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その瞳が映す景色に、  作者:
そのあと
35/40

幸せに溺れる

本編のしばらくあと、スイとライの初夜のお話です。


 まだ夜が明けきらない、薄い暗闇の中。

 浅い眠りから目覚めたスイはつい数時間前の出来事に思いを馳せていた。


 スイの剥き出しの腕の中では、生まれたままの姿をしたライがぐっすりと眠っている。腕に感じる重みが、心地よかった。

 

 宝石みたいな青い瞳はしっかりと閉じられていて、ライが起きる気配は全く無い。そんなライをシーツごと強く抱き締めてスイは小さく苦笑した。


 ――初めてだったのに、無茶をさせたな。

 分かってはいたけれど、まるで我慢できなかった。初めて重ねたライの肌を、スイは貪るように求めた。


『……スイ、……スイ…!』


 必死にスイの名を呼ぶライが可愛くて愛しくて、とても止まらなかった。スイを受け止めようと苦しそうな表情も、溢れでる甘い声もスイをこれでもかと言うほど煽って、何度も欲望をぶつけてしまった。


 これで正真正銘、ライの身も心もスイだけのものだ。そう思ったら堪らなくて、やっと迎えた念願の日を前にして自制できる男がいるのなら会ってみたい。スイは小さなライの顔に唇を落とす。


 ――それにしても、綺麗だったな。


 ふたりの結婚式が執り行われたのは数時間前。お互いの家の列席者に加えて、青の一族の血を引くライとスイの姿を一目見ようと押し寄せた野次馬や記者たちで式場辺りは混乱を極めた。規制の為に軍も投入されて、帝族さながらの大騒動だった。


 何も特別なことなどないだろうに、そう思うのに世間ではどうやらライとスイは注目の的らしい。雑誌や新聞で大きく取り上げられて、日にちや時間など全く公開していなかったにも関わらず集まった人たちはもの凄い数だったという。

 

 そんな中、満開の桜が咲き誇る下でスイとライは結婚の誓いを立てた。


「――それでは、誓いのキスを」


 真っ白なドレスに合わせて繊細に編まれたヴェールを、スイはそっと上げる。隠されていたライの顔が見えた時、あまりの美しさにスイは言葉が出なかった。


 ――本当に、綺麗だった。

 恥ずかしそうに頬を赤く染めて見上げるライに、目が眩んだ。ただでさえ整った容姿は更に洗練されていて、まるで女神のようだった。そんなライが今日から自分の妻になる――。


 重なった唇は、永遠の味がした。


 無事に式が終わり、ふたりきりの部屋。

 外はもうすっかり夜になっていて、これから迎える初夜に緊張しているのか、それとも大勢の招待客の相手をした疲れが出ているのか。スイの鼓動は隣に寄り添って座るライに聞こえてしまうのではと思うほど激しく鳴り響いていた。


「ライ、疲れただろ?」

「……うん、少し」


 お互いに揃いの薄い寝衣を着て、レースの天幕がついた大きな寝台に座っていた。淡い灯りだけが揺れていた。このあと訪れるであろう、幸福すぎる現実にスイの胸は張り裂けそうだった。


「ライ、本当に綺麗だった。俺の為に綺麗にしてくれたと思ったら、やばかった。誰にも見せたくないくらいに」


 言いながらライの腰を更に引き寄せれば、体に少し力が入るのが分かった。


「……でも、後悔、してないか?」


 ライはずっと、誰とも結婚しないと決めてきたのに今日こうしてスイと正式に夫婦になってしまって。かといって離してやることは出来そうにないけれど――。魔力が無くなったとはいえ、ライの意志に反してしまったのではないか。


「どうして? スイと生きていくって決めたのは、私だよ」


 ライがスイの手に自分の手を重ねて、はっきりと呟く。ライの掌は温かくて柔らかかった。


「……今日から、ずっと一緒に居られるなんて夢みたい」


 そう言ってスイを見つめて微笑むライに、スイの理性は振り切れた。ライの手を取って絡めて、寝台の上に優しく押し倒す。少し伸びた銀髪がふわりと白いシーツに広がった。


「……スイ」

「…優しく、するから」


 潤んだ瞳で見上げるライの唇に自分のそれを重ねる。どんどんと深くなっていくキスで、ライの花のような香りがスイを埋め尽くした。


「……スイ、」

「……っ、……ライ…!」


 待ち侘びた温もりに、重ねた肌の柔らかさに、スイの興奮は収まらなかった。理性なんてぶっ飛んで、歯止めが効かなかった。


 半ば気絶するように眠ってしまったライに若干の罪悪感が掠めるけれど、ライが可愛すぎるのだから仕方がない。


「……ん、」


 ライが僅かに身じろぎをして、長い睫毛が震える。ゆっくりと開かれた瞳には、スイだけが映っていた。


「ライ、起きたか?」

「……スイ……」


 ライの細くて白い腕がスイの首に巻き付く。再び香ったライの匂いに、スイの体はまた熱くなった。


「……もう、朝?」


 気怠げな少し掠れたライの声に、また昨夜の温もりが蘇る。こんな声も、自分しか知らないのだと思ったら堪らない。

 

「まだだよ。もう少し、寝るか?」

「……ん」


 ライが甘えるようにスイの胸に擦り寄る。スイの理性を試しているのだろうか。込み上げる熱いものをなんとか堪えて、再び瞳を閉じたライの額にキスをした。


「……ライ、体は? 大丈夫か?」

「……っ、え、あ、」


 ライが慌てて目を開き、顔を真っ赤に染める。


「ごめん、我慢できなくて。無理、させただろ?」


 耳まで真っ赤にさせてスイを見上げるライに、小さく笑った。


「でも、ライが可愛いからいけない」

「……っ、」

「ほらまた、そういう表情(かお)するから我慢できなくなる」


 また潤み始めたライの瞳に、スイの理性はまた激しく揺さぶられる。

 

「……スイ」

「うん?」


 ライが真っ赤な顔を隠すようにスイの胸に押し当てて、小さく呟いた。

 

「……私、今、すっごく幸せ」


 もう、だめだ。我慢できない。

 なによりも愛しい人を腕に抱いて、これほど嬉しい言葉があるだろうか。


「……俺も。でも、もっともっと幸せにするから。一生、大切にする」


 今までみたいな、ひとりぼっちになんて、辛く寂しい思いなんて、絶対にさせない。だから。


「…もう一回、したい」

「……え」


 ライが目を丸くしてスイを見つめる。これからずっと、ライの一番近くで色々な表情を見ることができるなんて、これ以上の幸せがあるだろうか。幸福すぎて、溺れそうだ。


「だって、ライが煽るから」


 そんなこと――、と続きかけた言葉を唇で遮って、スイはライを包んでいたシーツを捲った。


「ライ、愛してるよ」

 

 溺れきったふたりの夜はまだ、明けない。

読んで頂き、ありがとうございました。

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