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パンとスープという簡単な夕食を食べ終わると、ティア姉はうんざりしたような様子で言う。
「ほら嫌な予感が当たったでしょ。あんなのが後何階分あると思う?」
聞かれても答えづらい質問だった。
少なく言って多かったら落胆するし、多めに答えたら今落胆するだろう。
「考えても仕方あるまい。明日は楽に登れるように祈っておくことだな」
アイリは言うと、もう横になって眠り始める。流石に疲れているのだろう。
リータも、もう眠くて仕方がない。
「しかし、イントって魔術師も何考えてるのかね。こんな場所にあんな物作って。常人の考える事じゃねえや」
ヤスカの愚痴に心の中で同意していると、シルヴィが眠そうな声で言った。
「たぶんですけど、遊んでいるのだと思うのです。イント=デゲルホルムは数々の魔道具を発明していますが、多くは遊び道具として作っていたそうなのです。だから、これも遊びの一環なのだと思うのです」
「命がけの遊びね。良い趣味してやがる」
「多くの魔術師は人の驚く事を娯楽にしているのです」
それきり誰も話さなくなると焚火の弾ける音だけが周囲を支配した。
いつの間にかティア姉も眠っている。
ヤスカは起きているのか眠っているのか分らない姿勢で黙っていた。
その静寂に耐えられなくなりリータは話しかける。
「シルヴィさん、もう眠りましたか?」
「……何か用なのです」
「シルヴィさんとアイリさんはエルフですよね。どうして弓矢を使わないのですか」
「……それは…………」
それきりシルヴィは黙ってしまう。
リータは諦めて眠ろうとした時に答えが返ってきた。
「アイリ姉さんの片目が見えなくなったのは、わたしの撃った弓矢が原因なのです。それ以来アイリ姉さんは身体的に、わたしは心理的に撃てなくなったのですよ。後は……想像に……任せるで……す…………」
シルヴィは力尽くように眠りに落ちていった。
リータは聞くべきでないことを聞いてしまったような気がして心がざわついた。




