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金色の髪の乙女

おバカさんって誰かって?

一人を指したわけではないの。この国、いえ、この世界と言った方がいいかしら。

この世界はまだまだ不安定でね。

邪神の力を取り込み魔王と呼ばれし者が治める国。

勇者を庇護しその力に頼ってきた王国。

神を讃えることで結束する宗教国家。

そしてどれにも属さない数多の小国で構成されているわ。

国が分かれ、それぞれにそれぞれの特徴がある。


けれども、それが許せないお馬鹿さん達もいるの。

この世界を作った天と地こそが本物の神であり、それを祀る自分達こそが世界を治めるべき……ってね。奴らは自分達を「聖なる信徒」と名乗り教団を作り上げたの。

でもねぇ。他人を認めない者が一つの組織をまとめあげるなんて土台無理な話なのよ。

え?じゃあ。なんで、そんな教団が潰れないかって?


そこが、嫌な話でね……彼らは信徒をまとめるために……あら?

何かしら、ちょっと、外が騒がしいわね。

見てくるから、まっててね♡

金の桜桃亭に行けばなんとかなる……そう考えてた時期が私にもありました……。


「アンさん、出かけてるの⁉︎」


そう聞き返す私の顔は、きっと間抜けだったと思う。だって、全く想定してない事態だったんだもん。


「そうなの。ママったら『招集かかったから一狩り行ってくるわ♡お店、お願いねぇ♡』ってふらっと出て行っちゃったのよぉ」


金の桜桃亭のバーカウンター。

アンさんを訪ねた私にお店のオネェ様の一人が教えてくれた。


「まあ、ママのことだからレッドドラゴンだろうが混沌の神だろうがこんがり焼いてくるでしょ」


「甘いわねぇ。ママだったら、お土産に持って帰ってくれるわよぉ。」


きゃいきゃいっ話すオネェ様方……ってか、招集って何さ⁉︎ 一狩りがいちご狩りみたいなノリになってない?

彼女(?)達のアンさん評に色々とツッコミたいとこだけど、それそよりなにより乙女の大問題(トイレ修理)どーなんの?


ツッコミを入れるのは頭の中だけにして、カウンター中に立っているオネェ様の一人に尋ねる。


「あ、あの。アンさん、いつ頃戻りそうですか?」


せめて早く戻ってきてくれればと祈るような気持ちで彼女を見つめると、少し困ったような声で答えてくれた。


「うーん。なんとも言えないわねぇ」


少し確認してくるわ、と席を外す彼女の後ろ姿を祈るような気持ちで見送る。

せめて、2、3時間で戻ってきて欲しい。

SS級モンスターだろうが神話級モンスターだろうが、アンさんならできるって事で一つ。


自分でもめちゃくちゃな事を言っているとは思うが、これは私の乙女心のためなのだ。

多少の言い過ぎは神もアンさんも許してくれるだろう。


店の奥では、先程のオネェ様方が多少野太い声でキャッキャとはしゃいでいるのが再び耳に入った。


「今年の『星まつり』には王都からも人が来るらしいわぁ♪」


「あらん♡ベナとマカの結婚式もあるし、今年は賑やかね」


『お祭りでアタシのモフみを見初められて、そのまま王都へ……なんて』


キャー♡と野太い歓声が上がる。

みんなはしゃいでるなぁ……ってか、最後の声、ネフラじゃん。

いつのまにかいないと思ったら、違和感なくオネェ様方に混じってるよ。

ま、まあ、本人が楽しそうならいいか。いいのか?



ちなみに「星まつり」は、この国全土で行われる大きなお祭り。


流星群が地上に降り注ぎ、大きく澄んだ湖には、それが鏡のように映って見える。この光と闇の共演は闇の男神と光の女神の結婚を「天」と「地」の神が認めた印だとされこの日を祭りとするようになった。

