2-5
取り敢えず最下層の西側にある廊下の突き当たりに来てみた。
図面からすれば地下三階に当たる場所だ。
どうせ二十一カ所も探すなら、ヤスカが一番に押す場所を探すことにしたのだった。
そこはどう見ても廊下の突き当たりで、石壁以外の物はなにも無かった。
「で、どうするの。この壁でも壊してみる?」
「ちょっと待つのです」
ティア姉の乱暴な意見を押しとどめると、シルヴィは首元からネックレスを取り出して突き出した腕の指先にぶら下げた。
宝石が緑色に輝いて、壁の向こう側に向かって傾いていた。
「部屋があるかは分らないですが、この向こうにレイラインがあるみたいなのです」
「レイラインってなに?」
ティア姉が聞くけれど、シルヴィの答えは曖昧模糊としたものだった。
「聖霊の流れる線のことです。実はレイラインが何なのかは分っていないのです。ただ、そこにあって、使えるから使っているだけなのです。そして永久に魔方陣を発動させ続ける為には、レイラインから聖霊を貰ってくるように作るのです」
「つまり、この向こうにそれがあるって事ね」
ティア姉は壁を押してみるけれど、予想通りびくともしない。何か道具を持ってくるしかないのだろうか。
そんなティア姉を尻目にヤスカは壁の角を押したり引いたりしながら調べていた。下の方の石を押してみると、僅かに動く気配があった。
「これだ」
ヤスカは言うが早いか石を押し込んでいた。
ガコンと小さな音が廊下に響く。
ヤスカが突き当たりの石壁を押すと扉のようにゆっくりと開いていく。
リータはたったそれだけの仕掛けで開いてしまった扉に驚いた。厳重に魔術か何かでロックされていると思っていたのだ。
「えっ、それだけですか。重要な部屋なんですよね。もう少し魔術で鍵を掛けるとか有るものかと思っていました」
リータの疑問に答えたのはヤスカだ。
「そうか? 俺は部屋の存在を知ってる者なら、誰でも簡単に入れるようになってると思ってたぜ」
「何故ですか。誰にも入られたくないから図面からも消したのでしょう」
「それだよ。誰も存在を知らない。知らない者はこんな場所には来ない。来ないから厳重に鍵を掛ける必要も無い」
言われてみればそんな気もする。しかし、リータには不安が残る考え方だと思う。