ひとりぼっちよりも複数人いる方がぼっち感は強い
ああーーー私の半身よ、愛しい神よ、我が夫であり闇の支配者、夜の囚人よ。
貴方を捕らえているものは天の母神、地の父神ではないのでしょう。夜の枷でもはないのならそれは私でございましょう。
ああーーー愛しい愛しい我が半身、我が想い人、光の統治者、昼が封じた哀れな我が妻。
私がお前の中に在っても、お前が私の中にいても私は永劫満たされぬ。
どうか我が傍へ……それが叶わぬならば、枷を朽ち私がお前の傍へ。
例え、それが、我らの交わりの厄災とならんとも。
一瞬、その譫言にジェイドの事が頭に浮かんだ。
いや、そんなわけはない。だって、彼は……
「…う……」
美人さんを介抱する手に思わず力が入っていたらしい、瞼がピクリと動く。
『とりあえず死に倒れじゃなかったみたいね』
私の動揺とは裏腹に失礼さが平常運転のネフラがもふもふと私の頭の上へと戻ってきた。
「黙れ、綿毛(そーね。ありがとう)」
『ちょっと‼︎本音と建前が逆になってるわよ‼︎』
ネフラはもふもふ、ふわふわと飛び跳ねて抗議するが、力を使ったせいでその体は羽毛のように軽く柔らかであまり意味がない。むしろ、温かくて気持ちいいくらいだから、全然ダメージなし。
「はいはい、ごめん、ごめん。……ねえ、あなた大丈夫?」
「何⁉︎その適当な謝罪。誰のおかげで回復魔法を使えると思ってんの」
ネフラがキーキーと騒ぐ、物理的ダメージはないけど耳元に近いので流石に煩い。丸めたら静かになるかなぁ。
若干物騒な事を考えつつ行き倒れ美人に再び目を向けると、再び瞼が動いているのがみて取れた。
「…ここ…は?」
回復魔法と煩さが功を奏したらしい、完全に目を覚ましたようだった。
「やったね。ネフラ、お手柄じゃん。丸めなくてよかったわ」
「あんた、そんなとんでもないこと考えてたの⁉︎冗談は脳みそだけにしてっ」
「ひどっ」
「どっちが酷いのよ。この、ノーコン馬鹿娘が‼︎」
「あ……あの……」
私の言葉にネフラがさっきよりもキーキーと騒ぐ、私も酷いがネフラも十分に酷くない?
言い返す言葉を探しているとか細い声が聞こえた。
我に返ってそちらに顔をむけると困惑した表情の美人さんがこちらを見ていた。
若干、いや大分か。関わりたくないなぁという表情にも思えなくないが、そこは目を瞑っておこう。
だって、得体の知れないおかま言葉のもふもふと喧嘩する女なんて私だって関わりたくないもん。
* * * *
「本当に、助けていただいて。ありがとうございます」
ほかほかのココアを前に金髪美人がペコリと頭を下げている。
あのあと、私たちは彼女を金の桜桃亭に運んで介抱していた。
回復魔法もあってか、わりとすぐに元気を取り戻したので話を聞いているところ。
それにしても……この子、美人さんねぇ。
流れるようなさらさらの髪の毛、伏せ目がちの瞳からは長い睫毛がのぞいている。先程倒れた時には白くなっていた肌は、暖かな部屋によりうっすらと赤みがさしてより艶やかな表情になっていた。
例えるなら、この子は柔らかな春の日差し、光の女神みたいなーー。
「えっと、あの」
はっ、いけない。ついマジマジと見入っちゃった。
「で、あんた。水の神殿の巫女さんだっけ?(もふもふもふもふ)」
え、なんで私に代って何ネフラが普通に問いかけてんの。しかも、何故か抱っこされてる。
美人さんも真顔で答えながらも、めっちゃくちゃモフッてるよ。
え、なにこれ?これ、なに?
「はい。(もふっ)ラピスラズリ・ブルー・ベリルと申します。このたびは助けていただいて本当にありがとうございます(もふもふもふ)」
「そんなに固くならなくてもいいわよ。まあ、感謝は存分にしてもいいわよぉ。あ、撫でるならもう少し下のあたり。そうそう(もふもふもふ)」
「あ、この耳の横ですね(もふもふ)旅の途中、急ぐあまりに無理がたたったみたいで」
うん、よくこの綿毛の耳の位置分かったね……っていやいやいや。
感謝ってあんたら、助けたの私だからね。
見つけたのはネフラかもしれないけど、死に倒れ扱いだったからね。
そういいたいが、なんか会話に入りづらい。
実はさっきからネフラとラピスさんは話が弾んでるけど、私は相槌うちながらココアしか飲んでない。これ2杯目だよ。お腹たぽたぽになるよ、なんなのこの空気。
うう、すっかり、場の雰囲気にのまれてるけど、私が助けたんだし、ネフラの主人(召喚者)は私なんだしここはビシッと話を聞こう。
「で、あの……」
「『旅の途中をいそぐ』ってことは、祭りを観に来た訳じゃなさそうねぇ。なにか訳ありなのかしらぁ?」
ネフラがナチュラルにわたしを遮る。くっ、負けるもんか。
「その……」
「はい。実は、私は人を探していまして、この街に寄ったのも彼によく似た人物をこの街で見かけたという噂を聞いて……」
「なるほどね」
「……」
……喋ろうとしたが二人、いや一人と一匹はしっかり会話をしており私の入る隙はなかった。
ウワア、サミシイナ(棒)……いや、まじでよ。
美人とモフカマの会話に混ぜて貰えないのって、普通のぼっちよりぼっち感が半端ないんだもん。
ふと気づくと遠い目をする私の様子に、オネェ様が一人話しかけてくれた。なんだか、ものすごく哀れまれてる気がする。
「あー、ええと、ヒスイちゃんはこっちで私達とお話しする?」
チラリとオネェ様方の方を見れば、何やら白熱してる模様。
「だからね。髭剃りは剃り跡残るのヨォ。やっぱり、毛抜きがオススメよ」
「あんたねぇ。埋没根になったらどうすんのよ。炎症があとになったらヤバイわよぉ」
……うん、うら若き乙女としてあの会話に入るのはさらに無理。
「……もう(いろんな意味でどうでも)いいので、ココアおかわりください」
かくして、私は3杯目のココアを飲んだのだった。