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冷却の魔道具の上は風が強かった。
神殿風の建物には壁が無く、円柱のみで上階を支えているので、山に吹く横風がそのまま通り抜けていく。
あちこちに剣と盾と白い骨のような物が置いてあるのが気になった。
転送の魔方陣の横に腰ぐらいの高さの四角い柱が立っていた。
シルヴィが見てみると調べるまでも無く正体が分った。
「セキュリティの解除装置って書いてあるのです。ヤスカは解除方法分るですか」
「魔術の類いじゃ分からなぇな」
「強行突破しかないって訳ね。良いじゃない。何が来たってこのメンバーなら楽勝よ」
放熱の魔道具のセキュリティが簡単だったので、今回も楽勝だろうとティア姉は思っているらしい。
「さあ行くわよ」
先陣を切って歩いて行くティア姉だったけれど、床材に刻まれた一本の線を越えたところで事務的な女性の声が響いた。
「認証を行なってください。認証が無い場合は対象を排除します。一〇、九、八――」
数字が少なくなっていくごとに、白い骨のような物が徐々に高くなり、人の形をなしていく。0になった時には完全体が出来上がっていた。
骨だけの人型は、スケルトンという名のモンスターだった。
片手に長剣を持ち、もう片手には盾を持っている。
そして額には小さな宝石が光っていた。
「あれって、明らかに額が弱点よね」
ティア姉は身も蓋もなく言った。
宝石で操られているのならスケルトンゴーレムと呼ぶべきか。
問題は弱点ではなく、その数だろう。全体で一〇〇体はいそうだ。
「アイリ姉さん、時間稼ぎお願いしますです」
シルヴィはそれだけ言うと柱に寄りかかって眠り始めてしまう。
何回もの転送魔法でよほど疲れていたのだろう。
「ああ、よく休んでおくのだぞ」
アイリはそう言うと刀を二本抜いた。続けてティア姉とヤスカも抜刀する。
リータが遅れて抜刀している時にはすでにアイリは走り出していた。
アイリとヤスカは複数体を相手に善戦していたけれど、リータとティア姉は一体ずつを相手にするので精一杯だ。
一体を相手にしている時にもう一体近づいてきたら、すぐ逃げ出さなくてはならない。
けしてスケルトンゴーレムが強いわけでも、リータとティア姉が弱すぎる訳ではない。
リータはミズキから剣術を習っていたし、ティア姉は軍を引退した元将軍という本当か分らないけれどそれなりに強い人に師事していた。
厄介なのは思っていたよりも盾の扱いがうまいことだった。しっかりと弱点の額を守ってくる。
「ティア姉、リータが足を払いますので、とどめをお願いします」
思い切り足の骨に向かって剣を振りかぶると盾で防がれる。しかし、筋肉のないスケルトンゴーレムの力は弱い。思いのほか簡単によろめいた。
その隙を逃さずにティア姉が額に向かって剣を振り下ろすと宝石の場所に当たり、骨と宝石が分離される。
するとスケルトンゴーレムは力を失ってバラバラに崩れ落ちていった。
しばらくはそのパターンで戦っていたけれど、流石に疲れてきた。どうしても逃げまわる時間が増えてペースは落ちていく。
それにくらべてアイリとヤスカは的確に宝石を砕いていき、着実に数を減らしていった。
アイリはシルヴィを庇いながらなのに、そんなことを感じさせない戦い方だった。
最後のスケルトンゴーレムを倒すと神殿の奥に光が差し、無かったはずの階段が現れた。
しかし、すでに周囲は山の影が濃くなり始めており、それに流石にもう体力的にも精神的にも限界だった。
リータ達はシルヴィを起こし、いったん教会のような建物に戻るしかなかった。




