1-3-2 俺は生徒会長に初めてを危うく奪われそうになる
再び姉の抱き枕となった翌日。
その昼休み。
俺はいつものように生徒会室に呼び出されていた。
「いつになったらあなたは私の夫になってくれるのかしら」
「残念ながら年齢的にまだそもそも不可能です」
「そうね・・・・・・・・・・・・・」
生徒会長のその言葉に俺は的確に突っ込みを入れる。
今俺は生徒会室に備え付けの折り畳み椅子に折り畳み机を隔てて生徒会長と対面する形で座っている。
「そういえば、健一郎くんの誕生日はいつなのかしら?」
「3月1日ですが」
突然生徒会長に自分の誕生日を聞かれ俺は率直に答える。
「とすると、結婚できる年齢になるのはこの学校の卒業式当たりってことね」
生徒会長が俺が結婚可能になる年齢について俺の答えを聞いて少し考えるような仕草をした後、
「ならその日に婚姻届けを出さないと」
生徒会長がまじめな顔でそんなことを言う。
「その時に生徒会長がこの町に住んでるとは限りませんよね?
まさか俺が卒業する日にどこにいようとそれをするために帰ってくるとでも言うんですか?」
と聞くと生徒会長は
「そうよ。当然じゃない」
と答える。
「そ、そうですか・・・・・・・・」
と俺は困惑しながら答える。
実際問題として、高校の卒業式の日まで俺が生きているとは限らない。
それに生徒会長が俺に対する好意をその日まで持っているという保証はどこにもない。
それについてどう思うか聞きたいと思いながらも俺はその疑問を無理やり飲み込む。
「ところで健一郎くん。私の名前は知ってるわよね?」
「綾瀬桔梗、でしたよね?」
唐突に生徒会長が自分の名前を知ってるか確認してくるので俺は生徒会長の名前を答える。
「そうよ。なのにいつまで経ってもあなたは私のことを名前で呼んでくれないわよね。
いつになれば私のことを名前の呼び捨てで呼んでくれるのかしら」
生徒会長が俺が自分のことを名前で呼ばないことに対して不満に満ちた顔で言う。
「俺は生徒会長のことを名前の呼び捨てで呼べません」
俺は生徒会長の問いにそう答える。
「どうして?」
「生徒会長のことを名前で呼んで学校中の生徒の反感を買ってここに通えなくなりたくないからです」
俺が生徒会長を名前で呼べない理由を言うと生徒会長は
「そんなことにもしなったら私があなたを全力で守る」
と言う。
それは男が言うセリフのような・・・・・・・・・・。
そして生徒会長はもし俺がそんな状況に本当に陥ったらその言葉通り全力を出しそうで怖い。
「だとしても、俺は生徒会長のことを名前で呼び捨てなんてできません」
「・・・・・・ならせめて苗字で私のことを呼んで」
俺がそう言うと生徒会長は俺にそんな提案をしてくる。
「・・・・・・綾瀬先輩」
俺は生徒会長の提案に沿って試しにそう呼んでみるが生徒会長は未だ不満そうな顔をする。
「先輩は付けなくてもいいの」
「いえ、これは譲れません」
「・・・・・・・・・・わかった。まずはその呼び方でいいわ」
綾瀬先輩は俺の頑固さについに不服という顔をしながらも折れた。
だがそもそも下級生が上級生のことを呼び捨てにするわけにはいかないのだからこれが落としどころだろう。
「ところで」
綾瀬先輩が不服そうな顔から即座に真面目な顔になって俺に質問してくる。
「今週の土曜日に予定は入ってるかしら」
綾瀬先輩がそう言ってくる。
「すみません。その日はどうしても外せない用事があって」
俺がそう答えると、瞳の中をのぞき込むように俺のことを見る。
「そう。わかったわ。また次の機会に」
綾瀬先輩が意味深な表情をしてあっさりと引き下がる。
「そういえば」
綾瀬先輩がおもむろに立ち上がり俺が座ってる席の横までやってくる。
すると突然綾瀬先輩は俺の顎を右手で自分のほうに向けながら上げると俺の顔をじっと見てくる。
「健一郎くんの顔を見てて思ったのだけれど、健一郎くんの唇、すごくきれいよね」
綾瀬先輩はそう言いながら俺の唇を親指でなでてくる。
「綾瀬先輩、どうしたんですか」
「あなたの唇、とてもおいしそう」
俺がどうしたのか聞くと、綾瀬先輩は頬を赤らめてそんなことを言う。
「え、いきなり何言ってるんですか綾瀬先輩」
綾瀬先輩が変なことを言うので脳内がパニックになる。
俺はパニックを抑えながら綾瀬先輩に何を言っているのかと聞くと
「健一郎くんはキスしたことはあるの?」
とキスの経験について綾瀬先輩は俺の質問を無視して聞いてくる。
「はい?ありませんけど」
と、俺が綾瀬先輩からのいきなりの質問に答えると綾瀬先輩は
「私、今すぐ健一郎くんの唇を奪いたい」
と言いながら俺に迫ってくる。
「綾瀬先輩!?突然どうしたんですか!」
「何って、あなたの初めての人になりたいのよ」
綾瀬先輩はそう言って急に顔を俺に近づけてくる。
俺は綾瀬先輩の肩を両手で抑えてなんとかキスを阻止しようとする。
「健一郎くん、どうして私とのキスを拒むの」
綾瀬先輩がじりじり近づきながら俺に質問する。
「俺達まだそんなことするっような関係まで進展してないじゃないですか。だからもう少しお互いのことをわかってから」
「関係の進展なんて関係ない。私はあなたのことが好き。そして私はあなたの唇が今すぐ欲しい。それの何がおかしいの?」
ハチャメチャなことを言いながら綾瀬先輩は俺の後頭部に左手を回し左腕の力も使って自分の唇を俺の唇にどんどん近づけて行く。
おかしい。結構両腕に力をかけてるはずなのに綾瀬先輩の顔がどんどん近くなっていく。
1cm、また1cmと近づいていきあと数mmで唇が触れるというところまで来たその時
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了5分前を知らせるウェストミンスターの鐘が鳴る。
「残念。健一郎くんの唇はまたの機会に奪うとするわ」
そう言って綾瀬先輩は俺を開放する。
俺は内心激しくホッとした。
「きちんとキスしてもいいとお互い思えるようになってからにしてください。それでは失礼します」
俺は綾瀬先輩にそう言って生徒会室を後にした。
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