暗闇の中で
ーーーここ、どこだ?
起きてすぐに暗闇の中で私はそう思った。周りを見渡しても、孤独な暗闇しか目に入るものはなく、手を振り回してみても当たるものはない。そもそも、なんで自分はここにいるんだと、疑問が疑問を呼んだ。
昨日の夜は会社の飲み会で飲みすぎて、記憶があまりない。誰かに話しかけられた気はするが、誰だったかすら思い出せないのだ。
「ん?なんだこれ。ボタン?」
ふと、視界の左下に意識を向けてみると何やら、スマホの設定のマークのようなものがある。
だが、おかしなことに「それ」は触ることができないのだ。確かに、ある。だが触ることができない。
「これは、夢だ」
私はこう結論付けることにした。
早く起きることを願い、眠ろうとした。
『ーーーか?ーーい?おーーい!聞こえますかー?』
脳に直接響いているような感覚で、女性の声が聞こえた。
「誰だ!」
夢だから、何を言っても夢でしかないのだがとっさに私は反応してしまった。
『あ、夢じゃありませんよ?ここは中間世界です』
「中間世界?」
『まぁ分かりませんよね(笑)この世界は、元いた世界と次の世界をつなぐ回路とでも思っておいてくれればそれでいいですよー。次の世界が準備される間、少し心の準備をしておいてください』
そいつは、笑い交じりに説明してくれる。
「ちょっと待て…今異世界って言った?てか、お前誰なんだよ」
『あ、私ですか?私はですねー……秘密です♡
それでですね?あなたは異世界にこれから行ってもらいます。そこであることをして欲しいのです。」
くそ、こいつうやむやにしやがった。
だが、やはりこの状況で信じられるものと言ったらこいつの言葉しかない。鵜呑みにはしないが、知識として蓄えておくことにした。
「して欲しいことって?」
『12個の古代遺物を探していただきたいのです。古代遺物とは、神物が作ったとされる神器で、一つ一つが強大な力を持っているとされています。』
「なぜそれが必要なんだ?」
『世界のため…じゃダメですか?』
「ダメだ」
今回もうやむやにしようとしたが、俺が考えていたことがわかったのか疑問形にして返してきたので、即却下しておいた。
『そうですよねぇ…わかりました、お教えしましょう。世界には「理」というものが2つ存在します。「救済の理」と「破滅の理」。これらが、世界を動かしています。もちろん生物は「救済の理」によって生まれ、「破滅の理」によって生き絶えるものなのですが、最近になって「破滅の理」が強くなりすぎてしまい、自然災害や魔物の襲撃が多くなってしまったのです。原因はわかっていませんが、それをどうにかできると思われるのが、12個の古代遺物なのですよ』
…なんだそのファンタジーは。いや、まぁこの状況もファンタジーではあるのだが、頭がおっついてこない。
「なぜ、それを俺がしなくちゃいけないんだ」
『選ばれたからです』
「選ばれた?誰にだよ」
『神にですよ』
「神?!」
おいおい、ファンタジーとか茶化していたが、本当にファンタジーだなこれ。
世に言う異世界転生ってやつか?嘘だろおい…
ちょっと待て…転生?転生って、あれだろ?新しく若い体が用意されて、レアスキルを持ってたりする…
「ちょっとまってくれ!俺の筋肉は、鍛え上げた筋肉はどうなっているんだ!まさか異世界に行くので新しい体が用意されますとかじゃないよな?!」
『いえ、転生ではなく転移という形になるので21歳の筋トレバカのままあちらの世界で生活してもらいますよ?まぁ転生という形を望むのであればそちらの方でも構いませんが「望まん!」…ですよねー』
そうか。とりあえず、地球で汗水垂らして鍛え上げた筋肉は、このまま異世界に持ち込めるらしい。今更200キロの鉄塊を持ち上げられないような人間には戻りたくない。
「それで、説明がまだ済んでないと思うのだが?
なんだこの左下の設定ボタン?みたいなやつ」
『あぁそれは、ステータスボードですね。そのボードでは、ステータスの振り分けや確認、そしてスキルの取得を行うことが出来ます。』
おぉ!まさに異世界って感じだな、これで筋トレが効率よく行え…おっと、とうとう脳まで筋肉に変わってきたみたいだ。
「どうやって開くんだ?」
『開くって意味の言葉を念じれば開きますよー。言語はなんでも構いませんからね。』
「じゃあ…」
目を瞑って、試しにオープンと念じてみる。目を開けるとそこには、ステータスボードと呼ばれていたものが宙に浮かんだまま存在していた。そもそもこれ物体ではないみたいだ。触ろうとしてもさわれない。だが操作することはできるから便利ではある。
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名前 伊村 剛志
性別 男
称号 筋肉バカ
能力値
体力 15600
防御力 8900
魔力 3800
筋力 18600
敏捷 4000
魔攻 2600
スキル
体術lv9 剣術lv7 武器破壊lv4 大食いlv5
残りステータスポイント 10000
残りスキルポイント 1000
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まぁね。わかってましたよ、筋肉バカなことぐらい。でもさぁ称号馬鹿にしてるだろこれ、筋肉バカって…ひどすぎない?
『そこに残りのステータスポイントと、スキルポイントがあると思うんですけど、それもそれぞれ割り振ることが出来ます。スキルポイントのほうは、スキルによって必要ポイントが違ってきますし、lvが上がるにつれて消費ポイントも多くなっていきます。割振りは確定させてしまった場合、特別なアイテムがない限り、後戻りできませんので気をつけてくださいね。まぁあなたの場合すでに攻撃値とかやばいことになってますが。あ、そろそろ世界選択が終わりますね。それでは…』
『あなたにメルフォリアの加護があらんことを』
説明して欲しいことはまだまだ山ほどあるのだが、世界選択が終わり、あいつが最後の言葉を口にした途端、急激な眠気に襲われる。てか、どんな世界に行くんだよ…それぐらい説明してくれたっていいだろ。
こうして俺、伊村剛志の冒険はスタートしたのである。