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運がいいだけの偽物勇者  作者: 麦瀬 むぎ
第一章 偽物勇者誕生
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カルアとトメィトゥとドドングリと偽物の装備

チャトラとの死闘?を乗り越え、シャンスとチャトラは王国に戻ってきた。

そしてあのトメィトゥを売っているカルアの店へ向かう。


「なんでこんな不味いもん売ってるやつがこんないい場所の許可証持ってやがんだ!??」


市場に響く怒声を聞き、1人と1匹が騒ぎの中心へと向かう。


「酷いです!私の村の食べ物を悪くいうのはやめてください!」


商人らしき中年の男性とカルアが言い争っていた。


「このトメィトゥなんか食えたもんじゃねぇ!酸っぱいだけで甘さなんかちっともねぇじゃねぇか!」


商人がトメィトゥを地面に投げ、トメィトゥは無残にも潰れてしまった。


それを見ていたチャトラが商人に向け殺気を放つ。

小さくなっているとはいえ、その実力はレベル30のダンジョンの管理者のもの、商人の心を折るには十分な殺気だった。


「ひっ…ゆ、勇者様!そちらの生き物は?」


「ああ、うちのチャトラがすまない。そこのカルアが作るトメィトゥが大好物なものでね。」


「チャトラはシャンスのじゃなっ…んぐっ」


喋りかけたチャトラの口をシャンスが塞ぐ。


喋る生物など魔獣と思われても仕方がないのだ。まぁ事実なんだが。


「カルアの通商許可証は私が役人に言って出してもらったんだ。私もカルアのトメィトゥが好きなものでね。」


勇者が言葉の最後とともにチャトラの殺気を真似ると商人の顔が引きつる。


「そ、そうだったんですね…勇者様が許可されたのであれば私からは何も言うことはありません…失礼します…」


中年の商人は怯えながらその場を後にする。


「役人が言っていた通り許可証は貴重なものなんだな。」


「シャンス!早くトメィトゥをおくれよ!こんなにたくさん!!!」


目の前の大量のトメィトゥを見て、チャトラが小声ではしゃいでいる。


「ほんとに魔獣かよお前…」


「あのっ、勇者様。また助けて頂いて、本当にありがとうございます!」


カルアが駆け寄ってくる。


「ああ、君のトメィトゥが恋しくなって探してたんだ。この子もだけど。」


「にゃあー」


口を塞いだだけでシャンスの心を読み取り、喋るのをやめたチャトラがあざとく鳴く。


「わぁ!かわいい!!触ってもいいですか??」


「いやっそれは…」


少なくともチャトラは魔獣なので危険じゃないと保証はできない。

本当は肉食獣で多くの餌がある王国にシャンスが連れてきてしまった。

なんてこともあるかもしれない。


そんなシャンスの思いを他所にチャトラがカルアの肩に飛び乗る。


「わぁ!!もふもふ!!ふわふわ!!」


「にゃあー」


むっちゃ媚び売っとるやんけ…

カルアに撫でられながらカルアの頬に頬ずりするチャトラ

羨ましい…代われ。



「それで、勇者様。私のトメィトゥ買いに来てくださったんですか?2度も助けて頂いたのでお安くしますよ。」


「助かるよ。じゃあ15個ほど貰おうか。」


「分かりました!じゃあ大幅に割引して…1ドドングリで大丈夫ですよ!」


「いいのかい?じゃあお言葉に甘えるとするよ。」


シャンスは懐からドドングリを1つ取り出し、カルアに渡した。


コウン王国の通貨は王国の地下にしか生えないドドングリの木から取れるドドングリという木の実で、その価値は1ドドングリで日本円で1000円ほどである。


トメィトゥを紙袋に詰めてもらい、1つをチャトラに渡した。


「わぁい!この体の大きさなら1個でお腹いっぱいになっちゃうよ!」


シャンスの耳元でチャトラが嬉しそうに囁いた。


「ところで、カルアさんのトメィトゥ、とっても美味しいと私は思ったんですけどね。許可証を羨ましがった商人の嫌がらせですかね?」


「それが…ここの王国の人達はトメィトゥが酸味しかないと…」


「え?とっても甘いはずなのに…」


「不思議ですよね。私もこのトメィトゥはすごく甘くて大好きなんですけど。昨日から全く売れてないんです…」


俺たち3人。いや2人と1匹の味覚がおかしいのだろうか。


「それで、トメィトゥが売れるのを見越してなけなしのお金で王国まで来たんです…トメィトゥが売れないと村にも帰れないしどうしようかと思ってたんです。」


「そうだったのか…そのトメィトゥ、私が買っても問題ないかな?」


「ほんとですか?でもこれ全部だと50ドドングリじゃ足りませんよ??」


「うっ…」


シャンスには勇者から受け継いだドドングリの貯金と毎月王国から入る給料があるが、それをもってしても50ドドングリはきつい…毎日の食事がトメィトゥになるのもずっとは苦しい。


