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2-6

 部屋の中はシンプルだった。

 奥の壁にテーブルが置かれ、砂時計のような物が二十個ばかり置いてあった。

 そして部屋の中央には虹色に輝く球状の物体が浮かんでいた。球状の物体からは幾筋もの光が水平に近い角度で出ており、部屋をぐるぐると回っている。

 テーブルに近づいて見ると砂時計のような物はホコリが積もっており、台座部分に表示札らしきものが見て取れる。ホコリを指で拭うとシェレフティオ標準語で「温度」「湿度」「速度」「間隔」「冷却基変動数」などと書いてあった。どうやら計測器らしい。

 計測器は明らかに誰にでも分るようになっており、魔術師イント以外の者も操作することが考慮されているようだった。

 シルヴィが飛び跳ねる勢いであちらこちらを見たり、触ったりしていた。

 リータには派手な照明がある平凡な部屋に見えるのだけれど、シルヴィにとっては全てが光り輝くお宝の部屋に見えるのだろう。

 放っておくとずっと観察しそうなので、流石にアイリが止めに入る。

「シルヴィ。どうだ、分りそうか」

「はいなのです。すごいですよアイリ姉さん。基本構造は単純な魔方陣を組み合わせて、複雑で正確な制御をしているのです。こんな方法があるなんて勉強になるです」

「それで、ここが制御室で間違いないのだな」

「間違いないのです。この球体でレイラインを複数に反射させてリングを動かしているのですね。こんなこと思いつくなんてすごいです」

 一人で納得しているシルヴィに頓着することなくティア姉は言った。

「じゃあ、止め方も分るのでしょ。早く止めちゃいましょうよ」

 しかし、シルヴィは戸惑う様子だった。

「止めるのは出来るです。でも、止めたらもう動かせないのです」

「何言ってるの。わたし達は止めるように依頼されたのよ。動かすことなんて考慮する必要ないじゃない」

「でも、もったいないのです。これほどの魔道具は二つと無いのですよ」

「それじゃあ、止める以外の方法はあるの? 出力を弱めるとか」

「やってみるです」

 シルヴィは球体の前に立って両手で挟み込む様な体勢をとると、両目を閉じて何かを呟く。エルフ語だろうか、聞き取ることさえ難しい言葉だった。

 シルヴィは目を開けると、残念そうな様子で言った。

「駄目なのです。今の時点で出力はもっとも低くなっているのです。これ以下は止めるしか方法がないのです」

「じゃあ、止めてちょうだい。それが依頼よ」

「…………分ったのです」

 シルヴィは再び目を閉じると何かを呟いた。

 ほんの一瞬、光が暗くなり元に戻る。

 失敗したのだろうか。何も変わった感じはしない。

 シルヴィは光球から離れると悲しそうに言った。

「終わったのです。後は数日掛けてゆっくり止まっていくのです」

「よくやったシルヴィ」

 労るようにアイリがシルヴィの肩を抱きながら声を掛ける。

「そうよシルヴィ。大丈夫。また必要になったら、もっとすごいのをシルヴィが作れば良いんだから。こんな三〇〇年も前のポンコツなんかよりね」

 簡単そうに言うティア姉の凄いところは、本気でそう思っているところだ。

「気楽に言ってくれるのです」

「あら、シルヴィなら出来るでしょ?」

「……そうです。わたしなら、もっと凄いの作ってみせるのです」

 そう言うとシルヴィは部屋の物色に戻っていった。

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