確か、混沌の神が二神を説得したとかなんとかだった気が……よく覚えてないけど。


それで、うちの国では結婚式はこの星まつり行われるの。

また、闇と光が出会ったのになぞらえて、出会いの日とも言われる。この日に出会った二人は永遠に結ばれるんだって。


あ、あと、ついでに私の誕生日なんだよね。

聖女が忙しい時期だから、祝われるのは大体、次の日だけど。師匠は申し訳なさそうだけど、私はあんまり気にしてない。

だって2日連続でご馳走が食べられるんだよ。

むしろラッキーじゃん。

それに、3年前からはジェイドが、一番におめでとうと言ってくれる。

だから別に気にしてはいないんだ。

それにもっと前、子供の頃は…… そんな事を考えているとアンさんの帰還を調べてくれていたオネェ様が戻ってきた。



* * * * * * *



軽快なベルの音がカラコロと鳴る。それとは、正反対の私の表情。


「……」


『……やっぱり、便秘が原因ってことでいいんじゃない?』


「やだよっ‼︎」


私は、面倒そうなネフラの提案を即座に却下した。


あのあと、戻ってきたオネェ様に「夕方には戻ると思うわ。また後できてちょうだいね♡」と言われてしまったのだ。


魔物捕獲(バイト)代を先払いにしてもらって修理を優先としても微妙な時間になる。


『だって、時間がかかりすぎるわよ。いくら、最近のボーッとした……じゃない、物憂げなジェイドちゃんでも、トイレがあそこまでオープンになってたら気づくでしょお』


「う……。じゃ、じゃあさ。なんとか理由つけてごまかそうよ。あ、外にポイズンビーがいたから思わず魔法弾撃っちゃったとか?」


『あんた、今の季節なんだと思ってんのよ。冬よ、冬。昆虫系のモンスター、ましてや蜂がいるわけないでしょ』


ネフラのポフポフとした感触を頭上に感じながらさらに考える。


「じゃあ、じゃあ、グレイグリズリー(熊)がいたってことに」


『大ごとになるでしょ‼︎』


呆れたようなネフラの声が頭上から飛んできた。


ですよね〜、うん、モンスターに限らず熊が冬にでたら大変だわ。

熊関連で嘘ついて迷惑をかけちゃいけない。熊も人も大混乱するからね。ダメ、絶対‼︎



とりあえず、反省。あー、でも、どうしよう。

いつものごとく考えても考えてもいいアイディアは浮かんでこない。

だからと言って、ジェイドの前で恥はかきたくない。自分でも上手く言えないんだけど、何故か最近、彼にみっともないとこを見せたくないのだ。


あれかな、私も、もうすぐ16歳だし大人の自覚がでてきたのかな?

うん、きっと、そうだよね。考えるの面倒だし、そういうことにしよう。


『はぁ……その思考の時点であんたは、まだまだおこちゃまよ』


私の思考を読んだらしいネフラがするりと肩に降りてきて軽いため息をつく。


むー、何よ、そのさっきより更にも呆れた様子は。

雑巾と一緒に干してやろうか……とも思ったが、ここは一人で考えるよりも少しでもいい案が欲しい。


「ちょっと、人の思考を読んでおいて失礼じゃない。余計なこと言ってないで、ネフラもなんか考えてよ」


私の言葉にネフラがぐるりと体をよじる。どうやら知恵を絞ってくれるらしい。


「雑巾っぽい」と思ったが、言えば気分を悪くするだろうから私の心に留めておいた。


『あんたは、あんたで失礼な事考えてそうねぇ?まあ、いいわ。とりあえず①便秘が暴発②正直にぶっちゃける③そこにいる生き倒れを助けてから考える』


「全然、考えてないじゃん‼︎モフカマを頼った私がバカだったわー……って③⁉︎」


『ちょっと誰がモフカ……「そんなことより行き倒れって何っ⁉︎」


ネフラの言葉を遮ってキョロキョロと周囲を見渡す。

下らないノリツッコミでさらっと流すもんじゃないじゃん。くだらないコントしてるうちに生き倒れが死に倒れになったらシャレじゃ済まない。


『ここよ、ここ』


いつのまに私から離れたのかネフラが道の端にある木の傍にいた。

草の陰から見える白い手が、そこに人がいるのを示している。

慌てて駆け寄り、その脈をとれば正常に動いていた。



「ねぇ、大丈夫?」


「……ド……」


生きがあることにホッとする。しかし、声をかけてみても返答と言える言葉はなく、その血の気の引いた唇からうわ言が漏れるだけだった。


「怪我をしてる様子や病気って感じはしないけど。ネフラ、お願い」


私は、目を覚まさないその人物の胸に手を当てた。

息をととのえ魔力を集中させる。


『ふぅ。最近、天気も良くないから力も溜まってないんだけどねぇ』


そう言いながらも、ネフラは私の頭上に乗ってきた。なんだかんだいって、眷属としての仕事はきっちりこなしてくれる。


ふわりと体を浮かせたネフラの体内から滲み出す淡い光。手をかざせば、途端に、私の魔力が体を巡っていくのが感じられた。


 魔導操作。

 眷属や魔法道具を介して魔力をコントロールする技。私は魔力を上手く操作できないがネフラが私の媒介となることで一部の魔法の操作が可能となる。


 「回復魔法(ヒール)


 回復魔法(ヒール) は読んで字のごとく、回復魔法。魔力を送り込んだ相手を内側から癒していく。

他の魔法(主に攻撃魔法)には寛容な(というか呆れている気もするけど)お師匠様が、これだけは、失敗しないようにと拷問に近いスパルタで教えてくれた。……いや、スパルタに近い拷問だ、あれは。


唱えた呪文により、私の魔力がさらに細かい光の粒となって行き倒れさんの体を包み込んでいく。

ワンピースのような白い導着、傍に転がる杖。おそらくどこかの魔導師や修道士だろう。

まだ若いみたい。年は、私とおなじくらいかな


それにしても、この人よく見ると……。


陶器のような肌に長いプラチナなブロンドの金髪、さくらんぼ色の唇。


うぉぉおっ、なんか、すっごい美人さんじゃない⁉︎

私も可愛い方だとは思うけど、なんから違うの。

綺麗な顔立ちって、こういう顔のこと言うんだと思う。


多分、普通に会ってたら金色妖精かなんかと間違えそうだわ。あ、金色妖精とて光の妖精のことね。


呪文を唱え終わり、その美人をマジマジと見つめていると、瞼が震え、唇が動く。


「彼……彼は……」


「彼?誰のこと?」


まだ本調子ではないのだろう。意識を朦朧とさせたまま美人が再び口を開いた。


「あ、藍色の髪……銀の瞳……」


その言葉に、とてもよく見知った彼の姿が頭に浮かぶ。

 私の心臓がドキリと跳ねた気がした。






お読みいただきありがとうございます。

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また、こちらは「あったかもふゆ企画」の参加者作品です。

ぜひ、参加者の皆さまの素敵作品をご覧いただければとおもいます。

参加作品は活動報告またはあらすじをご覧下さい。


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