1-1-1 俺は黒髪ロングの美少女が男に言い寄られている現場を目撃する
俺の名前は伊良湖健一郎。
県立荒波高校に通うどこにでもいる16歳の男だ。
そして、ぼっちだ。
どうしてぼっちになったか。
簡単に説明すると入学式の日に起こった出来事によって半年以上学校に来ることが出来なかったため誰とも友達になれず自動的にぼっちとなった。
半年以上学校に来なかったため1年のときにクラスメイトだった人間の半分以上は俺の存在自体を知らない。
1/4くらいの人間は存在自体を知ってるが名前を知らないため話しかけてこない。
残りは存在や名前を知っていても無視。というより腫物扱い。
そのため、学校に友達はいない。
2年に進級し、クラスのメンツが変わっても状況は変わらなかった。
相も変わらず俺に話しかけてくる人間は業務連絡以外ではいない。
あまりの避けられように悪意すら感じることもある。
まぁ俺から話しかけることが全くないから人のこと言えないが。
そして今日は4月初めの金曜日。始業式の日だ。
始業式が終わり、家に帰る前に炭酸水が飲みたくなったためそれが売ってある講堂の地下にある食堂前の自販機に向かって歩く。
自販機の前まで辿り着き、この自販機でしか売ってないホップ味の炭酸水を買い栓を開ける。
あの黄金色の大人の飲み物じゃない。
炭酸水にわずかにホップの味がつけられた、いわゆるフレーバーウォーターというやつだ。
俺はこの炭酸水にほんのりとついたホップの味が好きで時々買っている。
そして炭酸水を飲もうと蓋を開けた瞬間、自販機が置いてある廊下の奥のほうから女性が激怒する声が聞こえた。
「な、何だ!?」
俺はつい驚いて声を出してしまう。
炭酸水の蓋をゆるく閉めて何が起こっているのか確かめるため声が聞こえた方向に向かって歩く。
すると講堂の舞台装置の下につながるドアの前まで来たところで男女が言い争う声が聞こえてきた。
どうやらこのドアの向こうで何かが起こってるらしい。
「一体何が・・・・・?」
ドアを音をたてないように開けてそっと中を覗いてみると黒髪ロングの女と茶髪のイケメンの男が痴話喧嘩?をしているようだった。
いや待て。それにしては何かおかしい。
「いいじゃないか。俺の女になれよ」
「お断りすると何度も言ってるでしょう」
「どうしてそんなに断るんだい?」
「あなたに微塵も興味ありませんので」
「そんなこと付き合って時間が経つうちにどうでもよくなるよ」
「そんな風に絶対なりません」
「はぁ、全く困った人だ。僕の愛の告白を受け入れてくれないなんて」
「あなたのそれは愛じゃない」
おっと女の口から不穏な空気にさせる一言が発せられたぞ。
男がいかにも頭に来たという顔をして女の言葉に反応する。
「何?今何つった?」
「あなたが愛と呼ぶそれはただの汚らしい独占欲よ。
そんな自分本位な醜い欲望に私を巻き込まないで」
「下手に出てりゃこのアマ!」
おっと・・・・・・痴話喧嘩かと思って
様子を見るつもりだったが全然そんなのじゃないじゃないか。
マズい。
俺にはこの喧嘩の仲裁をして女を助ける理由も義理もないがこれを見過ごせばあの男が手を出して
最悪あの女が犯される可能性がある。
犯されずに済んでもああいうやつならあの女に一生ものの傷を負わせる可能性が高い。
これはもしかすると助けにいかなければならないかもしれない。
「ちょっと顔がいいからって高飛車な態度をしやがって。
その人を見下すような言葉はどこまでも気に食わねぇ」
こいつ、ちょっと拒絶されただけですごい勢いで人格否定を始めやがったぞ。
「お前みたいなクソ女は二度と人前に出れないようにしてやる!」
そういった瞬間男は拳を振り上げる動作を取る。
拳を振り下ろす方向は恐らく女の顔か・・・・・・?
これは本当にマズい。すぐにでも助けなければ。
「待ちやがれ!」
ドアを全開にしてドアが閉まるのを手で止めながら男に俺はそう一言放つ。
すると男は俺のほうを振り向く。
「お前、その女にちょっとでも触れてみやがれ。タダじゃおかねぇぞ」
「あ?何だてめぇは?いきないしゃしゃり出てきやがって」
「何だっていいだろ。とにかくさっさとその女から離れろ」
「あぁ?ヒーロー気取りで調子乗って俺に指図してんじゃねぇぞカスが。
俺に楯突いたらどうなるかわかってて俺のやることに口出しして」
「やかましい。事を起こす前にとっととその女の前から消えろ」
男の言葉を遮り女に手を挙げるようなことはやめろと俺が忠告すると男は鼻をフンと鳴らし俺に質問をしてくる。
「ボコボコにする前に聞いておこうか。
てめぇ、こいつの何なんだ?」
男が俺に女との関係について聞いてきたので俺は正直に答える。
「別に俺はその女の何でもない。仮に何か関係がある間柄だとしてもアンタに話す必要性は皆無だ」
「答え方といい言葉遣いといい、どこまでもムカつく野郎だぜ。
でもそうかよ。本当に俺のことを知っててヒーロー気取りで知らない女を助けるってのか。
こいつは面白れぇ。傑作の茶番だぜ」
男は俺に殺意のこもった視線とともに極限まで怒っていることがわかる表情でこちらを見たかと思えば突然笑いだす。
まぁ正直男の表情の変化なんざ俺にはどうでもいいことなので質問に対してきちんと答えてやったんだからと俺からも一つ質問をする。
「俺から一つ聞いてもいいか?」
「・・・・・・・俺に対する言葉遣いには気をつけろ。
今回だけは見逃してやる。で、何だ?」
「その女に手を上げようとした理由は?」
「そんなの簡単だ。何度言っても俺の言う通りにしないからだ。
言うことを聞かない女に手を挙げて何が悪い。
そんな女に手を挙げたところで俺に何も非はない。
俺の言葉に耳を貸さず大人しく従わない女が悪い」
・・・・・・・こいつ、清々しいほどにクズだな。
もし殴り合いになったときは死なない程度に手加減するかと思っていたが男が女に手を上げようとした理由を聞いてその気が全くなくなった。
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