運がいいだけの偽物勇者。
「こら!まだ剣の稽古終わってねぇだろうが!」
「やだー!!チャトラと遊ぶのー。」
父親を振り切り、チャトラを追いかける赤髪の幼い少年。
イグニスが封印されて10年が経った。
「あっ!!」
父親が声を上げたが遅かった。
少年は盛大に転び、雨が降った後に残っていた水たまりに顔から突っ込んだ。
「う…うぇぇぇぇぇぇ…おとうさぁぁぁぁぁん。」
「まったく…運の良さは遺伝しなかったなぁ。」
少年の父親。シャンスが泥だらけになった少年を抱き起す。
「ケガは?」
「うぇぇぇぇぇ…右手と左手と右足と左足と頭と顔が痛ぃぃぃぃぃ…うぇぇぇぇ…」
少年の全身に切り傷が出来ていた。
「ケガの報告精密すぎん?そしてどう転んだらそれだけケガするんだよ…」
「本当に運が悪いよねぇ。…フォンスは。」
チャトラが気の毒そうに泥だらけのフォンスを見る。
「ご飯ですよ…って!?フォンスまた転んだんですか!?」
フォンスと同じ赤い髪をした女性が駆け寄ってくる。耳には黒いクリスタルを模したピアスがはめられている。
シャンスからフォンスを受け取り、泥を手で取る。
「もう。本当お父さんに似てるのは目だけですね。」
カルアがフォンスの顔についた泥を取りながらつぶやく。
灰色の瞳を震わせながらフォンスがカルアに抱き着く。
「ああ!!こら!!私まで汚れ…もう…一緒にお風呂に入るからご飯もう少し後でも大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。その間に親父に挨拶してくるわ。」
そういうとシャンスはフォルスの墓がある丘へと歩いていく。
フォルスの墓の前で膝をつき、シャンスが話し始める。
「父さん。フォンスも剣より遊びが楽しいみたいだ。男手一つで俺を育てた大変さが今なら分かるよ。カルアと二人…いや、チャトラと三人じゃないととても無理だ。」
近況を報告しに来たのにだんだんと愚痴になってきているシャンス。
「でも。カルアと一緒になって、チャトラと三人で住み始めて…フォンスが生まれて…俺は…」
シャンスが息を吸って父親に話しかける。
「あんたが残した馬鹿息子は、今とっても…これ以上ないくらいに幸せだよ。父さんも…そうだろ?」
シャンスに向かって風が吹く。
その風が、フォルスが答えてくれたような気がした。
シャンスは歩き始める。カルアとチャトラ。フォンスが待つ家へ。
最近寒くなってきましたね。さのです。
これにて「運がいいだけの偽物勇者」完結とさせていただきます。
初めての執筆でダメな部分や誤字などが目立ちましたが、面白いとの声をいただき、ここまで連載してこれました。本当にありがとうございます。
終始走り書きのようなテンポだったので次回作はゆっくりと考えて投稿していけたらと思っています。
ここで!次回作の宣伝をさせてください。
「ALLEY THIRDS-路地裏の三人組-」
法律が無くなり、食材、物を独占して流通する企業。それをよく思わない他の企業が殺し屋を雇う。独占する企業はそれを阻止するために殺し屋を殺す殺し屋を雇う。
それが当たり前になった世界で都市郊外の路地裏にある小さな殺し屋事務所。
そこで働く詐欺師。銃の使い手。天才ハッカーの三人組の物語。
です!!
二作目ということでしっかりとストーリーを考えて投稿しようと思っているので、投稿頻度は落ちると思いますが、よければご覧ください。
そのうち偽物勇者の続編も書けたらなと思ったりしています。
というわけで。ここまで読んでくださってありがとうございます。




