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4-6

 階段を昇り終えると、そこは最上階だった。

 部屋と言って良いものか、真ん中に丸く光る球体とそれが乗っている円柱が有るだけで、壁もなければ屋根も無かった。階段も消えてしまったので、有るのは床だけと言ってもよかった。

「あったです。冷却の魔道具の制御魔方陣なのです」

 シルヴィが宝物を見つけたといった様子で言った。

 部屋の中央にオウル城で見たのと同じような虹色に輝く球状の物体が円柱の上に浮かんでいた。幾筋もの光が出ているけれど、球体から離れるほどに薄くなって消えていく。

「こんな物のせいでリータは……」

 ティア姉は忌々しい物を見るような表情だった。

 そんなティア姉の様子を何か言いたげにアイリは見ていたが、結局何も言わずに球体へと歩いて行く。

 球体の前に行くとシルヴィが目を輝かせているのが分ったけれど、それを無視してアイリは停止を促した。

「何か起こる前に、早く止めてしまおう」

「……はいです」

 勿体ないと言った様子のシルヴィだったけれど、目的は忘れていなかった。

 シルヴィは制御球を両手で挟み込む様な体勢をとると、両目を閉じて聞き取ることさえ難しい言葉を呟いた。

 制御球の魔方陣は光を失い回転を停止する。

 これで冷却の魔道具は完全に止まったのだった。

「さあ、帰って勇者を追うわよ」

 ティア姉が意気込むと、それを待っていたかのように事務的で冷たい声が響いてきた。

「停止規定の順番と形式が異なりました。セキュリティ規約により、これより自壊が開始されます。下部安定構造部からの自壊となります。上部魔術式部は不安定となりますので、待避の際は揺れにご注意ください」

 声が消えた途端、轟音が響き床が揺れ出した。

 床の揺れは大したことは無いものの、響く轟音からこの構造物が崩れて落ちていっているのだと想像できた。

「ちょっと、まずいわ」

「大分まずいです、ティア姉」

 考え込む様子のティア姉だったけれど、基本は村娘として育ったティア姉に解決策が思いつくとは思えなかった。

「こんなセキュリティがあったなんて……。ごめんなのです」

「シルヴィが謝ることは無い。誰にも想定できなかったのだからな」

 シルヴィは自分のせいだと思い込んでいるらしいけれど、アイリの言うとおり、誰がこんな事態を想像できただろうか。

「お前ら、そんな事より脱出の魔方陣とか無いか探せ!」

 ヤスカが走り出しながら言う。

 確かに脱出用の魔方陣が有ってもおかしくはない。いや、有ってしかるべき物だろう。

 しかし、隅から隅まで探しても魔方陣は見当たらない。

 隠してあるのだろうか。だとしたら、どうすれば見つけられる?

 息を切らしながらシルヴィが言う。

「これもきっとイント=デゲルホルムの遊びなのです。解除に来た者が無事に帰れるのか試しているのです」

「本当に悪趣味な最低野郎だな! イントなんとかは」

 ヤスカの言葉には同意するけれど、今は脱出方法を考える方が先だった。

「ない! ないわ! 魔方陣なんて」

 ティア姉の言うとおりだった。どこにも魔方陣なんて無い。

「どうする。俺は飛び降りるのだけは嫌だぞ」

「わたしだってそうだ。シルヴィは浮遊の魔術を使えたはずだな」

「アイリ姉さん、あれは自分しか浮かないのです。しかも長く浮けません」

「シルヴィだけでもいい。遠慮無く使うんだ」

「アイリ姉さんを置いてくなんて嫌なのです!」

『ミズキは浮遊の魔法と云うのは使えませんか?』

『俺は一人までなら一緒に浮ける』

 いざとなったらティア姉だけでもと考えていると、ティア姉が何気なく言った。

「こんな時に皆で飛べれば良いのに」

 リータに一つの案が浮かぶ。しかし、間に合うだろうか。

 試さないで死ぬよりは良いと思い、ミズキに話しかける。

『ミズキ、エカを呼んでください』

『なるほど。飛べるヤツを呼ぶんだな』

 後は間に合ってくれるのを祈るだけだけれど、リータには祈るべき神がいないのを思い出した。

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