2-2-7 わたしが健くんを好きになった理由
「ねぇ健くん、健くんは昔からレース出てたの?」
「・・・・・・・はい」
わたしの質問に小声で彼は答える。
「健くんは今までレースで一度も負けたことがないって本当?」
「はい。確かに俺は一度も負けたことがありません」
彼の話ぶりからしてお父さんの話は本当そうだ。
「どうして健くんはそんなに速いの?」
わたしが速さの理由を訊いた瞬間彼は
「簡単なことですよ。俺が今まで生きてきた時間のほぼすべてをつぎ込んだから」
とさも当然というように彼は答える。
ほぼすべての時間?
待って
「健くん、友達と遊んだりしないの?」
「友達も仲間もいません。家族以外の人間は全員俺のことをヤバイヤツと思ってて近づいてすら来ません。友達と遊んだりすることはありません」
っ!
その言葉に彼もまたわたしと同じ境遇の人間なんだと悟った。
バイクに乗っているというだけで異端として差別され避けられる。
あいつは暴走族と繋がりがあるといった根も葉もない噂話を流され誹謗中傷を受ける。
その苦しみを知っている人が目の前にいる。
彼ならわたしのことをわかってくれる、そんな期待をわたしは持つ。
そんなわたしの勝手な思いをよそに彼は話し続ける。
「俺は他の人から鬼才とか言われたりしますがそうじゃないんですよ。
単純に人より長い時間サーキットを走ることがそれが故にできる。だから勝ち続けることができる。それだけです」
彼は自分の速さとレースの成績は鼻つまみにされて孤独だからこその賜物であると話す。
彼のその言葉の中にある感情や彼が抱えているであろう苦労・心情はわたしなら理解することができる。
わたしはそれを伝えようと彼に対して言葉を発する。
「そうか・・・・・・そういうことなんだね。そして健くんはわたしと似たような境遇なんだね」
「?」
「わたしもね、学校で避けられてるんだ。健くんと同じように小学生の時からバイクに乗ってるというだけで変な人扱いされてて」
わたしの告白に彼は目を見開いて驚いた顔をする。
「え?てっきり静さんはクラスの人気者なのだと思ってました」
「ううん。わたしもね、クラスで孤立してるんだ」
わたしのその言葉に彼は警戒心を少し和らげる。
「・・・・・・・・ちょっと人と違うだけでいろんな手を使って排除しようとする人はどこにでもいるものですね」
「そうだね・・・・・・・・・・」
わたしはそれから走行枠の合間合間に少しづつ彼とお互いの話をしたり走り方といったことについて意見を言い合ったりした。
その日から彼はわたしに少しずつではあるが心を開いてくれるようになりお父さんやお母さんとも話せるようになっていった。
1週間も経つ頃には彼はわたしのことも姉さんと呼んでくれるくらいには懐いてくれるようになった。
そしてわたしは彼とそういった話をして一緒に過ごしているうちに少しづつ好意を抱くようになった。
お盆入るころにはわたしは彼のことがもしかして好きなんじゃないかと自覚するようになっていた。
そんなとき、お母さんから
「静、あんた健一郎くんと今日近くである夏祭りにでも行ってきたら」
と提案される。
わたしはたまにはいいかもと思いその提案に乗る。
「そうだね。たまには行ってみようかな」
「それじゃ、夕方までに浴衣準備するわね」
夕方になりお母さんが準備をしていた浴衣を着付けしてもらって着る。
彼も甚平に着替えたところでわたしたちは夏祭りへと出かける。
夏祭りの会場に着き、屋台の食べ物を買って食べていたらクラスの男子二人と偶然遭遇した。
彼らはわたしを見てすぐさま
「うわ、族が男連れて祭り来てるぞw」
「しかも小学生だぞwwwwwやっぱヤベー奴はやることが違うなwwwww」
「「ハハハハハハ」」
と言って人ごみの中へと消えて行った。
わたしはそんな暴言は言い慣れてるはずなのに、どうしてか涙が出そうになる。
すると彼は
「帰ろう」
と言う。
「もういいの?」
とわたしが聞くと
「いいよ。もう楽しんだし」
と彼は言う。なのでわたしたちは家に帰った。
「姉さん、学校で毎日あんなこと言われてるんだ」
彼はわたしにさっきの男子が言ったような暴言を毎日吐かれてると問われうなずく。
「姉さん、毎日毎日辛い日々を送ってきたんだな。なら、これからは・・・・・・さ、どうしても我慢できなくなったら俺に全部吐き出してほしい。俺も同じような境遇だからさ、姉さんのこと、少しはわかってあげられるから」
「なら健くんも、つらい気持ちになったらわたしにその思いをぶつけてほしい。健くんだけっていうのは不公平でしょ?」
「はい」
わたしはこの瞬間、彼に本気で恋をした。
わたしの境遇を彼は理解でき、彼の境遇をわたしは理解できる。
わたしが本当の意味で心を許せる人は後にも先にもこの人しかいないと、その時確信した。
-------------------------------------------------------------
「っていうのがわたしが健くんを好きになった詳細な経緯と理由だよ」
「はぁ・・・・・・・・」
俺は生返事しながらも姉の話に対して半信半疑になる。
姉の話が本当だとしてそんなことで俺のことを好きになったりするのか?
そう思うのは人を好きになったことが今までの人生で一度もないから?
いろいろな考えが俺の頭の中で渦巻く。
「健くんがさっきのわたしの話を聞いてどんな風に思ったとしてもわたしが健くんのことを男として好きなのは事実だし変わらないから」
姉のストレートな言い方に少したじろぐ。
だが今の姉の言い方からして姉は本気で俺のことがどうやら好きなようだということはわかった。
しかしそれに対して俺はどうしたらいいのかがさっぱりわからない。
姉の好意にどう応えるべきなのか考え込んでいると車がわずかであるが揺れ始める。
誤字・脱字報告はお気軽にしてしてください。
確認次第修正を行います。




