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異界大戦  作者: 山川一
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異世界が 転生してきた

敦賀士郎アツガ シロウは迷彩服に漆黒の太刀を持って突撃している。相手は魔導士である。背丈はこちらよりやや低い。深緑のローブをまとってこちらに杖の切っ先を向けている。一対一。自分の人生を賭けたとしても、もうこんなチャンスは二度と来ないかもしれなかった。何人もの仲間が眼の前の魔導士に焼かれた。みな炭となった。相手はこちらを睨みつけ、何事かつぶやくと杖の切っ先から火炎を吹き出した。物理法則を無視した火炎は火炎放射器というよりは直進するレーザー光であった。まばゆい赤色の光が士郎の眼前に突出してきた。死んだと思った。しかし死ななかった。身体はとっさに反応し、光を両断した。退魔刀タイマ トウ、漆黒の刀身に刃渡り二尺六寸。魔法を両断しうるその太刀は地球人が異国の魔導士に対抗するための唯一の手段であった。故に士郎は駆けた。炎が魔力を失い空へ広がり始める。そのまま士郎は炎の中へと飛び込んだ。

『この野蛮人め』

敵魔導士の悪態が聞こえたような気がした。野蛮人で結構だと思った。物理すら無視する魔法使いを屠れるなら鬼にも悪魔にでもなってゆくしかない。周囲の炎がかき消えると同時に、敵魔導士が目前にせまった。両断した。朱い返り血が士郎の眼前を染めた。


皇暦2086年6月24日、侍隊三等兵 敦賀士郎 撃破1


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時は皇暦2082年に遡る。8月3日、日本列島は概ね快晴であった。米中露はそれぞれ揉めたり仲良くなったりしながら経済闘争を繰り返し、一方の日本はといえば、そういった隣国に板挟みにされながらも首都直下型地震とそれによる大津波に街を呑み込まれやしないだろうかとぼんやり考えていた。とはいえ、快晴の晴天とセミの鳴く声はいよいよ夏も大詰めであることを歌っていた。そんな時勢であった。

真っ先に異変を捉えたのは米軍の偵察衛星である。日本首都圏のやや北西に位置する地点からオーロラのようなまばゆい光が噴き出し始めた。米観測員は、化学プラントの事故としてもやや大きすぎる、もしや日本が核実験でも行ったのでは、と頭を巡らせるのも束の間、まばゆい光はみるみる広がり関東平野一帯を覆うほどになった。そしてしばらく光り続けた。時間にすると約30秒ほどであったろう。しばらくすると光が晴れてきた。観測員は一見、何が起こったか理解できなかった。衛星からの映像ではなんとなく街の色が変わったように見えた。灰色から茶色になった。それに緑も多い。そして、道路がなかった。観測員は迷わず手元にある埃に塗れた真っ赤な緊急通報ボタンを叩いた。朱い光と心臓に悪いうるさいサイレンが鳴り響く。突如、日本国の首都が消滅したのだった。首都圏を含む関東平野一体に魔法文明を持つ異国が出現したのである。もともとそこにあったものは消滅した。日本の首都機能は停止し、周辺地域の市民は逃げ惑うしかなかった。

首都圏広域の突然の消滅に対してすばやく動いたのは、マスコミ、国軍、政治家であった。この一大事件、後に異国召喚イコクショウカンと呼ばれる事象が起こってから僅か2時間後には首都圏のあった地へと幾つもの報道ヘリが飛び立っていった。陸軍の駒門コマカド駐屯地司令 相葉康アイバヤスシは連絡室にいた。3名の下士官が矢継ぎ早に端末と受話器を操作していた。

