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4-3

「さあ、今日でこの依頼外の任務を終わりにするわよ!」

「やってやるのです!」

 ティア姉とシルヴィが、スケルトンゴーレムを倒し終えた後に出現した階段の前で叫んだ。

 ティア姉はいつものことだけれど、シルヴィが叫ぶのは珍しい。

 それだけイントの仕掛けたゲームに対する意気込みがあるのだろう。

 幅も広ければ長さと高さも凄い階段を上り終わると、一階と同じような場所に出た。

 全員が登り終わると階段が無くなり床になる。

 もう、後戻りは出来ないと言うことだ。休んでから来て心底良かったと思う。

 セキュリティの解除装置の石柱が立っていたけれど、リータ達に関係ないのは分りきっていた。

「下と同じなら、この線を越えると敵が出てくるのよね」

 言いながらティア姉は線を越える。

「認証を行なってください。認証が無い場合は対象を排除します。一〇、九、八――」

 下の階で聞いた声が同じ事を言うと、奥の方で魔方陣が輝き出す。呪文の詠唱者も無く魔方陣を起動出来るのはレイラインだからこそだろうか。少なくともミズキは知らないらしい。

 魔方陣の中は黒く濁り、何かが形をなそうとしていた。

 光を失った魔方陣の中にいたそれは、とぐろを巻き、鎌首をもたげている蛇だった。

 ただし、頭が九つあったが。

「あれはヒュドラだな。お前ら、毒に気をつけろ。吐き出す息にも毒が含まれているから布地を顔に巻いておけ」

 ヤスカの指示に従い、持っていた布地で口と鼻を覆う。

 ヒュドラが毒気をまき散らしながら蠢き始めると、こちらに向かって移動を始めた。

 首そのものは直径二〇センチくらいなものの、胴体は二メートル程もあり、全長は三〇メートルくらいはあるだろう。

「わたしとヤスカでやる。シルヴィは援護してくれ。ティアとリータはそこにいろ。お前たちでは相手にならん」

 アイリは指示を出すと、ヤスカと共に駆け出した。シルヴィは防御の力ある言葉を唱える。

「守れ、防壁!」

 シルヴィが左手を突き出すと中指にはめられた指輪が黄色く光り始める。するとヒュドラの前に光の盾が現れた。突然現れた光の盾にヒュドラはぶつかって止まった。

 何が起きたのか分らず反応が遅れたヒュドラ目掛けてアイリの刀が一閃するとヒュドラの首が切り飛ばされる。

 ヒュドラに防御力はほとんど無い。

 それでも恐れられているのは、その驚異的な再生能力の為だ。

 斬った筈の首は僅かな時間で二倍になって復活する。その数は最大一〇〇本にもなると云われている。

 つまり斬れば斬るほどヒュドラは強くなっていくのだ。

 しかし、アイリの斬撃が止まることはなかった。

 次から次へと首を切り落としていく。その速度はヒュドラの再生力を上回り、生えてこようとする瞬間には刀が一閃している。

 その中で首達の一番後ろに下がり、八本の首達に守られていた中心の首が姿を現した。

 目と目の間に宝石が光っているが、アイリの刀はそこまで届かない。

「ヤスカ! 止めを!」

「おう!」

 ヤスカは背後に回りヒュドラの背に飛び乗ると剣で中央の首を薙ぎ払った。

 宝石の付いた首が宙を舞うと、その首から再生を始めていた。

 床に落ちた首が動きだそうとする前に、シルヴィの力ある言葉が紡がれた。

「岩石にて、潰れろ!」

 左手の薬指にはめた指輪が赤く光ると、ヒュドラの首が見えない岩石に潰され、額の宝石が砕け散る。

 それきりヒュドラは動かなくなった。

「……終わりか?」

 刀を構えたままでアイリは呟いた。

 次の瞬間、別の場所で魔方陣が輝き出す。しかも二カ所でだ。

 一カ所はアイリとヤスカの近く、もう一カ所はリータ達の近くだった。

「まずい! シルヴィ防御していろ!」

 アイリは叫びながら近くに出現したヒュドラ目掛けてヤスカと共に掛けていく。

 出現したヒュドラの動きは速い。すぐにリータ達の目前へと近づいてきていた。

 シルヴィは力ある言葉を紡ぐ。

「守れ、防壁!」

 人差し指の指輪が黄色く輝くと、前面に光の盾が現れる。

 リータは剣を抜いて構える。絶対にティア姉だけは守る覚悟だった。

 ヒュドラは光の盾にぶつかると、動きを止めること無く盾を回り込もうとしてくる。

「守れ、防壁!」

 小指の指輪が輝くとヒュドラの進行方向に光の盾が現れるけれど、ヒュドラは身を起こして乗り越え始めた。そのままシルヴィ目掛けて牙をむき出しにした首が襲いかかってくる。

 噛まれるすんでの所でティア姉がシルヴィに飛びかかり、猛毒の牙から逃れた。

 しかし、床に転がった衝撃で呪文が解けてしまい光の盾が無くなってしまった。

 ヒュドラは床に転がっているティア姉とシルヴィを()め付けると一瞬動きが止まった。

 その隙にリータはヒュドラの背に飛び乗ると、宝石の付いた首を見つけ出す。一番後ろに隠れるようにしていたのですぐに分った。

 リータは剣を振りかぶると、それに気づいた首が一つリータ目掛けて襲ってくる。

 リータが首を刎ねるのと、リータの左腕に牙が突き刺さるのは同時だった。

 リータはヒュドラの背から落ちながらシルヴィの呪文を聞いた。

「岩石にて、潰れろ!」

 リータは噛まれた左手を見ると大きな穴が四つ空いており、自分がこれから死んでいくのを悟る。

 取り敢えずティア姉を守ることは出来たのだから満足だ。

 死体はきっとミズキが有効活用してくれるに違いない。

 リータは死ぬ。リータは死ぬのだ。

 こんなところで? 中途半端にティア姉を助け、リータはそれに満足して死んでいく。

 …………嫌だ。まだ嫌だ。

 まだティア姉と一緒に居たい。一緒にやりたい事がいっぱいある。

 こんな所で死んで満足なんてするものか!

「腕よ、()ぜろ!」

 リータが力ある言葉を紡ぐと左腕が跡形も無く爆散する。

「うあああぁぁぁあぁあ、ぐっああぁぁぁあぁあぁぁあああ」

 激痛が全身を襲う。何も考えられない。何も見えない。何も聞こえない。

 ただ、痛みだけがそこにあった。

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