです」
「おれも心配だ!」
「レオタロウは寄生されたら、ちょっとは賢くなるかもな!」
「ええーっつ、そりゃないよ、モモコ姉っ?!」
「それは心配ない。なぜなら、パラスピリトは、操作しやすい生物にしか寄生しないからだ」
「そら見ろ、レオタロウ、おまえ最有力候補だ!」
「やめろ、姉ちゃん!」
オーンはモモコとレオタロウのやり取りを面白そうに見ながら言った。
「おまえたちミィテラの種族は、それぞれ知能も高く、意思も強いようだ。絶対に寄生されんとは言わんが、出来るとしたら最高レベルのパラスピリトたちだけだろうが、彼らがそんな興味をもつとは考えられんな!」
「それを聞いて安心したわ」
「そうか、おれたち意思が強いからな!」
「アタマもいいってことだ!」
子どもたちが安心する。
「...... 儂はラピテーズもそれほど知能は低くないと思っているのだが...」
「だから言っただろう?ラピテーズにもさまざまな趣味のヤツがいるように、パラスピリトにも、さまざまな趣味をもったヤツがいるってことだよ!」
ゼナノンがオーンをギロリと見て言った。
「.........」
「.........」
「.........」
オーンもリアーもラピアも黙ったままだ。
「まあ、そういうことは滅多に起きないから安心しろ!」
ゼナノンの言葉でようやく安心してヤドラレ人の町見物にくり出した一行だった。
ゼナノンや衛兵やストリギダ人の検問係は全員、キャップをかぶり、統一された防具らしいものを付けていたが、街の中を歩くヤドリレイ人たちは、自由な服装で歩いていた。
しかし、彼らは全員、ハダカでこそなかったものの、おっぱい丸出しファッションや、スケスケのシースルー生地を使った服装なので、おっぱい丸見え、フリチン丸見え、ヘア丸見えのファッションで闊歩していた!
おそらく、エスピリティラの住人たちにとっての“恥”の定義は、ミィテラやテラの世界の住人のものとはかなり違うようだ。
ユリアたち女の子は、努めてヤドリレイ人の男たちの下半身を見ないようにしていたが、どうしても目にはいってしまう。反対にリュウたち男の子は、ウキウキとヤドリレイ人の娘たちのおっぱいやプリプリとしたオシリを食い入るように見て、興奮したように品定めをして、ユリアたちの顰蹙をかっていた。
ゼナノンが― いや、正しくはあのダトーゥ族に寄生しているゼナノンというパラスピリトが、どんな方法で町の住民に知らせたのかわからないが、誰もラピテーズがオーラも放ってないヤドラレ人といっしょに街を歩いていても特別に興味を示さなかった。
ゼナノンは、パラスピリトには階級があり、赤色オーラを放つのが最下級で、青白いのが最高階級だと教えてくれた。街を歩いているヤドリレイ人たちは、ほとんど黄色か白、それにときどき緑色のオーラを放っていた。緑色のヤドリレイ人が通ると、黄色や白オーラのヤドリレイ人たちは、すぐに道を開けた。
街の家々はガラスで出来ているので中まで見える。
家の中でくつろいだり、ガラスのテーブルの周りに座って何かを食べたり、会話をしたりしているのが通りから見える。
二階のバスルームでシャワーらしいものを浴びているヤドリレイ人の若い娘が見えたときは、男の子たちは色めきだった。
「す、すげえ!バッチりヌードが見えているよ!」
ゴチン!
「イテぇ!」
レオタロウが素っ頓狂な大声をだして、モモコからげんこつを食らった。
「いいカラダしているな...!」
レンも立ち止まって見ている。
「レン!失礼よ!」
アイが注意するが、どこ吹く風だ。
シャワーを浴びていた若いヤドリレイ娘が、彼らに気づいてにっこり笑って手をふった。
これがさしずめミィテラの世界だったら、「キャー!」と悲鳴をあげて、しゃがみこんでしまうか、シャワールームから逃げ出してしまうところだ。
両手をあげてふっている彼女の見事なおっぱいもゆれている。
「いいおっぱいしてるな!」
リュウ迄が見とれている。
「リュウ!」
ユリアもたしなめる。
若い娘の姿がシャワールームから消えた。
「ほら、やっぱり恥ずかしいのよ」
モモコが言ったとき、若い娘の姿がガラスの階段を降りてくるのが見えた。
それもシャワーを浴びていたときのままのぬれた姿で。
「!」
「?」
「えっ?」
「れっ?」
みんなが立ち止まって見ていると、その娘はガラスのドアを開けていた。
「こんにちわ!あなたたちね? グラトニトルを見物に来たっていう“訪問者”は?」
オレンジの髪の何ひとつ身にまとわない真っ裸の娘がにっこり笑ってあいさつをした。
5分後、ユリアたちは、その若いヤドリレイ人の娘の家の応接室にいた。
その娘はチルリと名乗った。そして青白いオーラを放っていた!
「この街にヤドリレイ人以外の訪問者って、本当に久しぶりでしょ?だからお話をしてみたかったの!」
それぞれの紹介が終わったあとで、おしゃれなグラスにはいった、甘くておいしい― 原料はわからないが― ジュースを勧めながら、チルリがいかにもうれしそうに話す。
「チルリさんって、最高級階級のパラスピリトでしょう? 私たちは、街では一人も見かけなかったんですけど?」
「チルリさんなんて呼ばないで。チルリだけでいいわ!」
そこで彼女は話しはじめた。
パラスピリトたちが、好んでヤドリレイ人に寄生するのは、容姿が美しく、手が器用だからだそうだ。
まあ、人族というのは、どこの世界でも手先が器用な種族ということで有名なのだが。
グラトニトルの町は、そのほかのヤドリレイ人の町の多くがそうであるように、三つの区画に分かれているそうだ。第一区画は、最下級のヤドリレイ人が住む区画で、もっとも人口比率も多く、彼らの多くはさまざまな生産に携わっているらしい。
第二区画には、中間階級であるアーチストたちや専門職、特殊技能をもつヤドリレイ人たちが住み、その比率はグラトニトル住民の2割程度。そして第三区画に住んでいるのが、最高階級の管理者たちとその家族たちで、住民の1割にも満たないそうだ。
「このあたりは、第三区域と第二区域の境界線なのよ。だから、誰でも自由に行動できるし、歩けるの」
「ええっ?でも、チルリは最高階級のパラスピリトなのに、どうしてこの区画に住んでいるの?」
「それは、ここが面白いからよ!」
「えっ?面白い?」
「なにが面白いの?」
「ハダカを訪問者に見られることが?」
ゴチン!
「イテっ!」
「それは、ここでは庶民の生活が見れるからって妹は言うんですよ」
突然、反対側から声が聞こえたので、ふりむくと若い娘がいた。
青白いオーラを放っている、パープル色の美しい髪の娘だ。
「あら、お姉さん。やっぱり気になった?」
「はじめまして。チルリの姉のミルリです」
「あ、はじめまして。ユリアです...」
「アイです。よろしく...」
「紹介はけっこうよ。先ほどからみんなの会話を聴いていましたから...」
「あ、そうですか...」
「ごめんなさい。誤解をしないように言っておくけど、私とチルリは姉妹だからすべて共有できるの」
「そうよ、決して盗み聞ぎじゃないのよ!」
チルリも姉を弁護する。
「それにしても、お風呂からハダカで誘うなんて、チルリ、あなたらしいわね?」