「何か他に手伝えることはないのかな。」


「っ!!それでしたらさっきお客さんから聞いたんですけど『いにしえの森』の奥にとっても甘い果実ムンゴーがあるらしいんです!!でもいにしえの森にはエンシェントフラワーがたくさん咲いていて…1人では攻略が難しそうなんです。奥にはエンシェントタイガーもいるし…」


カルアさん、エンシェントタイガー、俺の肩に乗ってますよ。


「確かに女の子1人じゃあそこは危ないな。」

さっき1人で死にかけたシャンスである。


「勇者様さえよかったら、私とパーティを組んで一緒に攻略して下さいませんか?私、商人ですけど、少しは魔法も使えます!!状態異常も回復できますよ!」


カルアの姿からして魔法使いそうだなとは薄々思っていた。背中にルビーがはまった杖もあるし。


「状態異常が回復できるのなら楽勝そうだね。よし、行こうか。」


エンシェントタイガーは俺が連れてきちゃったしね。


「ねぇシャンス、また森に戻るのかい?それにムンゴーはとっても不味くて食べられる果実じゃないよ。」


チャトラがシャンスに耳打ちする。


「俺もムンゴーの話だけは聞いたことがある。オレンジ色のとっても甘い果実だと。『いにしえの森』の難易度が高くてあんまり市場に出回らない果物だからな。それにもしかしたら俺たちの味覚が皆と違うのかも…」


「まぁチャトラはトメィトゥが食べられるならシャンスについて行くさ!」


トメィトゥをもう少し買っておこうと思ったシャンスであった。


「それじゃあ、今日はもう日が暮れてきたので、明日の朝、門の前にあるヨハン像に集合しましょう。」


ヨハンは何百年か前に王国に力を貸した大賢者と呼ばれている存在である。


「そうだね。じゃあまた明日。」


カルアと別れ、チャトラと一緒にヤスンデッ亭へと戻る。

「シャンスは勇者なのかい?僕と戦っている時はそんな雰囲気全くなかったのに。」


「えっ??ああ…えっと…」


「そうか、本物の勇者は死んだんだね。それで勇者の代わりをシャンスがやっているみたいな感じか。」


ふいにチャトラが確信をついてきた。

知られてしまった。自分が勇者でないことを。


「勇者がいないと住民がパニックになる。そこでシャンスが新しい平和の象徴として選ばれたんだね。でも強さまでは真似できないからダンジョンに力をつけに来た。そうだね??」


淡々とシャンスの嘘で塗り固めた勇者の壁を引き裂いていく。


シャンスは観念して、チャトラに経緯を話した。


「でも勇者の鎧と剣は勇者補正で装備できたんだ!前の俺よりは強くなっているはずだ!」


「勇者の鎧?剣?それが今着ている装備のことなら、間違いだよ?」


「えっ?」


「なんか魔力は感じるけど弱いし…勇者の装備みたいな特殊な力は微塵も感じられない。」


「偽物…?」


そんなはずはない。とシャンスは言いたかったが、昨日までは着れるはずのなかった装備が寝て起きたら装備できるようになってました。なんてことは普通はない。


だからこそ勇者補正が寝ている間に入り、装備出来るだけのステータスになったのだと勘違いし、意気揚々とダンジョンへと向かったのだ。


それが勘違いならば、レベル3でレベル30のダンジョンに入ったただの自殺志願者である。


「この装備の魔力の持ち主は、昨日君の部屋に扉から入って、屋根裏から出ていったみたいだね。」


「そんなことまで分かるのか??なんで扉からきたのに屋根裏から??」


どうでもいいことが気になるシャンスの悪いところである。

「…っ!そんなことより…勇者の装備を…盗まれた…??」


大変なことだ、あれがないと魔王に打ち勝つなど不可能だ。いや、今現在の状態なら絶対不可能だが。


だがそうなると困るのは明日のカルアとのダンジョンだ。


装備が偽物ならシャンスはただの運がいい村人である。

勇者でないことがカルアにばれてしまう。

頭を抱えるが打開策も出ぬまま睡魔に負けてしまい。シャンスはふかふかのベッドで意識を手放した。




「なんだか面白いことになってるね。しばらくは君のそばにいるとするよ。」


暗闇に光る翡翠色の瞳がすぅっと閉じて朝を迎える。


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