乙女の大問題
ごめんなさいね〜、ちょっと席外しちゃって。
ちょっとお花を摘みにね♡
え?顎まわりと口周りの化粧が急に濃くなった?
まぁ、失礼ねぇ……あ、お客さん、「ヒ」の次の言葉言ったら切り落とすわ。うん、冗談、冗談。今の言葉の十割冗談よぉ♡
あら、話を変えて魔法について聞きたいの?
まずこの国、というか世界の魔法についてね。
魔力については4つの段階に分けられるわ。
まずは魔力を全く持たない4層と言われる人々、そして若干の魔法が使える第3層。まあ、第3層は生活魔法が使える程度ね。大半の人間がこの第4層、または3層に属するわ。
その上に第2層。この辺りになると自分の属性である魔法を使える人間ね。いわゆる魔法使い、魔導師、聖女がこれにあたるわ。
第2層は幅が広くて、第3層に近い者もいれば強大な魔力を使える者もいるわ。私の知り合いだと魔力があるのに操れない子もいるわねぇ。
あ、遠い目してた?ごめんなさいね。
それ以上になると第1層と言われる一人で戦争起こせるレベルの魔力持ちになるわ。
ま、そんな力になるともう神に近いレベルよね。
勇者か魔王かいるかいないかよ。
ただ、どこにでもお馬鹿はいるみたいでね……。
もふもふ。
『うふふふん♡』
もふっもふっ。
『どぉ♡あたしの毛・並・み♡』
もふもふもふもふ……
『あん♡そんなとこまで♡』
うるさい。
どこよ、そんなとこって。
あんた全身綿毛じゃん。なんなら、綿毛そのものじゃん。
最近、ネフラがうるさい……じゃなくて、ジェイドの様子がおかしい。
この前の「干しネフラふわもこ事件」の時以来なんか変なの。
今までなら、周りを気にしながらモフみを堪能してたはずなのに、なんかずーっと真顔でネフラをもふってて一向にやめる気配がない。
あれかなぁ。あのあとアンさんに捕まって「イケメンく〜ん♡」とか言われながら触られまくったのがショックだったのかな?
はっ‼︎それとも、ネフラのふわもこを堪能しすぎて癖になったとか?あの毛、なんかヤバそうな中毒性ありそうだし。
あー……けど、なんかその前に用事かなんかから帰ってきた時から思いつめた顔してたよね。
それに、ネフラをモフるジェイドの様子。
モフみを堪能してるというより何か気を紛らわすためにやってるような……。
ゔー、考えても考えても原因がさっぱり分かんない。
扉の隙間からジェイドの様子を伺いながら考える。
こんな時はどうすればいいんだろう?
あ、そういえば師匠やアンさんがよく言ってたっけ。
「ヒスイ。問題が起こった時はまずは物事を見つめなさい。破壊行為は最終手段です。借金をこれ以上増やさないように」
「何かあったらまずは目の前の問題からよん♡ぶち壊すのは最後でいいのよ♡」
うん、目の前の問題かぁ。
……二人の言葉を思い出しながら、私は目の前にあるトイレの扉を見つめた。
……あたし、今、トイレの中なのよね。
出れない……。色んな意味で出ないんじゃないの、出れないの。
だって、普通に出たら、この前の二の前になるじゃん‼︎
それでなくても、ジェイドの様子おかしいのに、気まずくなるとかやだよー。
かと言って、このままここにずっといるのも乙女としてどうよ。
(ねぇ、ネフラ。ジェイドをなんとか引き剥がせない?)
