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「リータ! リータ! リーータ!」
ティアがリータを抱き上げ叫んでいた。シルヴィは肩口に自分のローブを紐代わりにきつく締め付けるが、傷口から流れ出る血は止まらない。
目を開けたミズキは話し始めた。
「うるさいぞティア。リータは気絶しているだけだ。今のところは生きているから騒ぐな」
声帯から声を発したのは何年ぶりだろうか。自分の声色ではないから違和感が凄い。
「リータ? いや、あなたミズキね! リータは、リータは大丈夫なの!」
ティアはリータの変化に気づき、ミズキが支配しているのを見破った。
アイリとヤスカもヒュドラを退治し終わったようで、近くでリータを見守っていた。
心配してくれる仲間がいることに嫉妬を感じながらミズキは言う。
「だから耳元で騒ぐのではない。今のところは大丈夫だと言っただろう」
「今のところって何よ。すぐ大丈夫じゃなくなるんじゃないでしょうね!」
「その通りだ。この娘はもうすぐ死ぬ」
「なっ!」
「だから待て。本来ならヒュドラの毒ですでに死んでいたのだ、この娘は。まだ息があるのは生きようともがいた結果だ。本来なら使えるはずのない魔術を使ってまでな。だから俺はこの娘を死なせるわけにはいかない。死ぬまで力を貸してやる約束だから」
ミズキは右手を左腕のあった場所に持って行くと力ある言葉を紡いだ。
「我が体の片鱗よ。元の姿に戻るが良い」
流れ出た血や、爆散した塵芥同然のリータの一部だったものが淡く光を帯び、溶解しながら左腕を形作っていく。
まるでマグマの様な熱を発しながら左腕が出来上がる。
「ふう、これで大丈夫だ。熱を下げるために水を掛けてやると良い」
ティアは腰にぶら下げていた袋から水袋を取り出すとリータの腕に掛ける。
「リータ、良かった。ホントに良かった」
安心した表情でティアは言う。目尻には涙が貯まっていた。
その様子を見ていたミズキは最後に呟いた。
「この娘を殺すのは、お前かもしれんな」
「えっ? いま何て?」
ミズキは目を閉じると、それきり出ては来なかった。




