新しい仲間とありがとうトメィトゥ
魔獣に両腕を押さえつけられたシャンスは、魔獣の姿をまじまじと見ることができた。
全身を茶色の毛で覆い、虎のような黒い模様がある、魔獣特有の1本の角が生えており、翡翠色の鋭い瞳をシャンスに向けている。
「あの芳醇な果実はもうないのか?とても美味だった。もっとくれ。」
魔獣が喋った。
とても低く、威圧感のある声で。
「喋るの??えっとさっきのトメィトゥ…のことかな??」
「そうだ。あれほど美味な果実はこの森にはない。我はベジタリアンなのでな、あのような果実には目がないのだ。」
嘘だと思った。見た目が超絶肉食獣のそれである。
サバンナとかの平原でインパラとかヌーとかを追いかけて食べる肉食獣である。
「とか言って油断した所をガブリですよね??分かります。」
「血なまぐさい肉は好まんのでな。ただこの森の侵入者は排除するのが我の役目だ。だがあの果実がまだあるのであれば、我はその役目を放棄する。」
「えっと…トメィトゥは…もうさっきあげたのが最後で…」
魔獣の牙がシャンスの首に近づいていく。
「ちょっ…ちょちょちょっ、ちょっと待った!!!このトメィトゥなら王国に戻ればいくらでも手に入る!だから待ってくれないか?」
「ほう。このままお主を逃がせと?トメィトゥ…とやらをお主が持ってくる保証がどこにある?」
「…っ、それは…」
シャンスがなんとかこの場を乗り切ろうと頭を回転させようとした時。
「…では我も同行しよう。我も王国とやらに行くとする。」
ん???
よほどトメィトゥが気に入ったらしいこの魔獣は尻尾をふりながらシャンスを見つめている。
「その…役目とやらはいいのか?」
「ふん。我は森に生まれた瞬間にこの森を守れと言われただけで、ただ行くあてもないのでここに居るだけの事、誰の言うことも聞かん。」
「でもお前みたいな姿の魔獣が王国を普通に歩けるわけないだろう??大騒ぎになってトメィトゥどころじゃなくなるぞ??」
シャンスの意見は正しい。人間の3倍ほどある魔獣。人々はパニックになるだろう。
「ふむ。人間というものは脆弱な存在よの。仕方がない。」
ため息をつくと魔獣は光を放ち、みるみる小さくなっていった。
光が収まり、その中心には
「この姿なら問題ないよねっ」
魔獣とは決して思えないネコ科の生物がそこにいた。
茶色の体毛に黒い縞々模様で、くりくりっとした翡翠色の目は、先程までの迫力はまるでない。
「さっきの魔獣なのか…??」
「そうだよ!体の中の魔力を抑えて小さくなったんだよっ」
「喋り方変わってんじゃねぇか…さっきの偉そうな喋り方はやめたのか?」
「ああ喋った方が迫力が増すからね!この姿であの喋り方しちゃうと好感度下がっちゃうじゃん?」
「好感度とか言うなよ…とにかくそっちが素なんだな?」
「もっちろん!さ!早いとこトメィトゥとやらを僕に食べさせてよ!!」
なんだか可愛く思えてきたこの生物。さっきまで食べられそうだったのに…
「お前名前はあるのか??」
「名前??んー個体名ならエンシェントタイガーってのがあるけど、今の僕にはかわいくない名前だね。そうだ!君が名前を付けてよ!」
「名前か…茶色いし、虎みたいだし…チャトラはどうだ?」
「うん!!いいね!かわいい!それなら僕のグッズが販売されても大人気間違い無しだよ!」
「グッズとか生々しい話すんな!気が早い!!俺の名前はシャンスだ。よろしくなチャトラ。」
「シャンス!よろしくにゃん!!」
「あざといな!?今つけたろその語尾!」
チャトラはシャンスのツッコミに応じず、ピョンッとシャンスの肩に飛び乗る。
思わぬ所で思わぬ仲間ができてしまった。
それも魔獣の。
協力体制となったシャンスとチャトラは、『いにしえの森』を抜け、王国へと戻るのであった。
チャトラを肩にのせ、帰り道を歩くシャンスは心の中でこう叫んだ。
トメィトゥ!!ありがとう!!
早速サブタイトルの〇〇と〇〇との縛りを破ってしまうさのです。
昨日初投稿して閲覧数が100を突破しました。ありがとうございます。どんどん自分の中で浮かんだものを作品にしていけたらと思います。