「ダメです。座間、滝ヶ原も連絡とれません。」

「こちらもダメです。横浜、習志野を中心に連絡途絶。」

「新潟とは繋がりました。しかし、特に情報はないそうです。」

しばらく考えた後、相葉は答えた。

「佐世保と岩国に連絡を」

「ハッ」

佐世保と岩国には他の国軍基地と違い米軍基地が隣接している。経ヶ岬などもあるが規模からいって海軍の佐世保、海兵隊の岩国がベストだろう。状況から首都圏の周囲100km近くから連絡が途絶している。首都直下型地震であったとしても、直下で直撃したところ以外でも広域に連絡が途絶することはおかしい。先程の閃光が敵国による攻撃の可能性もあるが、核攻撃のようなキノコ雲は見られない。

「佐世保基地と繋がりました。」

「よし。こちらへ回せ。はい。代わりました。駒門の相葉です。何か状況は掴んでおいでですか?」

「佐世保の古家です。現在、米軍からの情報によりますと首都圏が消滅したのではないか、と」

「消滅?」

「はい。衛星からの情報では首都圏にこれまでと全く異なる都市群が出現したということであります。」

耳というか頭を疑った。首都圏消滅だけでも大災害だが、都市群の出現とは一体どう解釈すればいいのか。敵国が国ごと強襲揚陸してきたとでも言うのだろうか。連絡が取れないことも未だに信じられない。が、こうなればともかく自分の目で確かめるしかない。

「敵兵力は観測されているのか。」

「いえ、戦闘機も確認されていないそうです。」

「分かった。ではうちから偵察を出す。情報に感謝する。」

相葉はそういって受話器を置くとすぐさま出動の準備に取り掛かった。すでに下士官はいつでも動けるように待機している。情報のまったくない未知の状況と首都への浸透という危機的状況は、幾つかの戦地をくぐり抜けて来た相葉にとっても全く初めての状況であった。

静岡ネットワーク放送(SNV)、編集部の一角で杉山渡スギヤマワタルはそわそわしていた。不謹慎極まりないと思うが、実際、好奇心が勝る。一体全体何が起こったというのか。偉いさん方は頭を突き合わせて話をしているが、首都圏の親会社や他社メディアとまったく連絡が取れない時点でもうただごとじゃない。災害だろうが攻撃だろうが絵になることには間違いない。その上、いつも大きなスクープを取っていく都市部のやつらがいないとすれば、もう俺たちがやるしかない。こんな田舎の一角からヘリを飛ばす日が来るとは思ってもみなかった。ドローンじゃなくてヘリでの空の旅だ。会社はこういう時に金を使わずにいつ使うというのだ。

ドガァン

勢いよく会議室の扉が開いた。

「杉山ァ!予算はとった。行ってくれ。」

「さすが!局長!」

俺はこんな状況が楽しくて仕方がない。俺の心を揺さぶる風景がきっと出てくるだろう。ただの通信障害でないことを祈る。酸いも甘い熱いも寒いもすべてカメラに納めてやる。

大阪府 大橋薫オオハシカオル 府知事は京都泉涌寺に来ていた。天皇家縁の方に拝謁する為である。首都圏に突如現れた都市部を仮に異国イコクと呼ぼう。異国の出現によって、首都の一切合切が消失したため、国会議事堂はおろか皇居も消滅し日本列島は混沌に包まれていた。日本は直ちに政治を再編し異国と対峙しなければならない。戦か融和か。大体、首都機能消滅など全く荒唐無稽で未だ夢かと思う。夢ならば今すぐに褪めてくれと思う。こうなってしまえば国軍は一体誰が統率するのか、外交はどうするのか、問題は山ほどあるが、ともかく首都機能を誰かが引き継がなければならない。それには東京に次いで第二の大都市である大阪が適切であろう。ともかく天皇家の方々の状況と今後の方針について話し合いが不可欠だ。

寺の僧が大橋を呼んだ。

「大橋様、どうぞこちらへ。」

促されるままに進んだ。渡り廊下を通って、大広間を二段進んだ後、拝謁を許された。大橋は状況を説明した。有り得べからざる事態が、今、この日本に起きていることを述べた。

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