4-3-2 俺は栗栖に隅々まで測られる
あれから数週間経った。
6月も下旬になった。
梅雨も峠を過ぎたが未だ毎日雨が降る。
「はあ」
俺は今日も今日とてびしょ濡れでの登校である。
「おはよ。伊良湖、たまには電車で来なよ」
バイクを止めた瞬間栗栖があいさつもそこそこに無理難題を吹っかけてくる。
「どっちにしろ駅まで行くにはバイク以外の手段がない。
ならいっそここまで走って濡れちまったほうが後々すっきりする」
「何それ」
栗栖が俺の返しにけらけらと笑う。
「早く」
「少し待て」
栗栖が急かしてくる。
レインウェアを脱ぐのは意外と手間取るんだ。
わかってくれ。
「もう待てない」
俺がレインウェアを脱いだ瞬間栗栖が後ろから抱き着いてくる。
「離れろ。全身濡れてるから栗栖も濡れるぞ」
今日はレインウェアを着てても意味を成さないほどの雨が降っている。
そのため俺は全身が濡れている。
「いいよ。アタシも一緒に濡れる」
「馬鹿言うな。風邪ひくぞ」
俺の諭す言葉に栗栖は構わないというようにさらにぎゅっとしてくる。
「風邪を引いてもいいし。
もしアタシが風邪引いて学校休んだら看病に来てね。
逆に伊良湖が風邪引いたら看病しに行くから。」
栗栖がそんなことを言うので
「別に来なくていいよ。あと俺が看病に来ても何もできないぞ」
と返す。
だが栗栖は
「嫌、絶対何があっても行く。それと一緒にいてくれるだけでいいよ」
と俺に言う。
「いやいや」
「いやいや」
お互いにそんなことを言いながら俺はヘルメットとレインウェアをバイクに掛ける。
すると栗栖はそれに合わせて抱き着くのをやめ、俺の手をとる。
「ほら」
「ああ」
そして短い間の栗栖との登校をする。
「栗栖」
「いや」
教室の前で手を放そうとするが栗栖が嫌がる。
なので一緒に教室に入る。
俺と栗栖が教室に入った瞬間
キーンコーンカーンコーン
とウェストミンスターの鐘が鳴る。
その音に合わせて俺と栗栖は短く言葉を交わし手を離して各々の席に座る。
栗栖の要望で最近はこういう感じで駐輪場から教室まで行っている。
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2NaHCO3→Na2CO3+H2O+CO2
「と、炭酸水素ナトリウムが加熱によって分解されCO2を出すことを利用してクッキーなどのふくらし粉に使われる」
今日も淡々と授業を受け、放課後。
「衣装どうする?」
「こんなのどう?」
今日も今日とて文化祭の話し合いである。
レイアウトや予算等は今日までに全部決まっており、最後決まっていなかった衣装について今日話し合っている。
「・・・・・・・・制服でいいだろ」
着る当人である俺の意見はガン無視して話はどんどん進んでいく。
「でもねぇ、着るのが」
「・・・・・・・・待って」
一人の女子が俺に近づいてくる。
そして俺の前に来ると俺の髪を触ろうとする。
俺がそれを避けると
「大人しくして」
と言う。
「待って。アタシに任せて」
知らない女子の手をしばらく避けていたら栗栖が近づいてくる。
「どういう風にしてほしいの?」
「えっと」
知らない女子が栗栖に耳打ちをする。
「ん、わかった」
栗栖が頷き俺に近づいてくる。
「伊良湖、少しじっとしててね」
イタズラっ子めいた顔で栗栖は俺に近づき・・・・・・・・
「おお~」
髪を栗栖に散々いじられた俺を見てクラスの連中が感心するような声を出す。
「意外にイケてるわね」
「ていうか結構・・・・・・・」
クラスの女子たちが俺の姿を見て感想を口々に言う。
今までキモッとか言ってたやつもだ。
「伊良湖に手を出しちゃダメ。アタシのだから」
クラスの女子の感想に俺は自分のものというようなことを言う。
俺は誰のものでもないぞ。
「大丈夫、あんたの彼氏に手は出さないから」
「よかった。で、これならイケてるでしょ?」
「そうだね、これならこの服も」
結局俺の意見は無視された状態で当日の衣装が決まる。
「そ・れ・じゃ・あー衣装のデザインの概要が決まったところで採寸を」
「それもアタシがやるから」
栗栖がメジャーを採寸しようとした女子から受け取り
「採寸やるなら保健室かな?保健室いこっか」
と言うので俺はうなづきついていく。
「お邪魔しまーす。そしてベッド一つ借りまーす」
栗栖が誰もいない保健室にそう断って入るので俺もその後ろについて入る。
「今まで身体に触れたことがなかったからわからなかったけど伊良湖って結構筋肉あるんだね」
ベッドの一つを勝手にだが借りて俺が服を脱いだ瞬間から栗栖が俺の身体をベタベタ触る。
「早く採寸してくれ。いつまでもこれは恥ずかしい」
「あ、ごめん」
俺の言葉にすぐ身体を触るのをやめて採寸し始める。
「ん、これで終わり」
栗栖が俺の各部を採寸し寸法をメモに書き終わった。
「もう少し伊良湖の身体触りたかったな・・・・・・・・・」
俺が再び制服を着ていると栗栖が名残惜しそうにする。
「俺の身体なんか触っても楽しくないだろ」
「そんなことない」
「じゃあどういう風に楽しい?」
「それは秘密」
栗栖に俺の身体に触りのが楽しい理由を聞くが栗栖は理由を言わない。
まぁ言いたくないならいいけど。
「戻ろ」
栗栖の呼びかけにああ、と答え俺は保健室を後にする。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
遠くから俺と栗栖のことを、そして保健室での一部始終を見ていた1人の人間の視線に俺は珍しく気づくことができないまま。
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