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サウル王に結果を報告すると、約束通り一五〇〇マルカと通行許可証をくれた。
ただし、本来、通行証明書は必要のない物だ。
しかし、その通行証明書にはおまけが付いていた。
南門の工事車両しか通さない簡易道路を通してもらえるのだ。
早速その恩恵にあずかり、リータ達は朝一番に幌馬車でオウルを出発した。
「さむい! 寒いわ! なんでこんなに寒いの」
街を出るなりティア姉が騒ぎ始める。
「雨が降っていて、もうすぐ冬だからですよ。ティア姉」
街の中が三〇度を超えていたのもあって、冬の始まりを告げる風と雨の混ざり合った温度は拷問に近かった。急いで冬着を取り出し重ね着していく。
カーテンウォールから一キロも走ると先日の虐殺の後がはっきりと見えてくる。
草木は消滅し、土は捲れ、爆心地には大きな穴が空いている。
なんとかクレーターの縁に道を通し、馬車一台が通れるだけの道を確保していた。
これからきれいに整地して道を通す苦労と費用を考えると心苦しく感じる。
しかし、この犠牲があったからこそティア姉とオウルが無事だったと考える事でなんとか耐えることが出来た。
簡易道路を抜けると何百台という馬車がオウルに入れなくて行列を作っていた。
それらを横目に進路を東に向ける。帰りも山越えのルートを通るためだ。
それにしても、馬車に揺られていると眠くなってくる。
決して乗り心地がいい訳ではないのに不思議だ。
「リータ寝ちゃ駄目。寝たら死ぬわよ」
ティア姉が頬を軽く叩いてくる。
リータが眠りそうになると必ずやってくる冗談だった。
「それにしても難しい依頼じゃなくて良かったわよね。これで三〇〇マルカづつって、結構おいしい依頼だったんじゃない」
ほくほく顔でティア姉が言う。
一五〇〇マルカは現物では無く証券で貰った。
証券とは各国の証券引換所で現金化できる文書だ。
内容は魔道具で書かれているらしく、専用の魔道具で無ければ読めないらしい。
これで重い金貨を持ち歩かなくて済むのだから便利だ。
「おいしいなんてものではありませんよ、ティア姉。数年は遊んで暮らせるほどです」
リータは訂正をしたけれど、ティア姉にはどうでも良いことだったようだ。
「ねー、復旧で台所も苦しいくせに、よくだしたわよね」
ティア姉が感心しているとアイリが言った。
「それだけ重大事だったって事じゃないのか」
「もう勇者からの取り立てなんて良いんじゃないの」
ティア姉が言うと、アイリとシルヴィに否定された。
「金額が違いすぎる」
「お金よりも約束が大事なのです」
流石は契約を最重要視するエルフだった。
「俺は半分諦めてるけど、もらい損ねるにはでかい金額なんだよな」
一人御者台で馬を操っているヤスカが言った。
レインコートを着ているとはいえ、寒くて厳しい環境の筈なのに、文句一つ言わずに馬を操っている。
「おっ、雨が弱くなってきた。そろそろ止みそうだぞ」
ヤスカのいうとおり、雨の勢いは大分弱くなっていた。右手の方に雲の切れ間が見えた。
もう少しすれば、鬱陶しかった雨とも別れられるかも知れない。




