3-2-6 俺は栗栖の母と話をする
「お邪魔します・・・・・・・・・・・・・・」
「いらっしゃい」
俺は栗栖の母親に夜部屋に来るように言われていた。
そして夜になったので俺は栗栖の母親の前に行くとその声とともに部屋に招き入れられる。
「そこの椅子に座って」
と言われるので栗栖の母親の隣に置いてある椅子に座る。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしは栗栖優子。よろしく」
「よろしくお願いします。私は伊良湖健一郎と言います。
で、何をするつもりですか?」
「?」
俺が聞くと優子さんは不思議そうな顔をする。
「えっと、何もしないよ?」
「はい?」
「あたしが何かするために呼んだと思ったわけ?」
「違うのですか?」
俺が問うと優子さんはくすくすと笑う。
「何がおかしいんですか」
「いや、勘違いするような言い方してごめん」
「????」
「あたしはあれに対して怒るために呼んだんじゃない」
優子さんはあのことの落とし前をつけさせるために呼んだわけではないと。
じゃあ一体何のために?
「麻衣が連れてきた彼氏くんといろいろとお話ししたいと思って呼んだんだよ」
「・・・・・・・・・そうなんですか」
「あのときは恐らくあいつがわざときみを押し倒させたのだろう?」
「はい」
俺の答えにやはりなと納得した顔をする。
どうやら俺は東京湾に沈められるようなことはないようだ。
しかし話って一体・・・・・・・・。
「で、私は麻衣の彼氏ではないです」
「え?違うの?」
俺が彼氏じゃないと言うと
「友達・・・・・・・・・・です」
「友達、ねぇ」
「ええ」
そう言って俺が友達だと答えると優子さんが解せないというような顔をする。
「本当に友達なの?」
「そうです」
「告白されたりしてないの?」
前に一緒に出掛けたときに姉や綾瀬先輩と鉢合わせして彼女たちに対して俺のことを好きだとは言ったがあれは違うだろう。
「いいえ」
「ふぅん、あいつの顔、完全に彼氏を部屋に連れ込むって顔だったけど」
「ただの友達です」
俺の言葉にそう?と不思議と言う顔をする。
「麻衣が家に男連れ込むのは初めてだったからさ、そうなんだろうって思ったんだが」
「初めて、なのですか?」
「ああ、あたしの知る限りはね」
んん。
あいつ、いろんなやつからモテるって校内外で有名らしい彼氏もとっかえひっかえで何人も連れ込んでるものだと思っていた。
「意外って顔してるね」
「ええ。麻衣は・・・・・・いえ、何でもありません」
「麻衣に関するうわさは知ってるよ。でもモテる以外の話は全部嘘。麻衣は元々男をあんまり信じてない質なんだよ」
優子さんの口からにわかには信じがたい言葉が発せられる。
「麻衣が、ですか?」
「ああ。それにしてもきみは麻衣のことを名前で呼ぶんだな」
「いつもは苗字で呼んでます。今は苗字呼びだと区別がつきませんからそう呼んでるだけです」
俺が名前呼びを指摘され反論するとくすっと優子さんは笑う。
「そうだな、すまない。で、麻衣がそういう質というのを信じがたいって顔だな」
「そうですね」
「本当だよ。なにせ麻衣は昔父親に虐待されていたからね」
突然優子さんの口から衝撃の事実が告げられる。
「え?」
「あいつはな、実の父親から幼少期にすさまじい虐待を受けててね。
実の母親も生まれたときに死んだから誰にも助けを求められなかったんだ。
でも結局周囲の人からの通報で実の父から引き離されて養護施設に入れられたんだ」
俺はその言葉に押し黙る。
「で、いろいろあってあたしたち夫婦があいつを引き取ったんだ。
そういうことがあって基本的にあいつは男を信じてない」
「にしては誰にでも社交的に話してますよ、麻衣は」
「人のことを信じることができるようになるようにあたしたちが教育したからね。
でも根っこでは男を信じてない。」
なるほど。でもそれだと栗栖が一体なぜ俺にはあんなことを?
「そんなあいつがきみを家に連れてきたってことはよほどのことなんだよ。
それだけきみはあいつに信用されてるんだよ。だからあいつを裏切るようなことはしちゃダメだよ」
「・・・・・・・・・・はい」
俺は優子さんの言葉に一言返事してうなづく。
「ところで、きみはあいつにあそこまで好かれてるんだ。あいつと結婚しないか?
あたしがここに呼んだのはそれを提案するためなんだけど」
「はい?」
あれ、話がおかしな方向に。
「男を信じてないあいつが部屋に呼ぶような男だからね。
きみのことは信用するに足る人間とみて間違いはないだろう。
あいつはたぶんきみと結婚したいって本気で思ってるだろうよ」
確かに栗栖はあの時俺と結婚するとは言っていたが・・・・・・・・・あれは本気なのか?だとしても
「俺は誰とも結婚しません」
「それはどうして?」
「いつ死ぬかわかりませんから」
俺の言葉に優子さんは首をかしげる。
「いつ死ぬかわからないって、不治の病か何かにかかってるの?」
「いえ。俺、レーシングライダーなんですよ。そのうちレーシングドライバーになる予定なんです」
「なるほど、そういうことか。確かにそうだな。なら死なない走りをすればいい」
大層簡単そうにおっしゃるなこの人。
「きみは恐らく何でもいちいち深く考えてから行動するタイプだろう?ならできるさ」
「レースの世界はそんなに甘くないです」
「ならそんな現実を変えればいい。きみなら可能だよ」
・・・・・・・・・・・・・・・無責任なことを。俺にはそんな力はない。
「ですが仮に死なない走りができたとしても結婚はできません」
「どうして?」
「できないものはできないのです。諦めてください」
俺は突き放すように優子さんにそう告げる。
「そうか。今はそれでもいい。気が変わったら挨拶にきたまえ。あたしたちは歓迎するよ」
「そうですか」
「長々とすまなかった。話はこれで終わりだ。また麻衣とイチャチャしてきな」
「しません。それでは失礼します」
俺は優子さんの部屋を出て、すぐに栗栖の部屋に行く。
そして栗栖と少し話をして俺は家へと帰った。
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