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会議室に案内されてから、すぐにサウル王はやって来た。偉そうな人も一緒だ。
二人とも涼しそうな格好に着替えていた。
不思議なのは他に誰も来ないことだった。普通なら警護の一人や二人くらい来そうなものだけれど。
会議室は部屋の中央に大きなテーブルがあり、シェレフティオ大陸の地図が描かれていた。もっとも、東の方は正確な地図が無いため、適当に書いたのだろう。
テーブルの周りには脚の長い椅子が並んでおり、小柄なリータ達が座ったら足が下に届かないだろう。
サウル王は疑わしげな目を向けながら話を始める。
「まずは、そなた達が本物である証が欲しい」
偽物の勇者を仕立て上げた張本人と目される人物が、勇者パーティの真偽を聞いてくる。そういえば、アイリ達が本物の勇者パーティだとはリータ達も証明してもらっていない。
その疑問に答えたのはアイリだった。
「証などと言うものはない。強いて言えば、わたしの剣技とシルヴィの魔術を見てもらうしかない」
続いてティア姉が右手の腕輪を見せながら答える。
「この腕輪に見覚えはありませんか。トゥルク王族の証です。……偽物だと言われてしまえば証明しようがありませんが」
リータは王様から目をそらしながら答える。
「リータはティア姉の妹です。……王族ではありませんが」
最後にヤスカが答えた。
「俺、いや、私のことは市場とかで聞いてくれれば、みんな答えてくれると思います」
サウル王は一つ頷くと、納得したように破顔した。
「いやはや誰も明確な証拠を持っていない所が本物らしいな。疑って悪かった。そなた達の実力はタピオ=ハリから聞き及んでおる。タピオは言動に問題はあるが腕は確かだ。ヤツが信じるなら我も信じることにしよう。それにその腕輪には見覚えがあるしな」
急に砕けた話し方になったサウル王は椅子に座りながら、皆も座るように促してくる。
ティア姉が飛び乗るように椅子に座ると言った。
「それでご用件は何でしょうかサウル王」
テーブルに肘をつき、両手を組んだサウル王が答える。
「うむ、実はやって欲しいことがある。宰相あれを」
宰相と呼ばれた偉そうな人が巻いてあった紙をテーブルに広げる。
それは折れ線グラフだった。横軸が日にちで、縦軸が気温だ。
しばらく平坦な線が続いていて、ある日を境に上方へと折れ曲がる。
それは北方連合軍が壊滅した日だった。
「見てもらえば分ると思うが、我が王都は基本的に気温の変化が無かったのだ。――魔術師イント=デゲルホルムを知っているか。我の何代も前の王が、ヤツに王都の気温を一定に保つ魔術を掛けてもらったそうだ」
サウル王の言葉に驚いたのはシルヴィだ。
「イントってあの伝説のイントなのです。わずか四〇〇歳でこの世を去った魔道工学の生みの親とも呼べる超天才のあのイントなのです」
「そう、そのイントが我が王都に魔術を掛け、快適な温度を保つようにしていたのだ」
サウル王はそう言うけれど、とても快適な温度とは思えない。熱帯地方でも無いのに、とにかく暑すぎるのだ。
「最初におかしくなったのは一九〇年前の北方連合軍の侵略からだ。この時までは二〇度を保っていた温度が二四度まで上がっている。次は八〇年前の北方連合軍の侵略の時に二八度まで上がってしまった」
サウル王は温度の上がった要所を指し示す。確かにそこから平均気温が四度ずつ上がっていた。
「何故、北方連合軍の動きに合わせて気温が上昇するのかは分っていないが、今回の侵略でも温度の上昇が確認されている。しかも今回は今日の時点で六度上昇しているのだ。おそらく雨の影響が無ければ八度上がっていただろう」
今日の時点で三四度もあったのかと驚いてしまった。道理でティア姉が下着一枚でうろつくはずだ。
ここまで黙って聞いていたティア姉が、理解できない様子で聞く。
「つまり、昔の魔道士が暖房の魔術か何かを街に掛けていて、それが温度を上げすぎているって事ですよね。それとわたし達が呼ばれた理由が分りません」
暑さのせいか少しずつ言葉遣いが乱暴になっていくティア姉を咎めることも無く、サウル王はようやく本題に入れるといった真剣な表情で言った。
「そなた達にこの魔法を止めて欲しいのだ」
呆れたような表情でティア姉は言う。
「申し訳ありませんが、お門違いではありませんか。魔法が原因だと分っているなら、ヴァンターの魔道士にやらせれば良いでしょう」
ティア姉の忌憚のない意見に困った様子でサウル王は続ける。
「今のヴァンターにまともな魔術師はいない。魔術を志すものは皆ユヴァスキュラに行ってしまうのだ。それに僅かに居る魔術師はヒュヴィンカーの奪還に向かっている」
その魔術師を呼び戻せばと言いたいところだけれど、流石に王様の判断に向かってそんな事は誰も言えなかった。
「聞けばシルヴィ殿には勇者様に認められた魔術の才があるという。頼む、オウルの街を、延いてはヴァンターを救って欲しい」
確かにこのままではオウルは遷都を余儀なくされる。北の要所であるヒュヴィンカーが北方連合に占拠されている今、ヴァンターにそんな余力は残っていないだろう。逆に北方連合に余力が残っていた場合、ヴァンターは窮地に立たされる。
しかし、そんな事情に頓着するティア姉ではなかった。
「申し訳ございませんが、シルヴィ達はわたしが契約しています。ですのでわたしが結論を申し上げます。この依頼、お断りさせて頂きます」
サウル王はじっとティア姉を見詰める。空気が張り詰める感覚を初めて知った。
「理由を……聞いても良いかな」
「わたしには勇者を探す使命があるからです。トゥルクは王都ヴィロラの崩壊によって人心が乱れています。これ以上国が乱れないうちに勇者に国王の座に着いてもらわないと困るんです」
ティア姉のはっきりとした断りにサウル王は頷いていた。
「ティア姫の考えは理解した。しかし、わたしも諦めるわけにはいかないんだよ」
サウル王の言葉遣いが王様の位から降りてきていた。対等の者として話しているのかも知れない。
「こちらの条件としては成否に係わらず一人に三〇〇マルカ。それと魔術師イント=デゲルホルムの研究室への立ち入り許可。最後にオウル城門の通行許可証をやろう」
一マルカは金貨一枚になる。三〇〇マルカもあれば一年は働かずに家計が回るだろう。
「なっ!」
これには全員が驚愕する。
オウルは街に入るには厳しい検査と税金徴収があるけれど、出て行く者の検査は特にないと聞いていた。ましてや通行許可証がいるなんて聞いていない。
つまりは、解決しないかぎりオウルから出さないぞという脅迫だった。
「王様ともあろう人が、そのような手を使いますか」
ティア姉は悔しそうに言うと、サウル王は憎らしく微笑みながら言った。
「王様だから使うんだろ」
流石は在位三〇年を超えるだけあって老獪な王様だった。




