1-2-2 俺は生徒会長に結婚を迫られる。
・・・・・・・・・・・はい?
私と結婚しなさい?
いきなり何を言ってるんだこの人。
「すみません、生徒会長。何を言ってるのかよくわからないのですが」
「結婚できる年齢になったら私の家に婿入りしなさいと言ってるのよ」
いやいやいきなり婿に入れと言われても意味が分からないんだが。
「えっと、何度聞いても生徒会長の言ってることが理解できないんですが」
「私は単純明快なことを言ってるはずなのだけれど」
生徒会長は不服そうな目で俺のことを相変わらず壁ドンしながら見ている。
「そもそもなんで俺にそんなことを迫るんですか」
「その質問に簡潔に答えるなら、先週金曜あなたが私を窮地から救ってくれたから」
「はぁ・・・・・・・・はい?」
先週の金曜?助ける?・・・・・・・・・・はっ!
まさか、あの時俺が無理やりあそこから連れ出した女が生徒会長!?
そんなまさか。
「今まで私がどんな窮地に陥っても周囲の人間は一切私を助けようとはしてくれなかった。でもあなたはあのとき私のことを自分のことを省みず助けてくれた。私にとってはそのことがとてつもなくうれしかったの。そこからあなたのことがとても気になって、気づけばあなたのことが好きになってたの」
「ちょっと待ってください、生徒会長。あなたを助けたのは俺じゃないです」
生徒会長が自分を助けたのは俺という言葉に俺は疑問を抱いた。
なんで生徒会長はあの時自分を助けたのが俺だと断定しているのか。
俺はあの時の状況について生徒会長としゃべりながら思い出す。
思い出せ。あの時の周囲の環境・人間の配置を。
そして推測しろ。あのときあそこにいた人間の心理を。
「いいえ、あの時私を救ったのは間違いなく伊良湖健一郎くん、あなたよ」
まずあの時俺の顔がはっきりと見えるような状況があったかを思い出す。
あの部屋の中の明るさと廊下の明るさの差からしてあの時生徒会長からは俺の顔は逆光でかなり見えにくかったはずだ。
仮に手をつかんだ時に見たとしても俺が互いの顔がはっきり見える程近づいた時間は一瞬だ。それにその時あの女はかなり動揺してた。
なら自分を助ける相手の顔を見て覚える余裕なんかなかったはずだ。
事実俺自身、あの時助けた相手の女の顔なんか助けるのに必死で覚えてないんだから。つまりあの時相手が俺の顔をはっきりと見れるような状況はなかった。
「なぜ俺だと言い切れるんですか」
そこから導き出される結論は、あの時生徒会長が自分を助けた人間は性別が男だということは声でわかっただろうがその人間の顔をしっかり見てはっきり覚えてる可能性は限りなく低い。
逆説的に生徒会長を助けた人間は俺とは言い切れない。
言ってしまえば生徒会長を助けたのは俺という可能性は十中八九ない。
「あの時助けてくれた男の人の顔が手を取られたときはっきりと見えたの」
なっ!?あの時俺の顔がはっきり見えてたのか!?馬鹿な!
そこで俺の思考は止まってしまう。
「その時に憶えてた顔と顔写真と氏名が載ってる生徒名簿を照らし合わせて私を助けた人間があなただとわかったの」
なんて瞬間記憶力だ・・・・・・・・・・・。
模試で常に全国一桁の順位と言われる人間は記憶力も段違いということか。
いや待て。
例えそうだとしても生徒会長も人間である以上俺の顔を細部まで完全には覚えてるわけがない。
ならやはり俺があの時助けたのは生徒会長とは断言できない。
「ですがそれを証明できる物的証拠がない以上俺があの時助けたのは生徒会長ではないです」
「健一郎くん、さっきからつべこべうるさいわよ。私はもうあなたのことを心の底から好きになってしまったの。あなたも男なら男らしく私を惚れさせた責任を取りなさい」
生徒会長は右脚を俺の脚の間に入れて体をさらに近づけてくる。
「伊良湖健一郎くん。あなたは今日から私の恋人で婚約相手よ。一切の反論は認めないわ。あとこれからは私のことは名前で呼び捨てにしなさい」
「そんなことはできません」
「やるのよ」
「できま」
俺がもう一度できませんと言おうとした瞬間午後の授業開始5分前の予鈴が鳴る。
「予鈴が鳴りましたね。お互い次の授業がありますよね?ですからもう放してください」
「・・・・・・・・そうね。夫を自分のわがままで困らせるのは妻として失格だものね。
じゃあまた明日、ここでお互いの愛を育みましょう」
「お断りします。では私はこれで失礼します」
俺は生徒会長にそう言い残し生徒会室を出た。
俺が教室に戻った瞬間本鈴が鳴る。
危なかった。授業に遅れるところだった。
かくして今日も全部の授業を受け終わる。
さて、バイト行きますかと思い駐輪場に向かう道中校内外でいろいろな意味で有名な同級の金髪ギャルが先週生徒会長に言い寄ってた男に声をかけられている場面に遭遇する。
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