ネフラの脳内に直接話しかけてみる。
こういう時って眷属って便利だってしみじみ感じるわ。
『んもぉ、なによぉ。アタシとジェイドちゃんのランデブー♡をじゃまするつもりぃ。やーね、女の嫉妬って』
こいつ……。
眷属のくせに……。
(邪魔とか言ってないで、無理やり引き剥がすとかしてよ。アンタ、私の眷属でしょ)
『それが、なぜか、無理なのよね。ジェイドちゃんの魔力って闇属性なのに気持ちよくってぇ。いい男には逆らえない女の性かしら♡』
(アンタ、雌雄同体だから性別ないじゃん)
心の内で毒づくはずの言葉が思わず脳内にポロっとこぼれた。
それを聞いたネフラのキィキィ甲高い声が脳内に響く。
『なんですってぇ。フン。まぁ、いいわ。とにかく、ジェイドちゃんから離れるのは今は無理よ。あんたが中々、そこから出てこないのは便秘が解消してる最中って説明するから安心なさい』
(そっかぁ。ジェイドは紳士だし、それなら追求しないよねー……って、ふざけんなっ。それ、私が死ぬほど恥ずかしいヤツじゃん)
もういい。
ネフラには頼まない。
自分でなんとかする。ついでに、あとで雑巾と一緒に干してやる。
とりあえず、目の前の問題から……と。
確か、最終手段なら破壊してもいいって師匠もアンさんも言ってたよね。ニュアンス違う気もするけど、言ってたも同然だよね。
……言ってないって師匠の悲鳴(幻聴)聞こえる気もするけどキニシナイ、キニシナイ。
(どうか失敗しませんように)
扉から離れた私は、トイレの上部、明かりとり用の窓に狙いをつけた。
* * * *
『ちょっとぉ、ふざけんじゃないわよ。せっかくジェイドちゃんとイチャイチャしてたのにぃ』
「うっさい。元はと言えば、ネフラがジェイドから離れれば良かっただけじゃん」
人の腕の中でキィキィ騒ぐネフラを怒鳴りつける。
『だいたいなんなのよ。そこそこ爆音が聞こえたわよ。そんなに頑固に溜まってたのかしら?』
「んなわけないでしょ‼︎」
あのあと、私は窓に向かって光の玉を投げつけた。これは威力の弱い小さな光玉で上手くいけば、窓にはめ込まれた木の格子だけを外してくれるはずだったんだけど……。
『冗談よ。けど、あの窓どうすんのよ。もう窓というよりドアぐらいになってたじゃない』
あう
「う……」
『あれをみたらアンタがトイレにいたのなんて一目瞭然よ』
「ゔぅ……」
そう、格子に当てて外すだけのはずが何故か窓ごと壊れた。というか、壁が壊れた。
頭上にあった窓。それが、私が悠々と外に出れるくらいに大きくなったんだよね。
まあ、なんということでしょう!トイレが、一気に明るく、風通しよく‼︎
おかしいな?目の前の問題を解決したはずなのに、問題が増えている。
これは、あれだよね。俗に言う、妖◯の仕業……。
『アンタの仕業よ‼︎』
あうっ。ネフラに心を読まれた上に怒られた。
ゔー、そうだよね。今回は間違いなく私がやったことだもんね。
正論を人外に問われたら私でも流石にちょっとおちこむ。
そんな珍しく凹んでる私を見て、流石に哀れに思ったのか、これまた珍しくネフラが助言をくれた。
『まー、アタシが急にいなくなったって事は、あんたが召喚したって事だし、家よりは外にいると思ってんじゃない?気づかれる前に直すか、言い訳考えりゃワンチャンあるわ』
ネフラの顔にパッと顔を上げた。自分でも顔が明るくなるのが分かる。
この毛玉、たまにはいい事言うわ。
「だよね、だよね。じゃあ、早速アンさんとこ行こう。お金足りなかったら魔物捕獲でなんとかなるよね」
『あんた。ちゃんと反省なさいよ……』
魔物捕獲。読んで字のごとく魔物を捕まえてくるアルバイト。
魔物退治は街に入ってくる魔物や放置してたらヤバイのを退治するお仕事で、師匠には入るけど、私には一銭も入ってこない。
魔物捕獲は、森や湖にでる指定された魔物を取っ捕まえてくるお仕事なんだ。
これ、かなりのお小遣になるの。私の場合、破壊したものの弁償やらなんやらでほとんど手元に残らない事も多いんだけどね。
ちなみに、魔物退治は金の桜桃亭で斡旋してる。ついでに、家の修理なんかも請け負ってくれてるから、アルバイトとトイレの修理を一気に頼める。
あの店、そう考えると何屋なんだろ。
アンさんは「乙女の尊厳は脅やかされちゃだめなの‼︎」とやたら力説してるから今回は、多少同情してくれそうな気がする。
ただ、私の乙女の尊厳とやらがトイレ問題なのは情けない気もするけど。
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